65:裏切りですか?
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実力の差では優勢にいた因幡達だったが、しばらくして、姫ラー達の顔や腕などに鷹宮の王臣紋が浮かび上がると、いきなり因幡達を上回る力で反撃に出た。
(―――…なんだ…? 急に、強く……)
どれだけ殴り、蹴り倒しても、それがどうしたとゾンビのように起き上がり、向かってくる。
そして、それからも変化は次々と訪れた。
上空に、男鹿の、巨大なゼブルスペルが展開した。
それは校内全体を覆うような大きさだ。
『対消滅エネルギー』。
この魔力の下では、男鹿の王臣紋の力は強化されて敵の悪魔の動きは封じられる。
ルシファーが抑え込まれ、姫ラー達の王臣紋も消え、聖組は再び優勢に立った。
…かに思われたが、ブゥゥン…、と空気が震える音がサイレンのように鳴り響くと、再度、姫ラーの顔に王臣紋が浮かびあがる。
姫川が、『遮断結界発生装置』を起動させたからだ。
その機械は、特定の悪魔だけを狙うことができ、その悪魔と契約者のリンクを切り、魔力が使えないどころか認識すらさせない代物だ。
ソロモン商会の人間で鷹宮側につく宇多川曰く、国が傾くほどの品である。
ほとんど生身となった男鹿に、力を取り戻した鷹宮に勝利することは不可能だ。
その力、まともに喰らえばすべてが終わってしまう。
男鹿が鷹宮の一方的な攻撃を受けている片方では、聖組も全滅に向かっていた。
「くそっ…」
「固まれっ!! いったんたて直すぞっっ!!」
バラバラになっていてはリンチは免れない。
陣野の掛け声で集まろうとしたが、その前に姫ラー達は容赦なく攻撃してきた。
ガッ!
「ぐ…っ」
正面から右肩に角材で撲られた因幡は、地面に背を打ち、顔面目掛けて角材を振り下ろされて目を見開く。
「因幡先輩!」
「因幡!」
ゴッ!
「ぬぐっ…」
因幡を庇うために、因幡と姫ラーの間に入った城山は後頭部を殴打され、仰向けに倒れる。
「城山!!」
「城やんっっ」
倒れる城山に気をとられ、花澤は背後を金属バットで撲ろうとする姫ラーに気付かない。
大森は駆け出し、花澤の背中を守る。
「由加っ…」
ゴガッ!
頭を撲りつけられた大森も、倒れた。
大森を撲りつけた姫ラーはもう一度花澤に向かって振りかぶる。
「っっのヤロウが!!」
その姫ラーのリーゼントを横からつかんだ因幡は、リーゼントを引っ張り、姫ラーを前のめりにさせて腹に強烈な右膝を打ち込んだ。
その一撃で姫ラーはようやく倒れるが、また新たな姫ラーが襲いかかってくるのでキリがない。
「ちぃ…っ」
口端の血を手の甲で拭う因幡は、大森の傍に座り込む花澤の前に立った。
「寧々さん…?」
花澤は辺りを見回す。
城山、相沢、谷村、下川もやられてしまった。
「みんな…、立つっスよっっ…!!」
聖組が減るほど、姫ラー達がこちらを追い込んでくる。
気付けば、因幡と花澤は囲まれていた。
そしてついには、因幡まで片膝をついてしまう。
「く…っっ」
「因幡先輩…っ」
因幡も他のメンバーと同じく決して逃げ腰にはならなかった。
たとえシロトが反応しなくても、2度と立たなくなるまで迎え撃つつもりだ。
現にこうして、地力だけで王臣紋相手に戦えている。
「うぅ…」
「くそ…」
だが、それも時間の問題だ。
体力は削られ、肩で息しながら、因幡は自身の後ろ首に触れる。
なごりが仕込んだ結晶は未だにそのままだが、因幡はその存在に気付いていた。
騒霊組との戦いのあと、因幡はシロトが反応しなくなった原因を突き止めたのだ。
コハルに解除してもらおうとしたが、それも無理だった。
これさえなくなれば、また自身の魔力が解き放たれるだろう。
しかし、その解除法がわからない以上、この現状を打破することは不可能だ。
姫ラー達が因幡と花澤にトドメを刺そうと近づいてくる。
夏目と陣野は助けに行きたくても向かってくる敵を撃退するのに精いっぱいだ。
「か…、神崎先輩っ!!」
花澤は頭に浮かべた人物の名を叫ぶ。
パリン!
「!!」
すると、背後にある校舎の窓ガラスが割れ、神崎が飛び出してきた。
神崎は因幡と花澤に襲い掛かろうとした姫ラー数人を一瞬で地面に叩き伏せる。
「神崎…!!」
現れた神崎に、因幡も思わず声を上げた。
神崎の着ているパーカーのフードには、なぜかベル坊が入っていた。
(――神崎!?)
「か…、神…崎…?」
「神崎くん…!!」
陣野、大森、夏目も予想外の人物に驚く。
「神崎先輩っ!!」
絶望的な状況に希望が差したことに花澤の顔がぱっと明るくなる。
神崎は倒した姫ラーのひとりの両脚を持ち、豪快なジャイアントスイングで姫ラー達を薙ぎ払っていった。
「てめぇら、クソ川の置いた機械ってのはどこじゃゴラァアアッ!!!」
「ダブー!!」
逃げ惑う姫ラー達だが、神崎は答えるまで容赦なく振り回し続ける。
姫川が起動させた『遮断結界発生装置』さえ壊してしまえば、また男鹿は力を取り戻せるからだ。
「ひぃ」
「しっ…、知りませんよ!」
「あっ…、でもほらアレ」
「なんかプールに運んでたような…」
姫ラーのひとりが配置場所を漏らし、
「よぉしっ、みんな有難うっっ!!」
メキャ!!
神崎は礼と同時に振り回していた姫ラーを投げつけた。
ほとんどの姫カラーが撃退され、神崎はベル坊とともにすぐにプールへと走る。
因幡と花澤は顔を見合わせ、神崎を追いかけた。
「神崎! おい!」
「ちょっ…、待ってくださいよ神崎先輩っ!! どこ行くんスか!? パネェ!! なんかハンパなくオニパネェっスよ!!」
行き着いた先には屋外プールがあった。
今は冬場なので、水が抜かれ、『遮断結界発生装置』はそこに配置されてある。
「あれか!!」
目的の場所を見つけた神崎はプールの入口である柵の門を潜り、因幡と花澤もそれに続く。
「「…!!」」
先頭を走っていた神崎は、プールサイドに立つ人物に足を止めた。
頭にはシルクハット、目にはマスクをつけた男―――宇多川と、姫川がいたからだ。
『遮断結界発生装置』を壊しにきた神崎を止めるために。
「……神崎、邪魔をするな…」
「邪魔はてめーだ…、姫川…!!」
(神崎…、姫川…)
度々、ケンカしてきた2人。
因幡は傍で何度も見てきた。
止めることもあれば野次を飛ばすこともあった。
いつもの見慣れた光景だったはず。
なのに、胸はぎゅっと締め付けられ、手も口も出すことができなかった。
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