68:災厄が襲来しました。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
白い空間の中、因幡は氷漬けになったシロトと対面していた。
姫川の顔で目を閉じて安らかに眠っている。
氷の中だろうが寝息が聞こえる気がした。
「シロト」
呼びかけても無反応だ。
手を伸ばし、シロトの体を包み込んでいる氷に触れてみる。
不思議と冷たさは感じなかった。
「……やっぱり、なごりの思い通りにならねえと…ダメなのか?」
額を氷に付けて悲しげに呟く。
「それとも…、本当に普通の人間として生きてかなきゃいけねぇのかな…」
ケンカは常人よりも強い。
だが、悪魔が関われば太刀打ちできなかった。
「シロト…、オレは……」
どちらを選択すればいいのかわからない。
今も、まだ。
*****
「桃姉!!」
「!!」
はっと目を覚ますと、春樹が朝からドンドンとやかましくドアを叩いていた。
切羽詰った様子に因幡は怪訝な顔をする。
「は…るき?」
傍にある目覚まし時計を見ると、時刻は8時半を切ろうとしていた。
「ヤベ…ッ」
遅刻であることにわずかに慌て、因幡は飛び起きてすぐに学生服に着替え始める。
「桃姉!! 起きてくれ!! おふくろと桜姉が…!! 町が…!!」
「?」
ドアを開けると、一度外に出て慌てて家に帰り、汗をかいた春樹がいた。
「母さんと姉貴がどうしたって…」
「…っ!!」
「おい春樹!?」
手首をつかまれて階段を駆け下り、先にコハルの仕事場に連れて行かれる。
「!!?」
コハルはデスクに座りながら石化していた。
他のアシスタント達もだ。
「これ…何が…」
軽く混乱し、目の前の光景を信じがたい目で見た。
一度見てしまった春樹は目を逸らしている。
「オレにも何がなんだかわかんねーよ…!! 桜姉も…」
「そ…、そうだ、姉貴は!?」
案内されたのは玄関先だ。
靴を履いて家を出ると、すぐ目の前には大鎌を振った状態で石化した桜の姿があった。
「オレ…っ、黒い霧みたいなのに追われてて…、家に入る前にやられそうになったら、庭から飛び出した桜姉が庇ってくれて……っ」
悔し涙が目尻に浮かび、春樹は袖でそれを拭う。
「姉貴……」
感傷に浸っている場合ではない。
ゾクッと悪寒を覚えた瞬間、因幡は春樹の襟を引っ張って玄関から離れた。
「うわ!!」
同時に、先程立っていた位置に黒い霧が屋根から落ちてきた。
「なんだアレ…!!」
「アレが…、アレが桜姉たちを石にした霧だ!!」
その瞬間を目撃していた春樹は叫ぶ。
黒い霧は意思を持っているかのような動きで因幡と春樹に流れていった。
触れてはならないと判断した因幡は、「逃げるぞ…、こっちだ!」と春樹とともに石垣を飛び越え、地面に着地して坂道を駆け下りる。
辺りを見回せば、様々な生き物が石となっていた。
通行人はもちろん、塀の上を渡っている猫、電柱の上にとまっているカラス…。
どれも気付かないうちに黒い霧にやられてしまったようだ。
「まさか…、生き残ってるのオレ達だけじゃねえよな…!?」
「わからねえ…! こっちは登校中に一緒にいたダチがやられちまって…」
その時のことを思い出し、春樹は奥歯を噛みしめた。
逃げることしかできなかったのだから。
(石化したのは間違いなく悪魔の力だ…。藤が動き出したか…? みんな…、無事だろうか…)
因幡が気にかけたのは神崎達だった。
石化していなければいいのだが。
「桃姉!!」
「!!」
目の前の道に黒い霧が押し寄せてくる。
「春樹!」
因幡は春樹に呼びかけ、すぐ近くにあった狭い路地へと逃げ込んだ。
息を弾ませ、ポリバケツを蹴飛ばしながらも大通りへと出る出口を目指す。
「く…っ!」
先に因幡が大通りに飛び出し、すぐに右に曲がって転んだ。
瞬間、ブワッ、と黒い煙が路地から噴き出した。
「は…、春樹!?」
はっと振り返ったが、春樹はどこにもいない。
すると、路地から、一歩逃げ遅れて石化した春樹が、ごとり、と音を立てて倒れた。
「春樹…!!!」
絶望したその時、遠くからクラクションが鳴らされて振り返る。
「因幡!!」
路肩に黒い車が停められて助手席から出てきたのは、神崎だ。
「神…崎……」
「因幡ちゃん!!」
「無事か!?」
後部座席の窓から顔を出したのは夏目と城山だ。
転んだ因幡に駆け寄った神崎は手を貸して起こす。
その際、石になった春樹を目にしてしまう。
「…っ、母ちゃんと姉ちゃんは?」
悔しげな表情を浮かべた因幡は首を横に振る。
「そうか…、おまえのとこもか…」
「神崎…、石矢魔町から出ないと…っ」
この通りも黒い霧にやられて存在する人間は全員石となっている。
「それが…、町から離れるほど黒い煙みてぇなものが濃くなってるみたいで…」
「じゃあ…、どこにも逃げ場がないってことか…?」
神崎はうつむいて押し黙る。
その通りなのだろう。
「…………学校は? 学校はどうだったんだ!?」
「学校? いや、まだそっちには……」
「行こう!! きっと他の殺六縁起も動いてるし、姫川だって何か策があるみたいなこと言ってたし…!」
縋るならそこしかない。
男鹿もいなくて逃げ場がない今、残る希望は石矢魔高校だ。
「「!!」」
はっと見ると、路地から飛び出してきた黒い霧が徐々にこちらに近づいていた。
「2人とも早く乗って!!」
「若!!」
「おまえの言う通り、そこに行くしかねぇみてーだな…!! 乗れ!!」
後部座席に因幡を押し込み、神崎は助手席に乗り込んでヤスを学校に向けて走らせた。
.