66:チェックメイトです。
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上空に超巨大なゼブルスペルが展開し、辺りは眩い光に包まれる。
「言っただろう…。オレは強い方につくってよ」
言い切る姫川に、神崎は「ハハッ」と笑う。
バゴォッ!!!
それから少しして、何かがプールに飛んできてコンクリートの床に突き刺さった。
屋上で男鹿と戦っていた鷹宮だ。
魔力を取り戻した男鹿のパンチを食らって吹っ飛ばされ、屋上のフェンスから校舎の壁、プールのフェンスを突き破り、プールの底に減り込んだのだ。
プールにいた全員の視線が減り込んだ鷹宮に集中する。
男鹿は屋上からプールのフェンスに飛び移り、その様を見下ろした。
「眠いな…。そろそろ帰ろうぜ、ベル坊」
「アイッ」
神崎のフードにいるベル坊に声をかけると、ベル坊はそこから羽が生えたように身軽に飛び、男鹿の顔面に抱き着く。
「アイダブッ!!」
「おー、よしよし」
男鹿はベル坊を肩にのせかえる。
「目にちんこ当たってっからな」
「アイ」
「次やったらマジぶん殴っからな」
「アイ」
いつもと変わらぬその様子を見上げていた聖組は安堵の色を浮かべた。
「フ…」と陣野。
「男鹿ちゃん」と夏目。
神崎は手の甲で顔に付着した血を拭い、姫川に視線を向ける。
「――――ったく、世話かけやがって」
「……フン」
「……………」
そんな2人を黙ったまま茫然と見つめる因幡。
「―――~…っ、最凶親子復活っス!!!」
男鹿とベル坊を見上げ、花澤は、やはりこうでなくては、と興奮気味に声を上げる。
「おう」
宇多川は予想外の結果に茫然と立ち尽くしていた。
(――――…そんなバカな。姫川の策だけで、完全に形勢が逆転した…!! こいつは…、最初からずっとこれだけを狙っていたというのか)
姫川に視線を向けると、目を合わせた姫川は宇多川の心情を読み取り、目にかけている色眼鏡に手をかけた。
「最初からこれだけ? アホか」
「え?」
「これだけなわけねぇだろ」
色眼鏡を取り外し、小さく手を挙げた。
すると、プールに集結していた姫ラーがそれを見て著しく反応する。
「姫川様の合図だ!!」
「てめぇら脱げっっ!!」
姫ラー達は一斉に着ていた上着を脱ぎ捨て、“聖”と書かれた黒のTシャツを見せつけ、男鹿の元へ集まり兵隊のように並ぶ。
「オレは完璧主義なんだよ、宇多川」
姫ラー達まで寝返ってしまい、宇多川は思わずよろけてしまう。
まるで決め手となるチェスのコマを突き付けられたような、完全な敗北。
「チェックメイトだ」
「え…? つーかおまえら王臣紋出てなかった? たかみやの…」
ふと疑問に思った神崎が尋ねると、姫ラー達が全力で否定する。
「出てないっ!!」
「オレ達は姫川特殊部隊の中でも一握りの精鋭っっ!!」
「出てなかった人達だっ!!!」
「あ…、そう?」
それ以上はつっこまないでやろうと神崎は放置しておくことにした。
姫川は宇多川を睨みつけて脅しをかける。
「ソロモン商会の事…。オレが気づいてねぇとでも思ったか? 以前煮え湯を飲まされた組織の名だ。せいぜい近づいてたっぷり調べさせてもらったぜ…。おかげで、悪魔の事、男鹿の強さの秘密、色々わかったぜ…」
「バっ…、バカな。バカなバカなバカなバカなっっ!! ありえんっっ!! すべて計算ずくだとでも言うつもりかっ!! とんでもない穴だらけの作戦じゃないかっっ!! 大体男鹿の魔力をせき止めて溜めてる間、どうするつもりだった!? たまたま鷹宮の攻撃を凌いでいたからいいものの、一撃でもまともに喰らえば終わりだったんだぞっっ!!?」
動揺のあまり宇多川の口調が荒くなる。
ばくち打ちにも程があると。
だが、聖組の反応はまったく違う。
神崎は「フ……」と鼻で笑い、「わかってないね…、キミは…」と夏目が言った。
「なっ…、なんだと…?」
最後の決め手に、姫川が薄笑みを浮かべ口にする。
「…そんときゃ、うちの大将はそれまでの男だったって事だ」
宇多川は返す言葉が見つからず、大口を開けたまま硬直した。
「……うぅっ」
姫川の策で一転して不利な状況になり、鷹宮側で唯一残ってしまった宇多川は、追い詰められてたじたじになる。
(いけませんねこれは…。そろそろ引き時でしょうか…)
そう考えると同時に、
「まだだ」
プールの底に頭をめり込ませていた鷹宮が頭を引き抜いて起き上がり、聖組を睨みつけた。
「まだ終わらん…。オレは一人になっても戦うぞ…!!」
「忍……」
この状況で立ち向かって来ようとしてくる鷹宮に、聖組も驚きを隠せなかった。
「ベル坊…、離れてろ」
その様子に何かを感じ取った男鹿は、鷹宮を見つめたままベル坊に声をかける。
「アイダブッ」
そんな男鹿の気持ちを察したのか、ベル坊は敬礼したあと、聞きわけよく俊敏な動きでフェンスから飛び降り、プールに着地して親指を立てる。
(はやっ)
赤ん坊とは思えない動きに花澤は内心でつっこむ。
「オレもまだ終わったつもりなんてねーよ、鷹宮……」
フェンスから飛び降りた男鹿は姫ラー達の横を通過し、鷹宮の前に立った。
「白黒つけようぜ。悪魔ぬきでよ」
挑発的に手招きすると、鷹宮はわずかに口角を上げ、次の瞬間には男鹿と鷹宮は同時にコブシを構えて突っ込む。
「あ゛ぁ゛あぁあっっ!!」
「おぉおおおおっっ!!」
鷹宮が男鹿の右頬を殴りつけ、足下に血が滴り、男鹿もすぐに体勢を変えて鷹宮の腹に蹴りを入れた。
攻撃は止まらず、鷹宮は男鹿の顔面に肘鉄を食らわせ、男鹿も両手を組んでそれを鷹宮の頭に叩き落とす。
「がぁっ」
「らぁっっ」
魔力も使わず、嵐のような殴り合いが続いた。
それを観戦する姫ラー達は唖然としている。
「す……」
「すげぇ……」
「2人とも避けようともしねぇ…」
「「おおおおっっ!!」」
素の2人の力はほぼ互角。
互いの体力を削り合い、倒れるまで重い一撃一撃を打ち込んだ。
「…………」
同じく観戦していた宇多川は、せめて息を荒くさせている男鹿だけでもとステッキを構える。
(今なら私が…)
その前に、神崎が宇多川の右腕をつかんだ。
「邪魔すんじゃねーよ」
「…宇多川…、そりゃあ野暮ってもんだぜ…」
神崎と姫川が宇多川を挟むように立つ。
「今、茶々なんていれたら、ここにいる全員を完全に敵に回すぞ、おまえ」
因幡は忠告し、宇多川のステッキを取り上げ、膝でへし折った。
「…っ!!」
邪魔するならこの3人が全力で止めにかかるだろう。
「なっ…、なんですか、あなた達は…っ、仲間でしょうっ!? 何故黙って見てる!!? 不合理じゃないですか!! まったく理解に苦しみますねっっ!!」
形勢逆転しておきながら、これではまったく意味がないと訴える。
だが、そんな宇多川を姫川が一笑する。
「…フ…。結局てめーは不良じゃねぇって事だ」
周りを見ると、観戦していた姫ラー達が次々と涙を流し始めた。
「あ…、あれ?」
「涙が…」
「こんなケンカ、もう拝めねーぞ」
どちらも譲れないからこそ、それをぶつけ合うからこそ、理屈もなく伝わるものがある。
「不合理? 上等だ。魂のぶつかり合いが合理的であってたまるかよ。理由があるとすりゃ、男だから。それだけ十分だろ」
ガキンッ!!
男鹿と鷹宮のコブシが、互いの顔面に打ち込まれた。
そして一時的に制止する。
この一撃が、終止符となった。
鷹宮は口角を上げ、舌打ちする。
「……ちっ、強い……な」
力尽きたのは、鷹宮の方だった。
男鹿の胸に額をぶつけ、そのまま倒れる前に男鹿がその心とともに鷹宮の体も受け止める。
「てめぇもな……」
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