70:絶望を知り、希望を託します。
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(あいつ…、あの時の…!!)
因幡達を乗せた車を真っ二つにした男だ。
男の周りには黒い霧が不気味に漂い、男は起動中の装置に歩み寄り、手を添える。
「……やめろ…。……おい……―――」
男がしようとしていることを察した因幡は、呟くように口にした。
しかし、男が手を添えたところから容赦なく装置にヒビが刻まれる。
「やめろぉぉおおおおっっ!!!!」
手を伸ばし、悲鳴に伴う阻止の声。
それと重なるように装置は爆発音とともに破壊された。
身を挺してでも守った姫川達の希望が、砕かれてしまったのだ。
「こんなところで時間を食うな、藤。同じ罠に引っかかるなど…」
「ああ、悪かったって。けどまぁ、おまえが早めに来てくれてよかった。この状態だと、悪魔憑き2人相手は骨が折れるからな」
「いつまでも私にばかり頼るな。次はないぞ」
「怒ってんのか? サタン」
(―――サタン…!!)
黒コートの男―――サタンの視線が因幡に移る。
「そいつは……」
目を合わせただけで、膨大な魔力が上にのしかかるような圧力を感じた。
冷たい手で胃をつかまれているようで、とめどなく冷や汗が流れ、身体全体が警告を発している。
“桃、何をしておる。逃げろ…!! サタンと、契約者が相手では分が悪すぎる…!! 一度立て直せ!! 聞いておるのか!!?”
あのシロトの警告していた。
(逃げろって……)
じり、と後ろに一歩引き、サタンと藤を交互に見ながら逃げる機会を窺った。
「……………」
そこでふと、男鹿の背中が思い浮かんだ。
この時、男鹿ならどうするか。
「あいつなら…、逃げねえよな……」
“桃!!?”
(みんな、その逃げねえ背中を見てきたんだ。希望は、まだ壊されていない。―――オレも…、いつまで意地になって目を逸らしたフリしてんだ…)
意を決し、また一歩後ろに引こうと浮かした足を、前にやった。
それから不敵に笑い、挑発的に手招きする。
愚かだというように鼻で笑われたが、気にしない。
けっして、間違った選択はしていない自信があったからだ。
「……冷酷兎・因幡桃矢様が相手になってやる」
右足の爪先で、トントン、と軽く地面を叩いた因幡は、サタンと藤に突進した。
たとえ転ぶとわかっていても。
*****
ポタ…、ポタ…、と頭から流れた血が地面に落ちた。
朦朧とする意識の中、藤に首をつかまれ持ち上げられた因幡に抵抗する気力は残っていない。
髪も元の黒に戻っていた。
散々足掻くように戦ったが、サタンと藤には、かすり傷程度しか与えられなかった。
「終了だな。もう諦めろ。石の方が、何も考えなくて楽だと思うぜ? 男鹿が終われば、それがずっと続くんだ」
「終わるって…?」
口元に薄笑みを浮かべ、言葉を続ける。
「終わらねぇよ…。てめーらが、男鹿に…勝てるわけねえだろ…。……ブッ転がされてろ」
「……どいつもこいつも、口を揃えてソレかよ」
「っ!!」
放り投げられ、うつ伏せに倒れる。
「…!」
地に手をついて起き上がろうとすると、両足の感覚がないことに気付く。
足先から徐々にゆっくりと石化しているからだ。
「藤」
サタンが声をかけて歩き出すと、藤もそれに続く。
「待…て……」
脚を引きずってでも追おうとするが、石化する足は酷く重かった。
歩を止めず、藤は肩越しに因幡を見る。
「おまえはここまでだ」
そしてサタンと藤は姿を消した。
「あ……」
殺風景と化した場所でひとり取り残された因幡。
石化した赤星、鷹宮、奈須、姫川に目をやり、とてつもない孤独感に襲われた。
ぎゅっと心臓を握りしめられたようで、元に戻った瞳からは涙が溢れ出る。
「うあああああああ!!!!」
空を見上げ、号泣した。
それが何の涙なのか理解できず。
こんなことなら、一瞬で石にされればよかったとさえ思った。
悔しさで、身体が潰されそうだ。
そんな因幡の様子はなごりのスマホに映っていた。
自室のベッドに腰掛けるなごりは黙って眺め、切なげな笑みを浮かべる。
「……十分足掻いた…。でも、足掻くことは、かっこ悪いことじゃない。逃げることよりも…」
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