69:希望を起こしましょう。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「古市…!!」
古市が先に叫んでくれたおかげで、その分頭が冷静になった因幡は古市の胸倉をつかむ。
「因幡先輩…っ、神崎先輩が…」
「わかってる!! けど今は取り乱してる時じゃねえだろ!!」
そうは言うものの、もし一人っきりだったら自分が取り乱していただろう。
黒い霧は次の獲物を見つけたかのように、じりじりとこちらに近づいてくる。
辺りを見回すと、落としてしまったスマホは少し遠くの場所にあった。
舌を打ち、因幡は古市に顔を近づけて言い聞かせる。
「学校に行けば、姫川が何か策を立ててくれるはずだ。残ってる奴らにも当たれ。このことをみんなに…、男鹿に伝えろ…!!」
「先輩…」
「途中で石になったら承知しねえぞ!! 走れっ!!!」
ドン、と胸を突き飛ばすと同時に、古市と因幡の間に黒い霧が通過して2人を隔てる。
「因幡先輩!!!」
古市は呼びかけるが因幡の姿はどんどん遠のいていく。
コブシを握りしめて躊躇った挙句、古市は黒い霧に呑まれてしまう前に地面を蹴って走り出した。
今は学校へ。
きっとこの状況を打破する何かがあると希望を抱いて。
古市と別れた因幡は、黒い霧に追われながらもスマホを拾い上げた。
「チッ」
画面はヒビが刻まれていて真っ暗だ。
何度タッチしても反応しない。
「ウソだろ…」
その気になっても、力を取り戻すことはできなかった。
もっと早く送信していれば。
後悔してもあとの祭りだ。
そうこうしているうちに、黒い霧に取り囲まれてしまった。
「…っ!!」
ここまでか、と目を閉じてうつむき、スマホを握りしめて先程の自分が思わず発した言葉を思い返す。
“男鹿に伝えろ…!!”
「……ムカつくこと口走らせやがって…」
後ろ首に手を当て、そこにある結晶と皮膚の間に爪を立てた。
「いい加減起きろコラ、クソシロト…!! 姉貴も、春樹も、城山も、夏目も、神崎も、みんな…石にされちまったんだぞ…。母さんだって…」
結晶を剥がそうとするが、爪が食い込んだ皮膚から血が流れ出るだけだ。
それでも因幡は諦めずに呼び続ける。
「いつまでも呑気に眠ってんじゃねえよ…、ブッ転がされてぇか!!? 手ェ貸しやがれ!!!」
ブワッ、と一斉に黒い霧が襲いかかってくる。
“―――やれやれ、やかましいのぅ”
パキ…ッ
久しぶりに聞こえた声とともに、後ろ首の結晶が砕け散り、因幡の髪の色が真っ白に染まる。
因幡はそれを合図に左脚を突き出し、襲いかかってきた黒い霧をたちまち氷漬けにした。
パァン!!
氷漬けになった黒い霧は跡形もなく塵となって散る。
力が戻ってくる感覚に、因幡は右手のひらを見つめた。
「……遅い」
“ふわ…。すまん…と謝ればよいのか…。貴様のせいじゃ…と文句を垂れればよいのか…。なんにせよ、今までで最高に目覚めの悪い…”
欠伸をしたシロトは不機嫌を含ませて言う。
「そりゃ悪かったな…」
“それにしても貴様…、まさか魔力の眠りまで殺してしまうとはのぅ…”
再び欠伸をされ、感心しているのかわかりづらい。
「…………戻せそうか?」
石化した神崎に近づいた因幡はシロトに問いかける。
もしかすると、自身の『魔力を殺す力』で石化を解くことができるかもしれないと期待したからだ。
“………ヘタなことはするな…。あのサタンの魔力だ。どこまで影響が及んどるかわからん。魔力どころか、こやつの命まで殺しかねんぞ…”
「……そうか」
悲しげに目を伏せて相槌を打ち、神崎の左手の甲に触れた。
石となってしまったそれからは体温が感じられない。
“そうなってしまったが、安心しろ。死んではおらんようだ”
「……やっぱり、藤を倒さねえと元には戻らねえ…か」
新たな黒い霧の波がこちらに押し寄せてくるのが目の端に映り、高く飛んで街灯の上に飛び移って避ける。
真下は真っ黒に染まった。
「……!」
力を取り戻し、辺りの異変に気付く。
「あちこちから…、悪魔の気配がする…」
その中で、一際大きな気配を2つ感じ取った。
おそらく、藤とサタンだろう。
“さて…、どうする、桃”
「……決まってんだろ」
黒い霧が因幡に向けて腕のように伸びてきた。
因幡は街灯からジャンプしてそれをかわし、ビルに飛び移って近場に感じる魔力の方向に向かって駆ける。
(藤をブッ転がす…!!!)
.To be continued