67:スキです、アイしてます。
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「……………」
スマホの画面を見下ろした姫川は、先程打ったメール文を見返す。
内容は、ソロモン商会のことで自分なりの決着をつけたこと。
ワンタッチでそれが相手に送られ、画面には“送信完了”の文字が表示される。
「例のオトモダチに送ったのか?」
「!」
横から爪先立ちで覗き込んだのは、神崎を背中に背負った因幡だ。
驚いて咄嗟にスマホを隠そうとする姫川だったが、おそらく内容を見られてしまっただろう。
諦めてため息をつき、目を逸らしながら答える。
「あの件はオレだけのもんじゃねーからな…。報告だけしとくのが筋ってもんだろ」
「……………」
その言葉に耳を傾けながら、神崎は無言で明後日の方向を向いている。
「せめてオレの家に入ってからでいいだろ…。……重…っ。神崎おまえ着やせする方か?」
「てめーが非力なだけだろーが」
現在、3人は因幡の家の前にいた。
時刻はもうすぐ朝の7時を迎えようとしている。
一度神崎を預けられた因幡はもう一度姫川に背負わせようとした。
「とりあえず家に入る時はおまえが神崎背負っててくれよ」
「なんで」
「いいから」
「おまえら当然のようにオレをお荷物扱いしてんじゃねーよっ」
訴える神崎だが真っ直ぐに立つことも困難な状態なのだから仕方がない。
玄関に入ると、
「―――っ…、いらっしゃい! ゆっくりしていってね!」
朝7時というにも構わず、姫川と神崎を一目見るなり、コハルが満面の笑みで快く迎えてくれた。
「「……………」」
普通ではない反応に姫川と神崎は絶句する。
「おまえら連れてきてよかったわ。アレ絶対オレに説教するために待ち構えてたから」
露骨にホッとして2人に小声で言う因幡。
「おまえの母ちゃん、早起きなんだな」
「いや、たぶん徹夜。〆切近いし…」
「あぁ…」
そういえばコハルが漫画家だと思い出す姫川。
仕事部屋からは死臭が漂っていた。
先程の2人の姿を見て根気を取り戻したのか、コハルはペンを片手に修羅場へと戻って行く。
「見つかって問題なのは父さんの方なんだよ。靴は隠せ。寝起きの父さんは家族以外にはタチ悪いから」
「うちの娘を朝まで連れまわすとは」と目をギラつかせて釘バットを振り回す日向の姿がまぶたに浮かぶ。
因幡がケガも負っているので加えて怒り心頭だろう。
「色々めんどくせぇ家族だな」
ブツブツ言いながら姫川は自分と神崎の靴を靴箱に隠した。
因幡はダイニングから救急箱を持ってきてから戻り、階段を上がって2人を自室へと案内する。
部屋に入ればちゃんとドアを閉め、部屋の中心にあるローテーブルに救急箱を置き、カーペットが敷かれた床に座ってもらった。
「たっぷりと消毒液塗ってやるから顔出せコラ」
神崎はたっぷり消毒液を十分に染み込ませたコットンをピンセットでつまんで姫川の顔に突き付けるが、姫川は別のピンセットでそれを阻止する。
「思いっきり悪意に満ちた顔しやがって。自分でやれるわ。てめーこそ直がけしてやろーかっ」
姫川は消毒液のビンを持って神崎に迫る。
両者、どちらも嫌がらせに近い手当てを行おうとしていた。
「おとなしく手当てもできねぇのかてめーらは」
因幡はその光景に呆れた眼差しを向けながら「よいしょ」と躊躇なく上着を脱ぎ、自身の手当てをしようと上半身サラシだけになる。
「「コラァ―――ッッ!!」」
「うわびっくりした!! なに!?」
睨み合っていたはずの2人に同時に怒鳴られ、因幡はビクッと体を震わせた。
「簡単に脱ぐんじゃねえっ!!」
「わずかでも女の自覚持ててめぇは!!」
脱ぎたての上着を押し付けられ、因幡は困惑する。
「??? サラシしてるじゃん…。邦枝だってサラシだったじゃん…」
しかもそれで戦場に赴いていたのに。
「上着があるとなしじゃ違うんだよっ。おまえは別室で手当てしてこいっ」
神崎は厳しい顔でドアを指さす。
(ここオレの部屋なんですけど)
口には出さず、仕方ないとため息をついて上着を手に立ち上がった。
「しゃーねーなぁ…。ついでに毛布も取って来てやるよ。眠いだろ? あ、なんだったらオレのベッド2人で使…」
「顔面に包帯巻いて黙らせるぞ」
包帯を構える神崎に因幡はたじろぎ、引きつった笑みを浮かべたまま自室を出てドアを閉めた。
「!!?;」
すると、すぐ間近にコハルの顔があったので声を失うほどびっくりする。
「どう? 2人の様子は?」
とってもウキウキした顔だ。
呆れて肩を落とした因幡は「仕事は?」と小声で尋ねる。
「もうすぐよ。その前に次回のネームも見てほしくてね」
手渡されるネーム。
ラフ画ですでに出来上がってることに、早速姫川と神崎効果が発揮されていると悟った。
現在書いているストーリーでは、神崎と敵側にまわった姫川が対決し、最後は敵側から寝返った姫川が神崎の元へ戻るところで終わっている。
これまでの姫川と神崎の話を堂々とネタをしてしまうのだから恐るべき度胸と才能だ。
「あとで感想教えてねっ」
コハルは朝食を摂るために再び1階へと降りた。
さっさとケガの手当てを終わらせて毛布を運びたかったのだが、続きも気になるので、もう一度上着を着て自室のドアに背をもたせかけながら目を通してみる。
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