64:秘密を教えましょう。
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2月に入り、石矢魔町も体の芯も凍るような寒さの中、石矢魔高校前では姫川と同じ格好をした不良達が校舎に向かっていた。
姫ラーである。
姫ラーとは、姫川の傘下についた者達の総称で、その忠誠心を示すために競って姫川の格好をしている。
他の不良達は姫ラーを見るなり、委縮する者もいれば、そこから逃げ出す者もいた。
もともと策略家気質の姫川。鷹宮というヘッドを立てることに徹したその手腕は凄まじかった。
今や殺六縁起以外の少数勢力はすべて帝王鷹宮の物である。
姫ラー達は校舎から校門まで2列となり、校門から入ってくる姫川を兵隊のように迎え入れた。
姫川が校舎に足を踏み入れようとしたその時、突然校門辺りが騒がしくなる。
「おい! ここは堕天のシマ…」
ゴシャ!
「聖は立ち退…」
ゴッ!
「こいつ、冷酷ウサ…、ちょ、まだ言いかけて…!!」
ドゴンッ!!
姫ラーが言いかけている途中で何度も潰し、その中の一人を姫川の傍らまで転がした。
姫ラー達は列を崩してどよめき、姫川は小さくため息をついて振り返る。
校門には、険しい顔をした因幡が立っていた。
ラミアからもらった魔界の薬のおかげで右脚の骨折も完治し、松葉杖もついていない。
魔力は戻らないままだが、そこらへんの不良なら一撃で転がすことができる。
「堕天の奴らに用はねぇ…。姫川!! てめーに用があってきたんだよっ!!」
指をさして名指しするが、姫川は無表情のままだ。
静かに因幡を見据え、口を開く。
「出たか、じゃじゃ馬」
「姫ラーだの堕天だの東条を倒しただの…、オレからの連絡シカトこいてる間、わけわかんねーことしやがって…。どーゆーつもりだ!!?」
「そんなことより、因幡、おまえら聖がそこから通っていいって誰が言ったよ?」
「…っ!!」
不意にナイフで胸を刺されたようだった。
そこから血の代わりに熱があふれ出て頭にのぼり、因幡は地面を蹴って姫川に突進し、その胸倉を両手でつかんで怒声を上げる。
「っざけんな!! てめーも聖のモンだろーが!!」
「喚くな。…入った覚えはねえっつったの、忘れたか?」
姫川は怯むことなく冷たい眼差しを向け、左腕の袖を捲り、堕天に入ったその証拠を見せつけた。
鷹宮の王臣紋だ。
数字も「3」とある。
「…っ、てっぺんとるんじゃなかったのかよ!? あれも嘘だったのか!? おまえ、いつから堕天に…」
王臣紋を凝視した因幡が責めるように問うと、姫川は口角を上げ、凍りつきそうなくらいの冷笑を浮かべる。
「悪魔憑きのてめーに言われると、無性に腹が立つな。騙してたのもお互い様だろ」
「!!? ……どこで、それを…?」
目を見開いて驚く因幡に、ずい、と姫川は顔を近づけ、因幡の右足を軽く踏みつける。
「シロト。この右靴に宿ってる悪魔のことだよな? オレ達に見せてた妙な姿と力もこいつもおかげなんだろ?」
「それは……」
否定はできない。
シロトの調整がなければ本来自身が持っている魔力が暴走していたのだから。
目を泳ぐ因幡に姫川は鼻で笑う。
「何が秘密組織だ。バカにしてんじゃねーぞ。…卯月家のことも聞いた。おまえの母親の事も、姉貴の事も、出生の事も…。力に恵まれていながら、てめーはそれをフルに活用しない。その気になれば、男鹿と互角…、あるいはそれ以上かもしれないのに…」
「……………」
すべて、知られてしまった。
誰が教えたのかと考える余裕すら失われる。
「そんなてめーが、オレらより弱いわけねーだろ。…自分より弱い奴を立てる気分はどうだったよ?」
はっとした因幡はすぐに首を横に振って言い返す。
「違う!! オレはそんな気持ちでおまえらと一緒にいたわけじゃねえ!!」
「今更、言い訳なんだよ」
「姫川…!!」
「だったら、もっと立ててみろ。その力、オレら堕天のために使うか、聖のために使うか…」
「………っ」
突然の選択に露骨に戸惑う。
目を伏せて黙り込んだ因幡を見、姫川はスタンバトンをつかみ、
ゴッ!!
「…っぐ!!」
その頭を撲りつけた。
食らった因幡はその場に尻餅をつき、右手で撲られた個所を押さえつける。
傷口からは血が流れ、額から伝い落ちた。
「姫川……」
因幡は悲しげに姫川を見上げ、姫川はスタンバトンを腰に戻し、背を向ける。
「引っ込んでろ。…今のてめーに出る幕なんざねーんだ」
「……………」
心を打ちのめされた因幡はすぐには立てず、校舎に入る姫川の背中を見届けることもできず、雪で湿った地面を見下ろすしかなかった。
廊下を渡る姫川は右てのひらを見つめ、もう一度ポケットに入れ直す。
「ツンデレにしてはキツすぎない?」
「!」
一度立ち止まって振り返ると、すぐ傍に、頭はリーゼント、目には色眼鏡、ツナギの上からアロハシャツを着たなごりが立っていた。
「…………早々に喧嘩売ってんのか?」
スタンバトンを取り出した姫川に、なごりは「ジョークジョーク!!」と両手を振り、頭に被ったリーゼントのカツラを取り外した。
「姫ラーが流行ってるっつーからのってみただけじゃん」
「それ、あいつら(姫ラー)の前でやったら袋叩きにされるぞ」
「ああ、確かにファンのフリされると腹立つよな。オレもこの間チャットで「あのアニメ知ってる超好き~。あのシーン最高だよね」って大ファン気取りの奴がいてムカッぱらのあまり罵詈雑言並べてやって追い出してやった」
「そこまで聞いてねえよ」
呆れた姫川は無視して先へ進もうとした。
「ハニーは、今、魔力が封じられてある。オレ、前にそれを話したよな? もしかして、徹底的にブロックしたのも……」
「知ったふうな口きくな」
肩越しに睨みつけ、ドスの聞いた声を出す。
なごりは苦笑しながら右手を手招きするように振った。
「ああ。ごめんごめん。アンタもウソツキだから…、つい…。さっきの、どこまでが嘘でどこまでが本当かわからないけど、ハニーを傷つけてわざと安全圏まで遠のかせてる気がしたから…」
「……………」
「ノーネーム事件を思い出す。あの時は神崎氏が一時的に敵側だったけど、アンタはどうだろう? 頭の切れる奴が裏切るともっと怖いからな。さっきのも全部演技とは思えないだけ、今度こそハニーも打ちのめされたかも」
「……べらべらとよく喋る奴だな。情報を得ただけでてめーに用はねえ。オレも全部てめーの思い通りに動く気はねーからな」
それだけ言い捨て、姫川は堕天組の教室へと向かった。
もうなごりが何を喋ろうが相手にしない。
その心情を察したのか、なごりもそれ以上何も言わずにその背中を見送った。
「…だから、そっちがオレに逆らおうが、ムダだっつーの…」
嘲笑の笑みを浮かべて呟き、姫川とは反対の方向へ歩き出す。
「どうせ、今更どんな選択しても、ハッピーエンドは変わらねえんだから」
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