63:雪のような、静かな幕開けでした。
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男鹿が奈須を倒し、続いて邦枝が林檎を倒してから数日後、休日が訪れ、因幡はダイニングのソファーで安静にしていた。
奈須に折られた右脚はギプスで固定され、ソファーには松葉杖が立てかけられてある。
“おかけになった電話は、お客様の都合により―――…”
「チッ」
舌打ちした因幡はスマホをソファーの端に放り投げる。
(姫川の奴、出ねーな…。あいつ着拒にしてやがんのか?)
邦枝の神社での作戦会議から姫川の姿を見ていない。
前と同じく、何度連絡しても音沙汰なしだ。
まるで避けられているような。
理由もわからず、因幡の中に苛立ちが募る。
「はぁ…」
「姫川君、出ないの?」
キッチンにいた桜が声をかけ、両手にハーブティーを淹れたカップを持ってきた。
受け取った因幡は「ん」と顔をしかめて頷き、ハーブティーを口にする。
桜は自分の分のハーブティーを口にし、ソファーの端に置かれたスマホに目をやりながら因幡の隣に座った。
「最近の桃ちゃん、スマホと睨めっこしてばかりね」
「……………」
「それに、ピリピリしてる…。何かあった?」
「……ムカつくことが多いだけ」
ホッとするようなハーブの匂いを嗅ぎ、また一口飲む。
年が明けてからは苛立つことばかりだ。
シロトは反応しない、力が思うように引き出せない、姫川は電話に出ない、右脚は折られ、他の仲間は男鹿や殺六縁起に夢中。
(一番腹が立つのは…)
カップに口をつけたまま宙を睨むと、突然着信音が鳴り響いた。
「!!」
はっとしてスマホをつかみ、画面に表示された名前を見る。
「姫川君?」
「ううん。神崎」
姫川と期待したが、それでも因幡はがっかりせず口元を綻ばせている。
通話ボタンを押し、耳に当てた。
「もしもし。こちら、休日なのに寒くて家からも出れない自宅待機中の因幡桃矢様ですが?」
“…相当ヒマしてるようだな”
「なんか用か? そっちがヒマしてるならいつでも大歓迎だぞ!」
(嬉しそうねぇ)
尻尾を振っているように見える因幡に、隣で眺めている桜は和んだ表情でハーブティーを飲む。
“とりあえずヒマなんだな。自宅待機中ならちょうどいい。出られるか? 今、家の前だから”
「!」
耳にスマホを当てたまま松葉杖を持って立ち上がり、急ぎ足でダイニングを出て玄関を出ると、しんしんと雪が降る中、門の先で神崎がスマホを片手に立っていた。
ドアを開ける音に気付いて因幡に振り向き、小さく手を挙げる。
「よう」
「…インターフォンくらい鳴らせよ。風邪引いちまうだろ」
神崎は青と白のジャージを着、首にはマフラーを巻いていた。
神崎はスマホを切って後ろを親指でさす。
「因幡、これからちょっと付き合え」
「いいけど、どこに? あ、サンキュ」
上も着ずに外に出たので、桜はコートとマフラーを取ってきてくれた。
因幡は神崎に背を向けて玄関先でコートを着、桜に赤色のマフラーを巻いてもらう。
「わざわざ迎えに来てくれるなんて…」
「男鹿の家」
その一言で、有頂天だった因幡の心は冷え、表情も固まった。
因幡と向き合っている桜はその変化に気付いて小さく驚いたが、空気を読んで口にはしない。
「……な…、なんで男鹿の家?」
動揺していることに気付かれないように因幡は言葉に気を付けながら尋ねる。
「呼ばれてな。たぶん殺六縁起のことだろ。一応おまえも呼んでいいか聞いたらOKもらったし」
「夏目は?」
「城山の見舞いに行くってよ」
「そう……」
目を伏せる因幡の胸の中で、複雑な思いが渦巻く。
それでも自身を納得させようとした。
(まあ、こうしてオレも誘ってくれてるわけだし、仲間外れにはされてねーみたいだけど、男鹿に詳しい内容も聞かずに家に行こうとする神崎もどーなんだよ。神崎ってそんなに男鹿と親しかったっけ? そもそも姫川が作戦会議以来絡んでこねぇのが悪いんだろ。クソ、なんだこれ、また腹立ってきたんですケド)
「? 因幡?」
周りの雪を溶かすほどの憤りのオーラを纏う因幡。
(葛藤してる…)
表情と雰囲気から因幡の心中を察し、桜は口に手を当てて内心で呟いた。
「ま…、まあ、そのケガだし、ムリなら」
「行くに決まってんだろバカ!! どこにでもついてってやんよ!!」
「なにキレてんの!?」
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