64:秘密を教えましょう。
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満月の夜、因幡は薄暗い部屋の中でベッドに腰掛け、手に持ったスマホを見下ろしていた。
画面には姫川のアドレスが開かれてある。
電話をかけるかどうか、指は通話ボタンの上で止まったままだ。
苦渋の色を浮かべ、かれこれ30分以上経過している。
「う~」
頭をガシガシと掻き、唸り声を出す。
姫川とこのままの状態でいたくないのだが、電話をかけたとして、謝ればいいのか、文句をいいのかさえ思いつかない。
それより先に着信拒否のアナウンスが流れる方が怖い。
精神的ショックが大きさが予測される。
「彼氏彼女じゃあるまいし。…でも、このままってわけにはいかねーよなぁ…」
(神崎達には全部話した。…姫川にも、オレの口から全部伝えたい)
たとえ全部知られていたとしても、軽蔑されていたとしても、改めて全部自分の口から話したい。
脳内で応対のシュミレーションを何度も繰り返し、緊張のあまり呼吸もゆっくりと繰り返した。
「~っ…、はぁ…」
震える親指に力がこもらず、自身の臆病さに呆れ返って仰向けに倒れる。
「姫川…」
今朝の姫川を思い出し、胸の痛みに眉をひそめる。
ノーネーム事件で、神崎に裏切られたと思った時の痛みに似ていた。
聖組の神崎、堕天組の姫川。
どちらも大切だから、姫川に誘われた時は選ぶことができなかった。
またあの城山と夏目を含めた、心地の良い5人だけの空間にいたいだけだったのに。
年明けからだろうか、なにかが、浸食してくるのがわかった。
「…………王臣紋」
その「なにか」はわかっていた。
『王臣紋』。
心から認めた誰かについた証。
神崎どころか、姫川にもその印が見当たってしまった。
シロトの一部が入っていた時よりも強くなった神崎と姫川。
一緒に肩を並べて悪魔野学園やユキと戦っていた時が昔のように感じられた。
今、神崎と姫川が肩を並べているのは、自分ではない。
置いて行けぼりのような気分になった因幡は、今頃になって寂しさに襲われていることに気付いてはっとし、振り払うように寝返りを打った。
「あー、クソ…ッ」
すると、目の前に大きなオッサンが寄り添うように寝転んでいた。
なぜかオッサンは戦場に出向く伊達政宗のような鎧兜を身に纏っている。
目が合い、しばらく見つめ合っているとじわじわと冷や汗が浮かんだ。
幻覚を見ているのだと思いたかったが、オッサンは言葉を発す。
「あ、夜分にすみません」
「うぎゃああああっっ!!!」
ゴッ!! ガッ!!
「はぐっ! ふぎゅっ!?」
顔面を重点的に蹴りつけると、オッサン―――アランドロンは蹴られた顔面を押さえながら「お…、お待ちを…っ」と空いた手で制す。
「何がお待ちだ!! どっから入ったてめぇ!!」
心臓に悪く、一瞬の恐怖にバクバクと脈打つ心臓をなだめようと押さえつけ、ベッドの上で右足を浮かせてさらに攻撃を追加しようと構える。
「だから…っ」
不意にアランドロンの体が真っ二つに割れた。
「うわっ!!」
ホラーな光景に再び驚いてたじろぐ因幡。
真っ二つのアランドロンの体から出てきたのは、アランドロンの体から上半身だけ出したラミアだ。
「ちょっと、出にくい体勢にならないでよ!」
「ラミア!?」
「因幡…! っ古市が…!!」
「?」
ラミアは簡潔に今夜の出来事を話しだす。
姫川の命令で姫ラーによって学校に拉致られた古市は、隙を見て逃げ出す際、例のティッシュを使って鷹宮の王臣達を数人倒したものの、現れた鷹宮に圧倒され、男鹿が駆けつけて応戦する中、鷹宮の悪魔であるルシファーに魂を抜かれてしまい、その魂は切り分けられて堕天の王臣達の手の中にあるらしい。
信じ難い話だが、もし朝までにすべての魂を取り返して古市の体に戻さなければ、
「古市が…死ぬ?」
最悪の結末に因幡は耳を疑った。
口にした途端、ラミアが涙ぐむ。
「お願い…っ、古市を助けて…!」
「……………」
しばし黙り込んだ因幡は、意を決したようにぐっとコブシを握りしめ、その手をラミアの頭にのせてなだめるように撫でる。
「任せろ。何よりおまえには、薬の借りがあるしな」
その言葉を聞くと、ラミアの顔に希望が差したようにわずかに明るくなり、袖で涙を拭いた。
「古市は、絶対助ける」
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