64:秘密を教えましょう。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
石矢魔の校舎のほとんどが堕天組のテリトリーになってしまい、自分の教室だろうが門前払いされてしまう。
聖組は校舎の外れにある、テニスコートまで追いやられていた。
姫川を敵に回すとどれだけ手に負えない相手か嫌でも実感する。
雪がところどころに積もったテニスコートでは、聖組のメインメンバー達が集まっていた。
メンバーの一部では開き直ってラケットとテニスボールを手に、テニスに勤しむ者もいた。
中でも元々お気楽な性格である夏目はテニスウェアまで持参してプレイしている。
全力で打ち合っている男鹿と東条の姿もあった。
そしてこちらもまた、頭に包帯を巻きつけて全力でテニスに励む者の姿も。
「あんのコロネ―――ッ!! 絞って中身が何味か確かめてやろうかああああっ!! サザエのつぼ焼きがああああっ!! ヤドカリに素敵な物件紹介してやんぞクソ―――ッ!!」
学ランを脱ぎ捨てシャツ1枚になった因幡は、悪口雑言を並べながら怒りのままにテニスボールを打ち、ついでに脚の特訓なのか自分がボールを打つと、ネットを飛び越えて先程打ったボールを打ち返す、ひとりテニスをしていた。
「因幡先輩パネェ」
「器用ー」
姫川に裏切られたからといって簡単に折れて大人しく感傷に浸る因幡ではなかった。
振り払うためにとにかく罵倒し、動き回っている。
その様子を他のコートから見つめる神崎、城山、夏目。
視線を感じて目の端でそれを確認した因幡は強く打ったあと、そこから動こうとせず、肩で息をしながら向こう側に落ちて転がるボールを見つめた。
「はぁ、はぁ、はぁ…。…………よし!! 決めた!!」
顔を上げた因幡の瞳には決意の色がある。
「テニスのプリンスになるのか?」
「違ぇよっ」
茶々を入れる神崎につっこむ因幡。
「ふぅ」と目に見える息をついた因幡は、手招きで神崎達を呼ぶ。
「?」
神崎は首を傾げ、城山と夏目も何事かと顔を見合わせた。
「おまえらにどうしても、話したいことがある」
神崎達が連れてこられたのは、誰も使用していない部室だ。
代わりに溜まり場に使われていたようでタバコの煙の臭いと、コンクリートの床には空き缶や菓子袋などのゴミが散らかっていた。
そこで因幡は、ベンチに腰掛ける神崎達にすべてを打ち明ける。
自分が悪魔憑きであること、その悪魔がなんなのか、コハルの正体、桜の正体…、自分が理解していることすべてだ。
そしてそれらを隠していたことが原因で姫川に嫌われてしまったかもしれないことも。
「―――以上」
神崎達はただ黙って因幡の話に耳を傾けていた。
すべてを話した因幡は、心なしか胸の重みが取れたような気がした。
それでも新たな不安が背中に圧し掛かる。
今の話を聞いて、神崎達がどんな反応するのか。
胸の弾みを押さえきれず、喉も鳴らした。
「「「………へ―――…」」」
「「へー」って!!?」
一大決心で話したのに平然とした反応に、自身を支配していた緊張感が蹴飛ばされた小石のようにどこかへ飛んでしまった。
「なにその反応! 信じてねーのか!?」
「いいや? 信じるぜ。辻褄合うしな。…まあ、オレらが人間離れした光景を目撃しすぎて感覚がマヒしてるだけだから気にすんな」
主に男鹿のことで。すでに神崎達にとっては日常の一部のようになってしまったのだ。
「それにしても、シロトっての、神崎君と姫ちゃんの顔になるんだ? 面白そう」
「食いつくところはそこかよ」
ああそういえば夏目はこんな男だったな、と因幡は再度理解する。
悪魔を怖がるどころか面白がっている。
「まるでドラマのような話だな。実家から逃げ出した母親、血の繋がらない姉、受け継いだ血筋…」
「『悪魔』って単語がなければな」
一度ため息をついた因幡は、間を置いて口を開く。
「けど、オレ、おまえらに嘘ついてたことになるんだぜ?」
「話してくれたろが」
「先に姫川にバレたから、怖くなったんだよ」
正直に話すと、神崎は「あのな」とベンチから立ち上がって猫背になり、因幡と目線を合わせた。
「それこそ今更なんだっつの。オレらは変わらねえから、いらん心配すんな!」
宣言された瞬間、因幡の目が大きく見開かれる。
「そーそー、オレ達に嫌われるかもしれないって、隠してただけでしょ? 姫ちゃんだって、心の底ではわかってるはずだと思う。だって、姫ちゃんだし」
「その力でオレ達を酷い目に遭わせるわけじゃないんだろ? むしろ心強い!」
夏目も立ち上がった因幡の肩を叩き、続いて立ち上がった城山もコブシを握りしめた。
因幡は確かめるように3人の目を見る。
軽蔑の色は一切見えない。
神崎達に対しては何も抱く不安はないのだ。
なぜもっと早く言えなかったのか。
姫川が裏切ったのは自分のせいでもあるんじゃないか。
色々な気持ちが胸の内で膨れ上がり、因幡は目の前に立つ神崎の胸に額を押し当てた。
「……ごめんな…、嘘ついて……っ」
うつむいているせいで泣いているかは確認できなかったが、声と体は震え、どれだけ隠すことが心苦しかったかが伝わってくる。
神崎は宙を見つめ、因幡に侮蔑の言葉を吐き捨てた姫川の心情を考えながら、因幡の背中に優しく手を添えた。
*****
「姫川の奴、裏切ってなかったぞ! 裏切ったフリして堕天組のこと調べてるんだってよ!!」
部室から出ると、一度堕天組に殴り込みに行った男鹿が戻ってきた。
周りは驚いた様子もなく、ただただ呆れていた。
「……それで?」
一応とばかりに邦枝が促すと、男鹿は「それでな」と続ける。
「「邪魔すんな」って言われたから帰ってきた」
「ダブアイッ」
だから大丈夫だとばかりに親指を立てる男鹿の言い分を最後まで聞いた因幡の額に、ブチッ、と青筋がくっきりと浮かび上がった。
「のこのこ帰ってくんなぁ―――っっ!!!」
「うお!? なんだいきなり!!?」
ラケットでテニスボールを男鹿目掛けて打ちまくる因幡。
誰も止めず、むしろもっと打ち込めとばかりに城山達はテニスボールを用意してくれる。
「…嘘でしょうね」と古市。
「だろうな」と神崎。
「姫川だし」と邦枝。
「わかったわかった! もう一度姫川に本当かどうか聞いてくるから…!」
ボールを避けながら因幡をなだめようとする。
「もういいよ!! どうせまた言いくるめられて戻ってくるんだろーが!! 目に見えてんだよっ!!」
本当に自分達の大将が男鹿でいいのか因幡は何度目かの疑問を抱いた。
.