62:特攻隊長の出番です。
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奈須が敗北し、変化は訪れた。
『ドッペルゲンガー』で作られた分身達が次々と黒い液体となって溶けたからだ。
目撃した者は仰天していた。
同じくして、奈須の分身もどろどろに粘り気のある液体に溶けて天井はホラーな光景となっていた。
「うぉっ、なんだこれ、きもっ!!」
「ちょっ…、神崎先輩!! 押さないでくださいよっっ」
「古市ぃっ!! てめーも押すなぁっ!!」
天井を見上げる因幡達は互いを押し合っていた。
「ドッペルゲンガーが消えたか……」
開かれた窓から戻ってきたヒルダ。
「アダ(ヒルダ)。ダブダブ(てめぇ今までどこに…)」
「黒幕と思われる男を追っていた。とり逃がしたがな……」
「!」
(―――…黒幕!?)
新たな人物が浮上し、奈須の悪魔憑きといい、ベル坊を狙っていることといい、事情は根深いようだ。
「おそらく奈須に悪魔の力を与えていた男…。何か…、組織のような口ぶりだったが…、この件、想像以上に裏は深いぞ。私はこれからこの事を王国に報告せねばならん。その間、坊っちゃまの事は頼んだぞ」
「アブ…ッ(お…、おい…)」
再び窓から出ようとするヒルダを男鹿は呼び止めようとするが、ヒルダは肩越しに振り返り、警告する。
「気をつけろ。すでに次のスペルマスターが、貴様を狙っている」
そう言い残し、ヒルダは窓から飛び降りてアランドロンとともに去って行った。
ヒルダ達が去って行った窓を見つめ、男鹿は不敵な笑みを浮かべる。
「アイダブ(上等だ)。ダブダブアーイ(富士でも鷹でもかかってきやがれ)」
「いいから、さっさと戻れよ。何言ってんのかわかんねーよ」
「男鹿ヨメよく理解できたな」
古市と因幡につっこまれ、「アイ(おう)。ダブリッシュ(そうだな)」と返して両腕を上げた。
「分離っ!!」
叫ぶと、男鹿とベル坊が分離した。
以前はミルクを600cc飲んで融合をしたことでベル坊と人格が入れ替わっていたが、ベル坊の言葉であれども男鹿の意識は保てるようになっていた。
今では意思一つで分離できるようになったようだ。
(なんなのこいつら、マジで…)
何度も人間離れした光景を目の当たりにし、神崎は怪訝な目を向けた。
「なんだ、自力で戻れんのかよ。すげーじゃん」
「たりめーだ。ナメんな」
古市にそう言い返したのは、ベル坊だ。
「ん?」
「ん?」
「ダブ?」
「「?」」
違和感に気付く。
ベル坊は自身のもみじのような両手を見つめ、真っ裸である自身の体を見下ろした。
「……………」
それからこちらを愕然とした表情で見下ろす古市を見上げてから、男鹿に視線を移した。
「ア―――イ。ダブ?」
男鹿は状況が理解できずに「?」を浮かべる。
古市、男鹿、ベル坊は前にも一度、同じ経験をしていた。
ベル坊と古市は見つめ合い、嫌な汗を浮かべて目で言葉をかわす。
(―――…。まさか…)
(………。うん)
融合のあとに起こる、男鹿とベル坊の精神が入れ替わる副作用だけは、改善できていなかったのだ。
「ダーブーッ!!」
再び男鹿の体を手に入れたベル坊は興奮して雄たけびをあげた。
「なんだっ!?」
神崎がわけもわからず声を上げると、ベル坊は男鹿の体のまま美術室から飛び出してしまう。
「おいっ!! 待てっ、ベル坊っっ!!」
ベル坊の体になってしまった男鹿は呼び止めようと腕を伸ばすが、時すでに遅く、足音は聞こえるか聞こえないかの距離まで遠ざかり、廊下からは「お、おがだ―――っ!!」、「血だらけだぞ―――っ」、「やっちまえ―――」、「ア―――イ」と不良達とベル坊の声が響き渡った。
((これ…、まずくね!?))
敵対している不良達には恰好の的となっている男鹿。
その中身がベル坊になり、今は非常にまずい状態だ。
死にかけのセミでさえ勝てないベル坊の戦闘力なら、下っ端の不良にも一撃で倒されてしまうだろう。
「何してんだ古市っ、追うぞっ!!」
「おっ…、おう!!」
当然、ベル坊を放っておくことができず、男鹿は古市を連れてベル坊を追いかけようと廊下を飛び出す。
「まっ…、待てこら、何がどーなってんだ!! 説明しろ!!」
同じく追いかけようとする神崎に、古市は肩を貸している因幡を預ける。
「神崎先輩は因幡先輩を無事に送り届けてくださいっ!」
「おっ!?」
因幡もパスされ、神崎に受け止められた。
「おい!!」
古市は説明もなく廊下を飛び出して小さな体で走る男鹿を追う。
取り残された神崎と因幡はドアから顔を出してそれを見送った。
「なんなんだよいきなり…」
「古市の奴、ぞんざいに扱いやがって…!」
因幡は見えなくなった古市を睨むように目つきを鋭くさせ、神崎から離れて歩行を試みようとしたが、バランスを崩して壁に顔面を打つ。
「ぶっ…」
「……………」
神崎の視線が背中に刺さるのを感じるが、それでも何事もなかったように取り繕おうと、左脚でぴょこぴょこと跳ねながら廊下へと出る。
「因幡」
神崎は因幡の前に立ち塞がり、背を向けてしゃがんだ。
「乗れ」
「…いい」
拗ねたように視線を逸らすと、神崎はムカッとして強引に因幡の手をとって背中に背負った。
「!! だから、いいって…! おまえだってケガしてんだろ!」
「痛たたた!! 暴れんなこら! 狙われてんのはてめーも同じだろーが!意地張んなバカが!」
因幡の右脚が折られ、責任を感じているのだろう。
因幡は「う―――」と唸りつつ大人しくなり、額を肩口にぐいぐいと押し付ける。
悔しさで胸がいっぱいだった。
(何もできなかった…! もし、男鹿が来なかったら…―――)
きっと、右脚の骨折だけでは済まされなかったはずだ。
それに、あの言葉も胸の中で小骨のように引っかかっている。
『オレらの大将、この学校のNo1なんだよ』
神崎が、男鹿を認めてしまった。
大将だと。
視線を神崎の肩に落とすと、ちょうどそこは王臣紋がある位置だ。
むかっ腹を立てた因幡は気持ちのままに、ガブッ、と肩に噛みついた。
「痛…っ!!?」
「ほのはららはふらん―――(この裸学ラン―――)!!」
あぐあぐと噛みながら悪態をつく因幡に、神崎はわけがわからず「なにがしたいんだてめーは―――っっ!!」とあっちへこっちへ動き回った。
神崎と因幡は、まだ知らない。
こうしている時も、水面下では、ある人物達が不穏な動きを見せていることに。
そしてその中に、姫川が混ざっていることに―――…。
.To be continued