70:絶望を知り、希望を託します。
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姫川はひとり、住宅街の片隅にある曲がり角で装置とともに待機していた。
殺六縁起が藤の気配をキャッチし、作戦を実行しようとしている。
姫川は汗で湿った手でスイッチを握りしめ、動きがないか曲がり角から窺う。
(これもこれで大役だな…)
心臓が早鐘を打つが、それでも、目を瞑って頭だけは冷静にさせようとする。
その背後に、忍び寄る黒い霧。
「!!」
はっと振り返る姫川。
同時に、真上から落ちてきた人物がその黒い霧を踏み、氷漬けにして砕く。
「因幡…!?」
「……………」
髪が真っ白に染まったままの因幡。
「おまえ、力が戻ったのか!?」
魔力が封印されていることを知らされていた姫川は、因幡の髪と、赤く染まった瞳を見て、辺りを見回した。
「―――…神崎は?」
「………ごめん」
謝る因幡の瞳は揺らぎ、表情が曇る。
それで神崎の身に何があったのか察した姫川は、因幡を責めることなく、「……そうか」と頷いた。
悔しさと怒りに、スイッチを強く握りしめる。
「…姫川、頼む。オレに新しい役割をくれ」
真剣な眼差しを向けられ、一度間を置いた姫川は口を開いて指示を出した。
その頃、家で藤と対面した男鹿は、家族を石にされた怒りで藤に殴りかかったものの、ベル坊と別れてしまい生身の人間に戻ってしまったので呆気なく殴り飛ばされてしまった。
その威力は、男鹿の家の壁から他の家の壁を突き破るほどだ。
何軒かの家をブチ破ったあと、止まった。ぐったりする男鹿に、藤は穴を空けた家々を通って近づいてくる。
「死神にきいたぜ。……ついに、宿敵ベルゼバブが覚醒したってよ。だから楽しみにしてきたんだがよ。まさかもう、別れちまった後だったとは…、がっかりだ」
意識が霞む中、男鹿は藤を見上げる。
逃げる気力はない。
「…連れ戻せよ。それともこのまま死ぬか―――…」
そう言った時、藤の横から突如奈須が飛び出し、
「死ぬのはてめぇだっっちゃ!!!」
ドガッ!!
その横っ面に勢いをつけたドロップキックを食らわせた。
「ヒャッハーv チョーレッパダン!!」
技名はまたもやパクりだ。
だが、藤は飛ばされず靴をすり減らしただけですぐに余裕のある笑みを向ける。
最初から手を抜かず本気で蹴りを入れた奈須は引きつった笑みを浮かべた。
「あらら。全然きいてねーナリよ。……なんつって」
瞬間、藤の真上から鷹宮が車体を落下させた。
フロント部分は潰れたが、藤は無傷だ。
「よう、兄弟子」
「よう、弟弟子」
左腕だけで防御した藤だったが、向かいの家の屋根に立つ赤星に気付く。
赤星は指先を銃の形にしてその腕に炎を溜めた。
「じゃあな」
鷹宮が車体を蹴って離れたのを合図に、赤星は炎を車体に放つ。
ドオォン!!
炎を受けた車体は爆発し、藤を巻き込んだ。
その最中、男鹿を背負った林檎と市川は学校に向かって逃走する。
「「……………」」
男鹿の家に到着するなり、男鹿の帰還を知った姫川達はわずかに予定を変更したが、役割にそれほど変化はない。
藤の足止め役である鷹宮と奈須は、炎の中から現れる人影に寒気を覚えた。
「…こいつ、マジで人間ナリか?」
藤は、火傷一つ負っていなかった。
口元に笑みを貼り付け、こちらに近づいてくる。
「―――いいや、ただのバケモノさ」
そう言って、鷹宮は髪を束ねた。
「冗談v これじゃただの引きたて役だっちゃ」
あまりにも力の差がありすぎる。
藤は服に付着した塵を払い、ゆっくりと歩いてくる。
「何だおまえら―――…、ここは通さねーってか? 2人して男鹿の下にでもついたのかよ」
そこから200m先の曲がり角でその距離を確認する赤星と姫川と因幡。
「来た…っ!! 圏内に入ったぞっっ!!」
「起動…っ!!」
姫川は握りしめたサーベル型のスイッチを押す。
(藤…!!)
因幡は内側に沸き立つ激昂を抑え、装置から離れないようにする。
近づかれた時は、自分と赤星で装置の破壊を阻止しなくてはならないのだ。
装置のスイッチを押してあとは20秒待つだけなのだが、藤は足を速めて鷹宮と奈須に近づいた。
「守る価値なんてねーだろ、あんなもん。オワコンだ、オワコン。見ただろ? もうベルゼバブはいない。魔力もない。ただの人間だぜ?」
「……………」
(―――…こいつ、ちょっとは足止めろよ)
装置に気付かれれば瞬時にそちらに移動されるだろう。
200mなんて距離は藤にとっては短いものだ。
その時、見えない手に胸倉をつかまれて引き寄せられる藤。
鷹宮の傍に出現したルシファーの力だ。
目先にはコブシを握りしめた鷹宮が待ち構えていた。
「だったら何故、おまえは男鹿を追う」
ゴキャッ!!
鷹宮のコブシが藤の頬を殴りつける。
体が傾いた藤だが、すぐに笑みを浮かべてコブシを構え、鷹宮と奈須を睨んだ。
「おまえらよりはマシそうだからだよ」
コブシが振るわれた瞬間、
ズン!!!
放たれた爆発的なエネルギーが辺り一帯を消し飛ばしてしまう。
「ぐ…っ!!」
その衝撃は、だいぶ離れた距離にある因幡達にも届こうとしていた。
赤星は咄嗟に左手をかざして魔力を放ち、相殺しようとする。
「あああ!!」
因幡も左脚を突き出し、襲い来る藤の魔力を氷漬けにした。
因幡達の前には氷の壁が作られ、やがて塵となって砕ける。
「「「!!!」」」
壁が消え、その先の光景が目に飛び込み、絶句する。
まるでミサイルでも食らったかのように、周りの家がなくなっていた。
藤の近くにいた奈須と鷹宮は、持ち場の魔力と両腕をクロスして自身を守ろうとしていたが、上半身の服は破け、徐々に石化していた。
「―――…おいおい、嘘だろ…」
口を開いたのは姫川だ。
そして内心で呟く。
(―――本物の、化物じゃねーか…)
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