70:絶望を知り、希望を託します。
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男鹿を苦戦させた奈須と鷹宮さえも圧倒してしまう藤の力に、因幡達は愕然とせずにはいられなかった。
だが、そうしているヒマもなくなる。
防御したのが仇となり、藤からは因幡達が丸見えだ。
藤の視線が因幡達に向けられる。
「…なるほどな。またあの結界装置を使うつもりだったか…」
「気付かれた!!」
「来るぞっ!! まだか…!!」
因幡と赤星が構えるよそで、姫川は腕時計で残り時間を確認する。
「あと10秒…っ」
スイッチを押してからまだ10秒しか経過していなかった。
「くそっ…、足止めにもなってねーぞっっ!!」
残りわずか10秒。
そのたった10秒が長い。
藤が足をこちらに向けて地を蹴ったとき、石になりかけている奈須の左手が、藤の左足首をつかんだ。
「まだ終わってないナリよ―――」
「フン」
鼻を鳴らした藤はつかまれた左脚を上げた。
すると、奈須の、石となった左腕の肘下が呆気なく折られてしまう。
「――――…っっ」
一瞬の時間稼ぎだった。
「あと5秒…、4秒…」
姫川は腕時計の秒針を読み上げる。
藤が再びこちらに向かおうとした。
だが、石化が進行して意識が遠のく寸前、うつ伏せに倒れた鷹宮は藤の右足首、奈須はシャツの裾をつかんで藤の足止めをしようとする。
藤は肩越しに完全に石化した鷹宮と奈須を見下ろした。
「3!!」
「わからんな。たかだか数秒男鹿を逃がす為だけに、何故そこまでする?」
石化した2人は何も答えない。
「……………」
「2!!」
2人のつかんだ手を折って外した藤は、姫川達に視線を向け、一瞬で赤星と因幡の目の前に移動した。
「…………っ」
「おまえらあいつの何なんだ? 仲間…ってほどの絆もないはずだろ…。オレは引きこもりだが、情弱じゃねぇぞ」
「!!」
藤の手が装置に伸びる。
はっとした因幡は装置と藤の間に入り、装置を庇おうとした。
バチィッ!!
手が触れる直前、姫川は横から藤の腕にスタンバトンを食らわせた。
電流は効いていない様子だ。
「姫川!!」
それどころか、藤の魔力にあてられ、徐々に体が石化し始める。
それでも姫川は、口元に薄笑みを浮かべた。
「わからねぇのか……? だったらてめぇは、あいつにゃ勝てねぇよ。絶対にな」
「―――…はぁ?」
「0だ」
同時に、装置が起動した。
「!!」
学校の時のように、サタンとリンクの切れた藤の体が一時的に生身に戻る。
作戦は成功だ。
「…オレじゃ、装置は…守れ……ねぇ…」
しかし、姫川の石化の進行は止まらない。
藤に一撃を食らわせた体勢のまま、もうピクリとも動けなかった。
「姫川…っ」
「っっ―――!!」
「…頼…ん…だ…ぜ」
その言葉を最後に、姫川は完全に石化してしまう。
「ぉぉおおおおおっっ!!!」
ドガガガガッ!!
赤星はコブシに炎を纏わせて連続で藤の体に打ち込み、最後に顔面にパンチを食らわせた。
ゴッ!!
よろめく藤に、因幡は容赦なくそのアゴに膝蹴りを食らわせた。
「…っ」
目に見えて、藤はダメージを受けていた。
口端の血を拭い、赤星と因幡を軽く睨む。
「効いてる…!!」
「油断するなよっ!!」
藤が倒れない以上、2人がかりとはいえ気が抜けなかった。
生身だというのに丈夫だ。
殺六縁起のナンバーワンは伊達ではない。
“ラビットフリック”!!
因幡は足下の瓦礫を蹴って氷の塊に変え、藤に飛ばした。
藤はそれを右腕だけで払い落とす。
「!!」
(払い落とされた…!? こいつ…、本当に生身に戻ってんのかよ…!?)
疑わしい眼差しを装置に向け、起動中か確認した。
「この程度じゃねえだろ。それでもおまえ、悪魔憑きか」
「あ?」
因幡のこめかみに青筋が浮き上がる。
藤は嘲笑を浮かべて挑発を続けた。
「ガッカリさせんじゃねーよ。今のオレは生身だぜ? オレの魔力をかき消したのはてめーだろ? 殺す気でこいよ」
「……………」
「そこらの石ころ共と違うところ、オレに見せてみろ」
ぶわっ、と因幡の全身の毛が逆立った。
石矢魔のために戦って石となった神崎達を鼻で笑われ、「石ころ」と呼ばれたからだ。
「待て!! 挑発だ!!」
針が刺さるような殺気を因幡から感じ取った赤星は止めようとするが、怒りの頂点に達していた因幡の耳には何も聞こえない。
「ブッコロス…ッ!!!」
足下の地面が凍りつき、因幡の右脚が氷面に覆われて鬼の金棒のような突起が立つ。
同時に、地面を勢いよく蹴った因幡は藤に近づき、その凶器と化した右脚で殴打しようとした。
“ラビットスパイクフット”!!
(いけるか…!?)
いくら藤といえども、生身であの技が直撃して無事なわけがない。
因幡に期待を抱く赤星だったが、藤は因幡が足を振るう直前に近くにあるものをつかんで盾にしようと引き寄せた。
「!!!」
石化した姫川だ。
因幡は振るった氷の金棒の右脚を、姫川の顔に当たる数ミリで止める。
ゴッ!!
「っが…」
その隙を突かれ、姫川越しに突き出された藤のコブシが因幡の額を殴りつけた。
「因幡っ!!」
「ぐ…っ」
額からは血が流れていた。
背中を地面に打ち付けた因幡はすぐに半身を起こし、憎々しげに藤を睨みつける。
「いい盾だ」
「てめぇ…っっ!!!」
「因幡! 離れてろ!」
「!!」
赤星は自身の体に炎を纏わせる。
「マモン!」
その名を呼べば、炎に顔が浮かび、赤星がコブシを突き出すと同時に炎のコブシが藤に襲いかかった。
炎の動きを目で追い、因幡は藤の傍にある石化した姫川を抱きかかえるようにつかんでその重さに耐え、藤から引き離す。
これで藤を守る盾は何もない。
(よし…!!)
藤は迫りくる炎をよそ事のように見つめる。
近くからその顔を見ていた因幡は違和感を覚えた。
(なんで、避けようとしないんだ?)
理由はすぐに判明する。
赤星の炎は、途中で消えてしまった。
「!?」
異変を感じた因幡は藤から赤星に振り向く。
「どうした!? 赤ぼ…―――」
そして、言葉を失った。
赤星は、コブシを突き出したまま石化していたからだ。
その背後には、赤星に手をかざした黒コートの男が立っていた。
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