70:絶望を知り、希望を託します。
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遠くの轟音を聞きながら、因幡は腫らした目を閉じた。
(男鹿と藤が戦ってるのか…。オレの役目は、本当にここまでのようだな…)
シロトの力で石化は他の者よりもゆっくりと進行していた。
いよいよ完全な石になるのかと思った直後、頭部までのぼってきた石化が突然止まった。
「!!」
次の瞬間、ピシ…ッ、と石と化した腕に亀裂が生じた。
それから鱗のように肌の石が剥がれ始める。
「これは…?」
指も動かせた。
立ち上がった因幡は、目の端に映ったものにはっとし、そちらに振り返る。
石化した姫川達から黒い霧が漏れて宙に飛び去ると、そこには石化が解けた姫川達が茫然と立っていた。
「あ? オレ、石になったはずじゃ…」
元に戻った自身の体を不思議そうに見る。
「何があった…」
「姫川!!」
「因幡ゴフッ!?」
嬉しさのあまり因幡は勢いをつけて姫川の胸に飛び込んだ際にロケット頭突きを食らわせ、押し倒してしまう。
「元に戻ったんだな!? 息してるか!? 感覚ある!?」
「息は止まりかけた…」
仰向けに倒された姫川は呻き声を出した。
赤星は、同じく元に戻った鷹宮と奈須に駆け寄り、石化の際に折られた腕を持って2人の体に元通りくっつけようとした。
「切断面はキレイなもんだ。魔力でくっつけばいいが…」
「プラモみたいで嫌だっちゃ」
文句を言いながらも奈須は自分の腕をくっつけようとする。
「―――けど、なんで突然石化が解けたんだ?」
姫川を起こした因幡が呟くと、シロトが答える。
“おそらく…、サタンが石化にまわしていた魔力を回収したのだろう。まだ終わっておらん。すべての力を一撃に込める気じゃ…”
「―――ってことは…」
(男鹿が、サタンを追い込んだのか?)
学校のある方向に振り返ると、驚愕の光景が広がっていた。
「おい、あれ…!!」
姫川達に声をかけ、そちらを指さす。
「「「「!!」」」」
空高く、雲を突き抜けるほどの大量のゼブルエンブレムが展開していた。
唖然とした顔で見上げ、奈須は口元を引きつらせる。
「……っ、冗談じゃねぇ。こんなとんでもねー魔力…、あっても使えねーナリよ…」
「…男鹿…、戻ったんだな……」
同じく空を見上げて呟く鷹宮は、口角をわずかに上げた。
大量のゼブルエンブレムが次々と男鹿のコブシに降り注ぐ。
すべてはサタンを倒す一撃を与えるため。
次に、男鹿の戦いを見守る周りにも変化が起こる。
皆、体の一部に男鹿の王臣紋が浮かんでいた。
強い光を放ち、自身の力がそこに集まるかのように熱くなる。
袖を捲って自身の王臣紋を確認した姫川は、口元を笑わせた。
「あのやろう…。このオレ達から搾取しようってか?」
鷹宮と奈須と赤星にもゼブルスペルが出現していた。
顔を見合わせた3人は、空に手をかざす。
「「「いけぇっっ、男鹿っ!!」」」
遅れて姫川も空に手をかざし、男鹿に力を与える。
「!」
不意に、因幡は自分の右手が熱くなるのを感じ、そのてのひらを凝視する。
そこには、王臣紋が浮かんでいた。
一度コブシを握りしめる。
「オレの役目、まだ終わってねーってことか…」
空を見上げ、因幡は口元に笑みを浮かべて右手を空にかざした。
(コレが出ちまったら、認めるしかねーだろ…。いや…、わかってる…。だいぶ前から…―――)
「勝てっ!!! 男鹿っっ!!!」
それが届かない声でも、希望は託せる。
「「「「「うぉおおおおおおおっっっ!!!!」」」」」
ズン!!!
その衝撃は、石矢魔町を大きく揺らした。
皆の力が集められた男鹿の究極の一撃は、サタンを上回り、サタンを空の彼方へとブッ飛ばした。
辺りはしばらく静寂に包まれ、男鹿の勝利を確信した仲間達は町全体に轟くほどの歓声を上げた。
それは因幡達にも聞こえていた。
「男鹿が…、男鹿が、勝った…!!」
因幡が声を上げると、奈須達の表情は目に見えて明るくなる。
姫川は安堵したように小さく息をついた。
「やったか…」
「お―――い」
「!!」
遠くから声をかけながらこちらにやってくるのは、神崎とヤス、途中で合流した大森だ。
「神崎…」
「神崎ぃ―――!!」
「あ、避け…、遅いか」
「因幡ガハッ!?」
姫川が忠告する前に、駈け出した因幡によって神崎はロケット頭突きを食らい、倒れるはめになる。
「若っ」
「もー、何してんのよ」
「因幡、おり…」
上にのったままの因幡に「おりろ」と言いかけたところで、神崎は目を合わせた因幡の顔を見て言葉を止めた。
大勝利をおさめたというのに、寂しげに笑っていたからだ。
その裏側では、何を思っているのか。
それを知るのは、今から数日後にある卒業間近の日になる。
今は、素直に勝利を喜んだ。
.To be continued