68:災厄が襲来しました。
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鷹宮と決着をつけたあと、程なくして男鹿、ベル坊、古市、ヒルダが、ベル坊の母親―――アイリスがいるアメリカに行ってしまった。
アメリカにあるソロモン商会の本部にいると聞いたからだ。
殺六縁起最強の藤がもうすぐ攻めてくるかもしれない時にだ。
こちらには、男鹿と手を組んだ他の殺六縁起たちが一致団結して藤に備えている。
因幡達は、聖組にいた時のように同じひとつの教室に集まっていた。
男鹿の教室である1-Aだ。
「男鹿ちゃん達はアメリカ行っちゃったみたいだし、オレ達はオレ達で作戦立てていかないとねー」
「作戦と言ってもな…」
「具体的に何すればいいんスか?」
夏目の言葉に、城山と花澤は首を傾げる。
言い出しっぺの夏目は「そーだねぇ…」と一緒に考えた。
その近くにいる相沢はふと東条がいないことに気付く。
「あれ? 東条さんは? さっきまでいたのに…」
「バイトだ。壊された校舎の修復」
席に座って勉学に励んでいた陣野は眼鏡を上げて答え、相沢は肩を落とす。
「学校にいるのにバイトって」
相変わらずのバイトの鬼である。
「神崎君、何かいい案ある?」
「……………」
振り返って後ろの席に足を投げ出してヨーグルッチを飲んでいる神崎に声をかけたが、神崎は茫然と天井を見上げたまま黙っていない。
夏目の声が聞こえていない様子だ。
「神崎君」
「……………」
やはり無反応だ。
心ここにあらず状態の神崎に、夏目は困ったように肩を竦ませ、花澤と城山も顔を見合わせ「?」を頭に浮かべていた。
「因幡ちゃんは?」
「……………」
スマホを操作している姫川の前の席にいる因幡も、神崎と同じく茫然としていた。
口に舐める気もないキャンディーを咥え、黙ってスマホを見つめている。
「こっちもか」
鷹宮と決着ついたあと、2人に他の問題が出来てしまった。
神崎は、好意を自覚した姫川に告白されてどう返事するか悩み、因幡も、眠らされた魔力を取り戻すためとはいえ素直に頷けない取引条件をなごりに押し付けられていた。
藤の事もあるが、2人とも自分達のことで手いっぱいなのだ。
身近な者に打ち明けることすらできない。
「藤の問題なら、勝算がないわけじゃねえ」
言い出したのは姫川だ。
肩越しに夏目達に振り返り、色眼鏡を小指で上げる。
「え、あるの? どんな?」
「パネェ」
夏目達は思わず身を乗り出す。
教卓の近くで聞いていた邦枝も気になって姫川に振り返った。
「それはまだ秘密だ。とっておきだからな」
「出た。もったいぶっちゃって」
隠そうとする姫川に夏目は苦笑をこぼした。
耳を傾けた邦枝は呆れたため息を小さくついて声をかける。
「姫川、私達のことでもあるのよ。包み隠さずに…」
「その時が来たら、だ。男鹿がいない間の切り札だからな。こっちには殺六縁起がついてても安心はできねぇ。相手は藤だ。……必要な場合は、ちゃんと教えてやるよ」
姫川が「切り札」と言いきるくらいだ。
そう簡単に仲間にもひけらかせないものなのだろう。
姫川の勝算は当てにする価値がある。
誰もそれ以上問い詰めない。
「……………」
ふと、因幡は我に返って教室を見回した。
姫川のことで茫然としている神崎、何事もないかのようにスマホを操作している姫川、誰も座っていない椅子に腰かける夏目と、その傍には城山と花澤、これからのことを話し合っている邦枝と大森と谷村、数学の勉強をしている陣野、その隣で苦い表情を浮かべている相沢、教室の奥の隅でポーズの練習をしているMK5とグッドナイト下川など。
アメリカに行った男鹿達とバイト中の東条がいれば、完璧に聖組にいた頃の教室だ。
この空間が心地よいと改めて思う。
(オレは……―――)
スマホの画面に映っている、なごりから送信された契約書。
自分の名前を書いて送り返せば、魔力は取り戻せるがその代償が大きすぎる。
(まるで悪魔の契約書だな…)
すでに悪魔に憑かれているのに、と苦笑してしまう。
*****
(あ―――…)
身体が重く、肌に無数の細かい針が突き刺さるような殺気に、なごりは苦笑いを浮かべずにはいられなかった。
ジジの座る玉座もその殺気に震えているようだ。
玉座の階段が徐々に凍っていく。
わかりやすい怒りだ。
「あのようなことを言って…、応じなければどうするつもりだ…?」
怒気を含んだしゃがれ声。
少しでも誤った返答をすれば、一瞬で信頼を失い、その代償を身をもって払わされるだろう。
契約書のことを突かれ、なごりは小さく両手を上げた。
「まだ時間はあるから、そうファビョらず、もう少しの辛抱…」
「我はもう待ちきれぬ!!!」
瞬間、怒号とともに玉座のカーテンを突き抜けて数本の氷の茨が飛び出し、なごりの足下の床に突き刺した。
だが、なごりは微動だにしない。
足下の茨から視線を上げ、穴の空いたカーテンで遮られた玉座を見上げる。
「そろそろ、サタンも動き出す。因幡桃は、そこで決断をくだすはず」
「……………」
足下の茨が氷の塵と化して消えた。
一度落ち着いたようだ。
「アンタの『目』で、それを見てみるといい。アンタの『耳』で、それを聞いてみるといい。さぞかし、メシウマ祭りだろうよ」
そう言ってから、ポケットから取り出したものを口に咥える。
それは、因幡が好きなキャンディーだ。
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