63:雪のような、静かな幕開けでした。
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雪は降り続く。
神崎と因幡は傘も差さず並んで住宅街の道を歩き、男鹿の家へと向かっていた。
神崎はできるだけ因幡と歩調を合わせるが、因幡は気を遣わせまいと松葉杖を早く動かす。
「あれから姫川から連絡あったか?」
「へ? あ――、まだ…」
前を見ながら神崎が唐突に投げかけてきたので、意表を突かれたような顔になる。
「そうか…」
「気になるのか?」
「別に。あれからどうしてっかなって思っただけだ。聖組は他の連中からも狙われてるからな。あのヤロウがドジってなきゃいいんだが…。あ、勘違いすんなよ? そうなっちまって恥を書くのがオレ達なだけであって、オレはそれだけが気がかりで…」
「はいはい」
わかりやすいツンデレっぷりに和んだ因幡は「わかってるわかってる」と神崎の頭を横から撫でる。
「!! 撫でるなぁ!!」
自分の言い訳が苦しかったことにはっと気づいた神崎は顔を赤くさせる。
「―――ったく男鹿のやろう、こんな雪の日に呼び出しやがって…。殺六縁起だって、こんな日は家でぬくぬくと…、お……」
「あん?」
「あ」
「……あら」
曲がり角から古市とラミア、向かい側から邦枝がやってきて鉢合わせした。
「なんだてめーらがん首そろえて」と神崎。
「先輩方こそ。オレはいつも通り、男鹿んちに行くだけっスよ」と古市。
「おまえらも? オレ達もだ」と因幡。
「え!? わっ…、私も…」と邦枝。
男鹿が他のメンバーを呼んだことに、神崎達は今知った。
「お…、男鹿が家にこいって言うから………」
邦枝も自分だけが呼ばれたと思っていたのだろう。
目を逸らし、どこか落胆している表情を見せた。
「帰るか…」
「賛成」
「いやいやいやっ」
邦枝の期待を裏切ったことを察した神崎と因幡は帰ろうとしたが、ラミアが呼び止める。
「みんな、呼ばれたんでしょ。王臣紋について詳しく話すってヒルダ姉様が言ってたわよ。電話で」
「王臣紋?」と邦枝。
「あぁ…。あのわけわかんねー印のやつか…」と神崎。
呼ばれた理由も判明し、因幡は拗ねるように顔をしかめた。
(王臣紋ねぇ…)
因幡達はそのまま連れ立って男鹿の家に到着した。
緊張気味の邦枝がインターフォンを鳴らす。
「は―――い」
出てきたのは、寒い中、アイスバーを食べる男鹿の姉―――美咲だ。
訪れた因幡達を見るなり、目を丸くする。
「あら珍しい。何コレ? どういう面子?」
「お…、お久しぶりです、美咲さん! あのっ…、私…」
初代烈怒帝留であり男鹿の姉でもある美咲に二重の意味で緊張する邦枝だったが、美咲は気さくに返した。
「葵ちゃんよねー。憶えてる憶えてる。あがりな、たかちん達も」
美咲と邦枝が最後に会ったのは秋以来だが美咲はしっかりと覚えていた。
「おじゃましまーす」
古市とラミアも玄関に上がる。
「そっちのくちびるチェーンと赤メッシュは初めて見るね」
「ども…」
因幡は男鹿の家に訪れたことはあったが、美咲とは初対面だ。
因幡は礼儀として会釈したが、神崎は呼び方が気に入らず露骨に顔をしかめて睨みつけた。
「あ? なんだこのババア。誰がくちびるチェーンだ。ブッ殺されてーのか」
瞬間、神崎の顔は玄関のドアにめり込んだ。
「うわ」
「気を付けてください。男鹿より手ぇ早いっスよ」
古市はめり込んだ神崎に忠告するがすでに遅く、神崎はめり込んだまま「………先いえ…」と小さく言った。
間違いなく男鹿の姉であることを実感する。
「その後、烈怒帝留は健在?」
「はい」
「神崎、大丈夫か?」
「痛ぇよ」
神崎は打った鼻を手で覆い、因幡のあとに続いた。
「あなたが来るからだったのね~。たつみの奴、昨日の晩から何かいそいそと準備しててさ~」
男鹿の部屋へと案内し、階段を上がりそう言いながら、美咲は意味ありげな笑みを手で隠した。
「準備?」
邦枝は首を傾げ、美咲は男鹿の部屋に到着するとノックもせずにドアを開けた。
「たつみ―――」
「しっ」
男鹿は美咲が声をかけるなり、床に並べたカードのようなものを見下ろしながら人差し指を突き立てた。
手には同じカードを持ち、同じくカードを両手に持つベル坊とともに真剣な表情を浮かべていた。
「…ね」と美咲が言う後ろでは、どう見ても遊んでいるようにしか見えない男鹿とベル坊の様子に、因幡達が白んだ目をしていた。
男鹿とベル坊は構わずに続きを再開する。
「ファイナルアンサー?」
「アイダブニャンダー」
一度間を置き、互いは手元の手札を床に叩きつける。
「王!!」
「アイ(臣)!!」
「紋!!」
「ダッ!!」
男鹿は“くいーん”と邦枝の似顔絵が描かれたカード、ベル坊は“メガネ”と姫川の似顔絵が描かれたカード。
イラストはすべて手描きで、よく見るとその素材はダンボールだ。
まるで『遊戯●』を真似た出来である。
ベル坊のカードを見るなり、男鹿は含み笑いをする。
「くくく…。ベル坊、オレの勝ちのようだな…。てめーのメガネはまだ成っちゃいねぇ…」
「ニャンダブ…(バカな…)」
緊迫した空気の中、男鹿は手持ちのカードを一枚引き抜いた。
「さらに…、オレはスペルカード『メガネかち割り』を発動!! この時点で、フィールド内のメガネは全て爆散!! よって女王(クイーン)のお色気エアラインが五臓六腑にしみわたる!!」
「ダ…、ダブーッ(な…、なんだと―――!?)」
勝敗はベル坊の負けなのだが、傍観していた誰もがそれを理解できないでいた。
((((何これ…))))
「―――…」と古市。
「…おい」と神崎。
「誰がお色気エアラインよ…」と邦枝。
「ルールが意味不明」と因幡。
「ようおまえら、遅かったな! 一緒にやろーぜ」
男鹿は“ゲームでおぼえる王臣紋”と書かれた箱を見せつけるが、「やんねーよ、そんな手作りゲーム!!」と古市に一蹴された。
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