69:希望を起こしましょう。
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学校に残った姫川達も行動を起こすため、教室で作戦を立てる。
学校に男鹿がいないとわかった藤は次にどこへ向かうか。
姫川が予測したのは、男鹿の家だ。
そこを訪れる可能性は十分にある。
鷹宮たちもその予測に頷く。
続いて、藤の行き先に見当がついたとして、自分達に何が出来るか。
それは、姫川が念の為にと購入しておいたもう一つの魔力遮断結界発生装置を使い、再び藤とサタンのリンクを切ったところで、生身の人間に戻った藤を叩くことだ。
卑怯と言っていられる現状ではない。
そうしなければ今度こそ全滅してしまうからだ。
いずれ藤の力は、石矢魔町から範囲を広げ、やがて日本全域にまで及ばせるだろう。
男鹿がいない今、すべては残った自分達の手にかかっているのだ。
「「20秒?」」
奈須と林檎が声を揃えた。
鷹宮は頷く。
「―――あぁ、そうだ…。20秒。姫川が新しく用意した魔力遮断結界発生装置を起動させるのにかかる時間だ。半径200m圏内に置かなければ効果はない。だが藤なら確実に気付いて破壊できる距離でもある」
「―――つまり、だれかがその20秒足止めしなきゃいけないってわけか」
赤星がそう言って、ドアに背をもたせかけた姫川も口を開く。
「2台用意したうち…、1台はすでにこの学校を守るのに使ったからな…。奴も次は十二分に警戒してくるだろう」
「ちょっと待ちなっ。そんな大事な物、いわば切り札だろ!? もっと大事な場面で使った方がいいんじゃないの?」
「わかっとらんの。―――だから…、これが勝負の際を分ける重大な作戦って事じゃろが」
「―――そうだ。たかだか20秒の足止め。それが石矢魔の…、ひいては日本の明暗を分ける事になる」
こうしている間にも、1つ目の装置のバッテリーは減っている。
尻込みしている場合ではなかった。
問題はその足止め役だ。
そこで買って出たのは、奈須だった。
「クク。おもしれぇ。オレが行くナリ。そんな大役おまえらじゃ荷が重いだっちゃ」
そう言ってスナック菓子を食べる。
肩越しに振り返った市川は「奈須」と意外そうな顔をした。
「いや、ダメだ」
「あ゛ぁ!?」
反対する鷹宮に奈須は声を荒げる。
「オレも行く」
鷹宮もその大役を買って出たのだった。
姫川は頷いて賛成する。
「……確かに…、『三怪』の2人が出れば…」
足止め役には向いているだろう。
他に反対意見はない。
「決まりだな…。装置を運びだすぞ」
男鹿の家から遠のいてしまう前にと姫川は殺六縁起を促した。
新しい装置は市川と赤星が2人がかりで運び、廊下を渡る。
「慎重に運べ。そっとじゃ」
「もうちょっとコンパクトにできなかったのかよ」
赤星は文句を言いながら、先頭に立つ姫川と鷹宮と奈須のあとに続いた。
「「「「「!!」」」」」
昇降口から外に出ると、校門には石化していない100人以上の石矢魔高校の生徒達が待ち構えていた。
「生き残りか!?」と市川。
「……そのようだが…、どうやら…、味方じゃなさそうだ」と赤星。
ほとんどが得物を手にし、臨戦態勢だ。
各々、身体の個所には藤の王臣紋が見当たった。
皆、昇降口から出てきた姫川達を目にすると、不気味に笑った。
「―――藤側の王臣達のようだな」と呟く鷹宮。
「どうするっちゃ?」と鷹宮に視線をやる奈須。
「急いでる時に…っ」と舌打ちする林檎。
「藤も考えたな…。藤とサタンが入れないから、代わりに部下共を寄越しやがった…。起動した装置と、その新しい装置を破壊するために」と色眼鏡を指先で上げる姫川。
迎え撃つために、姫川はスタンバトンを、林檎は木刀を、鷹宮と奈須はコブシを構えた。
あの数だと、強行突破も難しいだろう。
「誰かがココ(学校)に残って、起動中の装置を守る必要がありそうだな…。今、石矢魔で唯一の避難所がココだ」
神崎達が戻ってくる大切な場所だ。
もしかしたら、男鹿も連れて戻ってくるかもしれない。
自分達に何かあった時のために残しておく必要がある。
「行けよ。ここはオレが引き受ける」
殺六縁起に背を向け、姫川は装置の死守を買って出る。
「待て姫川。いくらおまえでも、あの数は……」
鷹宮が止め、赤星も「黒い霧だって侵入してきてんだぞ」と忠告した。
だが、姫川は藤の王臣達を見据え、引きつった笑みを浮かべる。
「ムリは承知だ。けどな、あの程度なら足止めくらいはしてやれる。…行けよ…!! オレは、オレが出来ることをやるだけだ…!!」
考えた作戦内容は全て鷹宮たちに伝えた。
ここにいる殺六縁起を減らすわけにはいかない。
なので、自分が動くしかないと考えたのだ。
たとえ、無謀だとわかっていても。
「けど…っ、この中で装置を取り扱ったことがあるのはアンタだけでしょ!?」
「簡単だ。目標が圏内に入った瞬間にスイッチを押すだけ。設定はすでに済ませてある。だから……」
王臣達が校門から踏み込んできた。
外で藤とサタンのリンクが繋がっている以上、王臣達の王臣紋は装置が発動している圏内にいても消えないようだ。
「早く行―――」
王臣のひとりが目の前まで迫ってきた。
姫川が武器を構え直し、肩越しに振り返り言いかけた時だ。
ゴッ!!
姫川に迫っていた王臣が校門の向こう側へとブッ飛ばされた。
姫川は何もしていない。
そして姫川と殺六縁起の視線は、突如目の前に現れた男に注がれた。
思わず名を叫んだのは姫川だ。
「東条!!?」
「おいおい、つれねぇじゃねーか。オレを呼ばずに勝手に祭り始めてんじゃねーよ」
コブシを構え、姫川達に背を向けている東条。
王臣達は一度立ち止まってどよめいた。
「おまえも、無事だったのか」と鷹宮。
「……おまえらに一つ聞きてぇことがある」
「ああ。町の人間が石になったのは、藤とサタンが現れて力を…」
東条の質問を先読みしたつもりの姫川だったが、違っていた。
「ウチの校舎をあんなにしたのは誰だ?」
「「「「「……は?」」」」」
親指で校舎を指す東条に、姫川と殺六縁起は間の抜けた声を出す。
小刻みに震える体からは怒りが伝わってきた。
「せっかく壁を直しかけたっつーのに、ガラスは全部叩き割られてるわ、石像だらけだわ…。おまえらぁ!! オレ達の学校をなんだと思ってんだぁああ!!!!」
ビリビリと響き渡る怒りの咆哮に、王臣達は思わずたじろいだ。
中には気圧されて腰を抜かす者までいる。
「あ…、あのな、東条…」
姫川は手を伸ばし、興奮気味の東条に声をかけて事情を説明する。
(デジャブ…)
どこかで見たことがある光景に鷹宮は内心で呟いた。
「つまり…、あの石の山はウチの学校の奴らで、あいつらは藤の仲間で、石にならないようにするための機械をブッ壊そうとしてて…」
姫川から聞かされたことを復唱して覚えようとする東条だったが、明らかに容量オーバーで耳から煙を上げている。
「なるほど…、わからん」
「だろうな」
肩を落とす姫川だったが、東条は王臣達に振り返って「わからんが…」と言葉を続ける。
「外にいる、まだ石になってない奴のために、学校に置いてある装置を守ればいいんだな?」
「……ああ」
「だったら、ここはオレに任せて、姫川、おまえはそいつらについてけよ」
「あ!? てめぇまさか、たったひとりで…」
「おまえだってそうしようとしたんだろ?」
「そうだが…」
邪魔に思われているのではないかと勘繰る姫川だったが、東条は王臣達を見据え、この状況下だというのに口端を楽しげにつり上げる。
「見境なく暴れちまって、味方までブッ飛ばしそうだからよ…!!」
思わず寒気がした。
こうなった東条は、何を言い聞かせても聞く耳を持たないだろう。
王臣紋がなくても、この男なら、と姫川は期待を抱く。
「…………任せたぞ」
「おう!!」
姫川は東条に背を向け、「裏門から出るぞ!」と鷹宮たちの先頭に立って駆けだす。
赤星と市川も、装置を落とさないように気を付けながらそれに続いた。
「逃げたぞ!!」
「追え!!」
「ここにある装置も壊しちまえ!!」
王臣達も得物を構えて駈け出した。
それを迎え撃つのは東条ただ一人だ。
「東条…!!」
「怯むな!! 今は王臣紋がねえんだ!!」
「ただの人間に何ができる!!?」
「おおおおおおおおおおおおっ!!!」
雄叫びとともに東条は学ランを脱ぎ捨て、襲い来る軍勢を次々と薙ぎ倒していった。
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