62:特攻隊長の出番です。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
一方、男鹿と奈須は互いの様子を窺いながら向かい合う。
「そろそろ答えて貰うぜ、なすび」
「………………」
「てめぇ、何者だ? ベル坊を狙ってどーする? てめぇが悪魔憑きだってのははっきりした。だったらその悪魔はどこにいる?」
問い詰める男鹿に奈須は笑った。
「だっはっはっ。質問が多すぎるぜ、男鹿っちゃん~。―――ま、答える気もナイんですケド、大サービスで一コだけ教えてあげちゃうナリ」
とぼけるように視線を一度逸らして耳を小指でほじり、間を置いて再び男鹿と目を合わせて答える。
「悪魔憑きじゃなく、『紋章使い(スペルマスター)』ナリ~」
「!!」
(((((『紋章使い(スペルマスター)』!!!)))))
男鹿、古市、ヒルダ、因幡が真っ先に脳裏に浮かべたのは早乙女だ。
その証拠を見せつけるように、奈須は男鹿に右手をかざし、男鹿の足下に自身の紋章を展開した。
「!!」
男鹿はまるで金縛りのような感覚に襲われる。
「動けないナリ?」
指先を動かすことさえままならない。
「……てめぇ以外にもいるのか…?」
「教えてあげないよ♪ ジャンッ!!」
歌うように答えた奈須は、一気に男鹿に詰め寄り、「ヒャッハ――――ッ!!!」と狂ったように殴り続けた。
ミシッ…
その最中、男鹿の振るったコブシが奈須の右頬にめり込み、ブッ飛ばす。
「……っ!?」
まさか男鹿が動けるとは思っていなかっただろう。
驚愕の表情を浮かべ、奈須の体は背後にあった美術品を並べた棚にぶつかり、美術品ごと棚を壊した。
「悪いな。そーゆー術は、早乙女に嫌っちゅーほど教えられたんだ。ぬけ方もな」
男鹿はそう言いながら尻餅をつく奈須に歩み寄り、見下ろす。
「洗いざらい吐かせてやるよ。力ずくでな」
それを聞いた奈須は、流れ出た鼻血を舐め、一瞬不敵な笑みを浮かべた。
「―――さすがに、あの程度の力で勝とうなんて虫がよすぎたね」
立ち上がり、両手をぷらぷらと振ってから左手のコブシを握りしめる。
「ん―――。パワ―――アップ」
右腕を左に伸ばし、ポーズを決めた。
不可解な行動に呆気にとられる男鹿だが、途端に、まるで酔っているような、不気味な千鳥足で奈須が男鹿に近づく。
「おぉっ!? !?」
至近距離までくると、突然、奈須の姿が視界から消えた。
ゴッ!!
だが、次の瞬間、アゴに鈍い痛みが走った。
床に両手をつけた奈須が男鹿のアゴを蹴り上げたからだ。
「……っ、やろうっ」
反撃しようと右脚を振るう男鹿だが、奈須は柔軟な動きでそれをかわし、男鹿に背を向けたまま後ろに飛ぶ。
「なっ」
男鹿の目前に奈須の背中が迫って視界を遮られ、
ガンッ!!
半回転した奈須のコブシに殴り飛ばされる。
床に背を打ち付ける前に、男鹿は宙返りして受け身をとり、奈須を見据えた。
「……っ」
(なんだ…、こいつの戦い方…!!)
フラフラと揺れているせいで動きがつかめない。
「紋章術(スペル)を習った? とか言ったよね、男鹿っちゃん」
奈須は不気味な動きを止めると、男鹿に問いかける。
「あ?」
「『縛紋』をぬけたくらいで調子にのっちゃって。あんなもん、初歩の初歩。チロルチョコで言えばプレーン。んまい棒で言えばチーズ味。天空のラピュタで言えばシータがムスカビンで殴り倒したとこナリよ~」
ベッと舌を出して小馬鹿にするように言っている間、奈須の左胸の紋章が全身に広がり始める。
「メイドのみやげはオムライスにハートマークっちゅーわけで、見せてあげるナリ。これが本当の、悪魔の力の使い方だっちゃ」
紋章が全身に浮かび上がると、今度は奈須を中心に紋章の光の輪が展開し、眩い光を放った。
「!!!」
肌で感じる強大な魔力。
次はどんな力を発揮してくるのか想像もつかなかった。
「悪魔は支配するもの。利用するもの。蚕やミツバチと同じだっちゃ。まして親子だの、家族だの」
ゴッ!!
軽く跳ねた奈須が、次の瞬間には男鹿の懐に移動し、コブシを打ちこんだ。
反射的に両腕で顔面を庇った男鹿だが、力に押し負け天井目掛けて弾き飛ばされる。
「!!! ぐっ」
「眠てーにもほどがあるナリよ、子連れ番長」
男鹿は天井に足をつけて自身の紋章を展開させて反撃しようと試みるが、奈須が右手をかざすと、次々と現れた奈須の紋章が男鹿の紋章と重なる。
「!!?」
上書きされた男鹿の紋章は消えてなくなった。
「なっ…」
「ぬるい」
奈須は、天井から落ちてくる男鹿の頭をつかみ、容赦なく壁に打ち付けた。
そのあと、顔を近づけ、至近距離で見下すような眼差しを向ける。
「そんなすげー悪魔持ってても意味ないナリねー。オレによこしなさい下さいよ。そしたらもっと、しぼって」
右手で頭を押さえつけたまま、空いた左手でコブシを握り、男鹿の腹に打ち込み続けた。
男鹿が血を吐き出してもおかまいなしだ。
「しぼってしぼってしぼってしぼってしぼってしぼってしぼってしぼってしぼってしぼってしぼってしぼって」
「しぼって」の数だけ打ち込んだあと、ようやく手を放し、男鹿はその場にうつ伏せに倒れた。
奈須はその頭を踏みつけ、乱れた髪を両手で撫で付けて逆立たせる。
「最後の一滴になるまで、魔力を引きずり出してやるナリよ。ベールちゃん」
男鹿の背中にしがみついたままのベル坊は、冷や汗を浮かべた。
奈須はしゃがんで男鹿の頭に触れる。
「てっぺんとるって事は支配する事。悪魔も仲間も同じだっちゃ。たった一人『王臣』が出来たくらいでチョーシのっちゃったねー。あのね、あんな成り立てのヒヨッコ一人にうちの4人が負けるわけないでしょ。せめて東邦神姫全員……」
ドゴシャ!
言いかけている途中で、何か大きなものがぶつかった音に振り返る。
そこには、美術に関する本だけ並べた本棚にぶつかり、気を失った鬼束の姿があった。
飛ばされた方向を見ると、学ランの上着を肩にかけた満身創痍の神崎が息を荒くして立っている。
「東邦神『鬼』だぁ? ボケが。てめぇじゃ役不足だよ」
鬼束を見下ろして吐き捨てる神崎の後ろには、うつ伏せに倒れた亀山がいた。
「………っ」
まさか神崎一人で仲間が全員がやられるとは思っていたのだろう。
みくびっていたことにようやく気付かされた奈須は顔を強張らせる。
「おい、よそ見してていーのか?」
神崎はアゴで男鹿を指す。
直後、背筋が凍りつくような感覚とともに背後で男鹿が立ち上がったことを感じ、すぐさま後ろに飛んで距離を置いた。
(…なんだ…? 今の寒気は……)
口元に薄笑みを貼り付けるが、額には冷や汗が浮かんだ。
「……お父さんスイッチ「は」…」
呟くように口にした男鹿に「は?」と漏らした瞬間、男鹿の体が一気に目の前まで詰め寄り、コブシを振るった。
「話がよくわからんっ!!!!」
ゴッ!!
再び顔を殴りつけられた奈須。
1度目と違って威力は大きく、派手に床に倒れた。
(なんだ―――…!? 何が起こった…!!?)
手負いの相手とは思えない力だった。
背中を打ち付けて前を見ると、こちらを見下ろす男鹿と目が合った。
(なぜオレは今、こいつを見上げている―――…!!?)
疑問ばかりが浮かぶ。
こんなはずではなかった、と。
自分が見下ろされることなどありえないと自負していた。
だからこそ、この展開は激しく奈須を動揺させた。
「立てよ、なすび…。支配だの利用だの、眠てーのはてめーだって事を教えてやる」
「このチート野郎が」
男鹿の挑発的な言葉に、ついに奈須がキレた。
「実力で互角に戦えてるなんて思ってんんじゃねーぞ、こら。今のはただの悪魔のスペックの差だろーが。それを何が……」
口調が乱暴になり、空気が殺気立つとともに奈須の全身に再び紋章が浮かび上がる。
「お父さんスイッチだっっ!!!」
声を張り上げ、紋章術を発動させるために印を結んだ。
「!?」
男鹿の目の前に縦1列になって出現する、奈須の3つの紋章。
「『開紋加速(スペルゲートブースト)』!!!!」
コブシを構えた奈須が床を蹴って展開させた紋章に飛び込むと、潜るにつれてスピードが上がり、男鹿に突っ込む。
しかし、振るわれたコブシを男鹿は簡単に受け止めた。左手で奈須をつかんだまま、空いた手でコブシを握りしめる。
「『お父さんスイッチ「て」「べ」「ま」』」
技名を口にし、コブシを振るった。
「てめぇに!!」
ドッ!!
「ベル坊は!!」
ゴッ!!
「まかせらんねぇなっ!!!」
ゴギャ!!
最初は腹に食らわせ、次に頭をつかんで膝蹴りを顔面に打ち込み、最後はその顔面を蹴り上げてブッ飛ばす。
(なぜだ―――!!? なぜオレが、飛ばされる…!!! ―――こんな…、こんなスペルの使い方も満足に知らない奴に―――…。なぜ、力で押し負ける!!?)
再び疑問の嵐に襲われる。
床に体を打ち付けられた奈須は、座り込むような体勢になり、左手で鈍く痛む顔面を押さえる。
「……………」
(―――スペックの差? 違う―――…。感じる魔力で言えば、明らかにオレの方が上…。それをうまく扱えているのも、オレ…。―――なのに、こいつの拳は、こんなにも重い)
生温かい流血を感じ、男鹿を睨みつける。
形勢はいつの間にか逆転している。
このままでは敗北は目に見えていた。
立ち上がって打開策を考えていると、
ドクン
突然、心臓を握りしめられた感覚に襲われる。
「がっ…」
「「「「「!!?」」」」」
奈須の異変にその場にいた誰もが気付いた。
とんでもない量の魔力がどこからか奈須に注がれ、奈須の体は限界を訴えるようにガクガクと痙攣した。
奈須は持ちこたえようと呼吸を荒く繰り返し、魔力を送り込んだ人物を頭に浮かべて舌を打つ。
「あ…がっ…、うぐっ…。…ちっ…、あの野郎…、余計な事を…。うっ…、あぁああああぁあっ!!!」
絶叫とともに、その場に、数十人の奈須が出現した。
「なっ…!?」
「ふっ…」
「増えたっ!!」
現実離れした光景に因幡達が驚く中、男鹿は静かに問う。
「……それも、紋章術かよ」
奈須達はバラバラに答えた。
「『ドッペルゲンガー』」
「オレの悪魔が持つ力だ」
「分身や残像なんかじゃねぇ…」
「強さはそのまま全員オリジナルと同じ」
そこで因幡は勘付いた。
「それで仲間達の分身を作って、オレ達の目を欺いたってことか?」
奈須達は同時にくつくつと笑う。
「その通り」
「ちょっと暴走気味だが…」
「もうてめーには、万に一つも勝ち目はねーぞ」
しかし男鹿に怯んだ様子はなく、ミルクの入ったスキットルを取り出し、中身をすべて飲み干した。
「こいよ」
挑発的に手招きをすると、奈須達の顔にいくつもの青筋が浮かび、怒りを爆発させて一斉に男鹿に飛びかかった。
「スカしてんじゃねぇぞっっ!!! カスがっっ!!!」
『600cc。暗黒武闘(スーパーミルクタイム)+お父さんスイッチ―――…「ダ」』
ミルクをすべて飲み干してベル坊と融合した、おしゃぶりを咥えた男鹿。
光が纏った瞬間、男鹿のコブシがマシンガンのように繰り出され、次々と奈須達をブッ飛ばす。
「ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ―――ッ!!!!」
(―――融合…だと…? ありえねぇ―――…!!!)
意識が飛ぶ際、奈須は最後まで疑問だけを浮かばせた。
それが敗因だったとも知らず。
「ダ(何も背負ってねぇ奴にゃ、負ける気がしねぇな的な)」
奈須達はすべて天井に膝下までめり込まされ、見事な「ダ」の文字の形を作っていた。
「アダブ…(しまった…)。ブダ~~(悪魔の事、聞き忘れた…)」
ベル坊と融合した男鹿は天井にめり込んでいる奈須を見上げながら呟いた。
男鹿は普通に喋っているつもりだが、ベル坊の喋り方のせいで何を言ってるのか古市達にはわからない。
「…………」
「…………」
「…………」
「ダーブー(おーい、ヒルダー)。ブ?(あれ?)」
男鹿はヒルダに声をかけようとしたが、美術室を見回しても、先程いたはずのヒルダはアランドロンとともに姿を消していた。
「アダブ…(どこ行きやがった、アイツ)」
開けられた窓から吹き抜ける冷たい風が、カーテンを揺らした。
.