69:希望を起こしましょう。
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1-Aには装置が発動するまで生き残った石矢魔生徒が集まっていた。
こちらの窓ガラスもすべて無惨に割れ、普段通っている教室とは思えない。
そこに集結していたのは、因幡、神崎、姫川、谷村、鷹宮、奈須、赤星、林檎、市川だ。
廊下では、ヤスが外の様子を監視しながら、中の会話に耳を傾けていた。
「……石高にいるのは、オレ達だけか…」
因幡は机に腰掛け、うつむいて右手で目を覆った。
教室に着くまでに、よく知った顔が何人も石にされていたのを見かけてしまい、気分を沈ませていた。
「…オレらが来る前に、何があった?」
窓際に背を預けた神崎が姫川に尋ね、黒板にもたれて腕を組んだ姫川は一度間を置いてから説明する。
「生徒の登校に混じって、藤が出てきた。最初は男鹿を指名したが、いないとわかればあのありさまだ。問答無用で石矢魔の生徒を石に変えやがった。立ち向かった奴も見事にやられちまった」
そして出来上がったのが、あの大量の石人間だ。
他の殺六縁起の部下達も石化してしまったようだ。
姫川は説明を続ける。
「そろそろとは思っていたが、姿を隠していただけに朝から堂々と来やがったから装置の設置に遅れた。起動前におまえらが現れてよかった…。おかげで装置のことが相手にバレることなく無事に起動できたしな…」
「よかった…? おかげだぁ?」
言い方が癇に障った神崎は、その胸倉につかみかかった。
「城山と夏目は石になっちまったんだぞ!! それをてめーは…!!!」
「神崎…!」
黒板に姫川を押し付ける神崎に見兼ね、因幡は机から降りて駆け寄り、後ろから肩をつかんで止めようとする。
姫川は少し黙り、目を合わせて口を開いた。
「言い方が悪かったな。…だが、もし藤が装置に気付いて破壊されてたら、オレ達全員石像になってたんだ…!!」
「……………」
容易に想像できる。
もし装置が起動していなければ、夏目のすぐあとに石になっていたのは自分達だ。
「犠牲は無駄にしたくねえだろ、神崎」
「…チッ!」
舌を打った神崎は姫川の胸倉から手を放した。
「オレ達も到着が遅れたっちゃ。応戦しようにも、みさおっちゃん達に止められて…」とスナック菓子を食べる奈須。
「いい判断じゃ。敵の力がどれほどのものか知らんオレ達が先に出るのはまずい」と仕込み刀の手入れをする市川。
「想像以上だな、藤の力は…。あのサタンがついてるだけのことはある」と適当な席に着く赤星。
「せっかく装置起動させたってのに、逃げられちゃ意味ないよ」と苛立ちながらタバコを吸う林檎。
「非常事態だったんだ。オレ達全員やられてしまえば、男鹿に顔向けできないだろ」とこの場にいる全員を一瞥する鷹宮。
「こんな事態に陥ってるっつーのに、その男鹿っちゃんはまーだ帰ってこないナリ?唯一男鹿の通信手段であるオッサンもいなくなってるし…」
まだアメリカにいるのなら、こちらの事態は把握していないのだろう。
「…東条と邦枝はどうした?」
ふと、因幡は谷村に尋ねる。
石化した生徒の中に2人の姿は見かけなかった。
谷村は、不安げな表情を浮かべ、視線をうつむかせて答える。
「…あ…、葵姐さんは、「助けを呼びに行く」って学校を出てしまって…、なのに…、未だに戻らなくて……」
今では外の方が危険だ。
谷村の心配が伝わる。
「東条先輩も…、まだ、学校に来てないようで…」
「あいつまさかこんな時でも呑気にバイトしてねーだろーな…」
ありえない話ではない。
「あの2人がいないのも痛いな…。これからどうする気だ?」
今度は鷹宮に尋ねる。
「ここで待機して男鹿の帰還を待つか、オレ達が動いて藤を倒すかだ…」
藤の圧倒的な力を前にして、自分達がいかに甘かったかを思い知らされた。
動くなら慎重に。
一騎打ちで藤に挑むのは無謀だ。
少しの判断ミスで石にされかねないのだから。
神崎は思わず苦笑をこぼした。
「…男鹿が帰ってくれば、こんな絶望的な状況も、なんとかなるんだろうな…。ムカつくが、そんな気がするぜ」
「……………」
そんな言葉を耳にしながら、因幡は割れた窓ガラスの向こう側を見つめた。
不穏に包まれているはずの町の空だけは、せめてもの慰めのように青かった。
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