69:希望を起こしましょう。
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学校に避難して3時間が経過した。
依然として変化はない。
屋上に出た因幡は、ペントハウスの上から校庭を見下ろす。
石像の山しか見えない。
目を閉じて思い浮かべるのは、過去の景色だ。
「……ここもそうなのかな…」
風にかき消されそうな声で呟いた時だ。
「因幡」
「!」
名を呼ばれてペントハウスの下を見ると、ドアからこちらを見上げる神崎と姫川がいた。
何か変化があったようだ。
ペントハウスから飛び降り、2人の目の前に着地する。
「どうした?」
神崎が見せたのは、一枚の書き置きだ。
“すみません、葵ねえさんを探してきます”
名前は書かれていなかったが、間違いなく谷村だ。
「教室に書き置きがあった。…ったく、外は危ねぇっつったのに…!」
姫川は苛立ってうなじを掻く。
「……………」
手紙を握りしめた神崎は踵を返してペントハウスへと戻り、階段を降りた。
「おい、どこ行く気だ?」
階段の上から姫川が声をかけ、一度立ち止まって振り返らずに答える。
「谷村を捜しに行く」
「やめとけ。石像が増えるだけだぞ」
「仲間見捨てろってか!!?」
神崎は肩越しに姫川を睨みつけて声を張り上げた。
2人の間は再び険悪ムードになる。
因幡は後頭部を掻きながら「またかよ…」と呆れた。
「こっちには王臣紋があるんだ。簡単に石になってたまるかよ…!!」
「王臣紋なんてどこにあるんだ」
「あ?」
姫川は左腕の袖をめくり、王臣紋があった個所を見せつける。
「「!!」」
神崎と因幡は驚いて目を見開く。
そこに浮かんでいたはずの王臣紋は消えてなくなっていた。
「な…、なくなってる…」
因幡が呟くと、神崎は慌てて上着を脱ぎ、シャツのネックから左腕を出すと、左肩にあったはずの王臣紋が消えていた。
「……消えてる…」
「オレもさっき気付いた。…男鹿がアメリカに行ったからか…、男鹿とベル坊に何かあったか…。男鹿が帰ってくるまでっつったけどよ、装置の効果が半永久的に続くわけじゃねえ。バッテリーにも限界があるし、時間が経つほどあの黒い霧も校内に侵入しやすくなる。…だから、嫌でもオレ達だけで動くことになるんだ。その時のために、これ以上戦力を削るな…!!」
袖を元に戻し、王臣紋があった個所を握りしめる姫川は神崎に言うが、上着を着直す神崎は、フ、と自嘲の笑みを返した。
「何が戦力だ…。王臣紋がなけりゃ、ただの生身の人間なんだろ? 気休めにもなりゃしねぇ」
そう言いながら階段を下りはじめる神崎に、姫川は「おい」と声をかけて追いかけるが、神崎が足を止めて振り返ると同時に動きを止めた。
一段の差で目を合わせ、神崎は姫川の額を指さす。
「谷村もそうだが、邦枝と東条も探してくる。男鹿も、もしかしたらもう帰って来てるかもしれねえ。オレは戦力集めに出てくるから、てめぇは殺六縁起の連中とここに残って作戦立ててろ。王臣紋がなくても、てめぇには見た目も中も憎らしいココ(頭脳)があるだろ。…オレはオレが出来ることするから、てめぇもてめぇにしか出来ないことしろよ、参謀」
それだけ言い残して神崎は階段をおりていった。
姫川もそれ以上は追いかけない。
「……おまえも素直に、「神崎が心配だから」って言えばよかったんだ。ああ言われたら、口が達者なおまえも言い返せねえだろ」
苦笑いしながら階段を数段下りた因幡は、姫川の肩を軽く叩いた。
姫川は肩を竦ませる。
「…珍しく正論だったからな。面食らっちまった…」
「告白ん時は素直だったクセに…。……まあ、私情を挟むわけにもいかねえか」
最後は呟くように言うと、因幡は2段飛ばしで階段を下りる。
「因幡?」
「オレも、オレが出来ることをやる。あとは任せたぞ、姫川」
肩越しに笑みを向け、因幡は神崎のあとを追いかけた。
突っ込んだポケットにあるスマホを握りしめながら。
昇降口から外へ出た神崎は、ヤスが運転する車の後部座席に乗った。
「付き合わせて悪いな、ヤス」
「いえ。若とならどこへでもお供しますよ」
嫌な顔をひとつせず、むしろ頼まれたことを誇らしく思うヤスは、ルームミラーで神崎を見て笑いかけ、発進させようとする。
その時、助手席に因幡が乗り込んできた。
「!」
「因幡…」
「オレも付き合わせろよ。人探しなら、人数ひとりでも多い方がいいだろ」
頭の後ろに手を組んでシートに背をもたせかける因幡に、神崎は、止めても聞かなそうだと諦めて小さく笑う。
「……ヤス、出せ」
「へぇ」
横目で因幡を一瞥したあと、ヤスはアクセルを踏んで車を走らせて校門から外へと出る。
同じ頃姫川は、教室の窓からそれを見送った。
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