62:特攻隊長の出番です。
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石矢魔高校の空に、トランペットの音が高らかに轟く。
屋上では、日野と塩入の2人が演奏の練習をしていた。
「きいたか? パックマン」
バッチを宙で回転させ、塩入は傍らに立つ日野に声をかける。
「何が?」
「明日の5時決行だってよ、例の聖潰し」
日野は仮面の口からトランペットを外し、くつくつと笑った。
「あぁ、あの作戦、本当にやるんだ。なすびも好きだねー。けど、そーなると練習してる場合じゃないね」
「あぁ、準備だ。気どられるなよ」
奈須の作戦がどういうものかは詳細は口にせず、日野と塩入は自分の楽器を持ってペントハウスから屋上を出て行く。
それを物陰から窺っていた、神崎と古市。
日野と塩入が出て行ったことを確認し、神崎は別の場所にいる聖石矢魔メンバーと連絡を取るため、複数電話にかける。
「もしもし、こちら神崎・古市班。ターゲット2人が屋上からおりた。補足を頼む」
最初に応答したのは屋上から1階下にいる夏目だ。
傍では因幡が飴をくわえ、夏目の電話の音声に耳を澄ませている。
「はいはーい、こちら夏目と因幡班。見えてるよー」
「あいつら、今なら後ろから蹴飛ばせるぞ」
「因幡」
それが聞こえた神崎は電話越しに因幡を叱咤し、因幡は舌を打って苛立つように頭を掻いた。
「チッ。わかってるっつの」
城山の仇を討つチャンスだが、今は出しゃばる時ではない。
たった今、階段をおりる日野と塩入の背中を曲がり角の陰から見かけ、それを目で追い、神崎に伝える。
「2人は2年棟に向かう模様。まずいね、このままだと仲間と合流しちゃうよー」
次に応答したのは、陣野だ。
「こちら陣野・相沢班。鬼束を補足。音楽室だ」
その横で、相沢は張り込み刑事のようにアンパンを頬張っていた。
陣野は音楽室の前にあるドアから、中にいる鬼束を窺う。
騒霊組のピアノ担当である鬼束は、そこでピアノの練習をしていた。
楽譜の音符を目で追いながら真剣な表情で引いているが、騒音かと思い違うほど下手くそだ。
「あいつにこんな趣味があったとは驚きだが、はっきり言ってピアノの腕はゲロヘタだ」
「その情報、いります?」
どうでもいい情報に古市がつっこむ。
今度は谷村が出た。
購買の付近で大森とともに騒霊組のメンバーを監視している。
「こちら谷村・大森班。購買で亀山とかいう革ジャンを補足。ゲームの時を思い出しますねっ」
張り込み刑事のような状況にわずかに谷村は胸を躍らせていた。
その傍らにいる大森は不満そうに、缶コーヒーを飲もうとしている亀山を窺っている。
「ったく2代目の事もあるってのに…、なんで私らまで…」
「了解。監視を続けろ」
位置を確認した神崎はスマホを通話モードにしたまま、古市とともに階段を駆け下りた。
「どーします? いい具合にバラけてますけど」
「肝心の奈須がいねぇ。探すぞ」
作戦では、部下達の動きを監視しながらその情報を伝え、騒霊組の大将である奈須がひとりきりの時を狙って、聖組の大将である男鹿をぶつけること。
大将が敗北すれば、その大将の部下達も負けを認めざるを得ないだろう。
しかし、それには未だ納得いかず、神崎は舌を打った。
大将ひとり倒して終わりという勝負のつけ方が気に食わない。
「ちッ…。釈然としねーぜ。姫川のバカは協力しねぇしよ」
「好きにやる」と途中で作戦会議から抜け出た姫川のことを思い出し、さらに苛立つ。
「神崎先輩っ」
廊下を走っていると、突然美術室の前で立ち止まった古市は声を潜め、神崎を手招きする。
閉められたドアのガラスから中を窺うと、奈須を発見した。
奈須はなぜか、口に一輪の花を咥え、半裸で、胸には房のようなものをつけ、ポーズをとっていた。
異様な光景に不気味さを覚える。
「いた……」
「奈須……」
「てか、何してんの?」
意外とあっさり見つけてしまい、一応電話で奈須の発見を報告する。
「奈須をみつけた!? 待てっ!! 罠かもしれんっ。男鹿がいくまで手を出すなっ!! 今からオレ達も向かうっ」
連絡を受けた陣野は相沢とともに一旦鬼束の監視から外れ、美術室へと走った。
迂闊な行動に出ないように警告したつもりだったが、その警告が逆に神崎の感情を逆なでさせてしまう。
「あぁ!?」
目標を前にじっと待っていることなどできなかった。
こんな時に、悠長に男鹿の到着を待つなど。
奈須に借りがあるのは自分も同じなのに。
神崎の中に、男鹿に対する妬みと苛立ちが渦巻いた。
(どいつもこいつも、男鹿・男鹿・男鹿―――…!! 殺六縁起も聖の連中も、オレなんざ眼中にねぇってか…!? ―――いつからだ? 東邦神姫と恐れられた神崎様がこんなザコ扱いされるようになったのは―――…。そしてそれを、まぁいいかなんて思うようになったのは………)
目を覚まさせてくれたのは、城山だ。
自分を庇って倒れた城山が脳裏をよぎり、沸々と怒りが湧き水のように内側を満たし、目つきが鋭くなる。
「…神崎?」
夏目と因幡が2年棟3階の廊下を渡る日野と塩入を追跡中、夏目のスマホを借りて神崎の報告を聞いていた因幡は、急に黙りこんだ神崎に、怪訝な表情を浮かべ、嫌な予感を覚えた。
やってやる、と電話越しに神崎の心の声が聞こえた気がした。
「あいつ…!!」
(オレの事は引き止めておきながら…!!)
美術室はこの1階下だ。
「この下、美術室だったな…。夏目、あと頼んだっ」
「え?」
因幡は持っていたスマホを夏目に投げ渡し、窓から飛び降りる。
「因幡ちゃ…!」
唐突な行動に驚いた夏目は、因幡が飛び降りた窓に駆け寄り、下を見たが、そこに因幡の姿はなかった。
因幡は1階下の窓枠につかまり、そこを乗り越えて美術室の目前まで近道しただけだった。
「神崎…!」
廊下に着地して顔を上げるなり、こちらに振り返った古市と顔が合う。
「あれ!? 因幡先ぱ…」
しかし、時はすでに遅く、神崎は美術室のドアを開けて突入していた。
「なすびぃぃっっ!!!」
怒声を上げて美術室に踏み込んだ神崎は、目の前の光景に我が目を疑った。
聖石矢魔組がそれぞれ分かれて監視していたはずの奈須の仲間達が全員そこにいたからだ。
奈須、鬼束、亀山、日野、塩入、他の騒霊組の不良達は、目を大きく見開いて驚いている神崎、古市、因幡を見据えてる。
いかにも入ってくるのを待ち構えていたように。
奈須は花を咥えたままニッと笑い、右手で3本の指を立てる。
「3名様、ごあんなーい」
「なっ…」
「わっ」
「!?」
神崎の一歩後ろに立っていた古市と因幡は、突然後ろから不良に突き飛ばされて美術室に踏み込むと同時にドアを閉められ、鍵までかけられる。
「ど…、どういう事だ……!? てめーら全員バラバラにいたはずじゃ…」
通話モードにしたままのスマホからは、神崎のその声が聞こえたのか、大森が現にそれを伝えている。
「何!? どうしたの神崎!? やつらならちゃんと目の前にいるわよ!?」
「どうなって…。だって、さっきまで……」
因幡も、美術室に来る前に日野と塩入がこの上の廊下を歩いているのを目撃している。
その反応が滑稽なのか、亀山と日野は不気味に笑っていた。
「イッツ騒霊―――マジィ―――ック」
奈須はベッと舌を出し、両腕を広げる。
「「!!」」
古市と因幡は、奈須の左胸にある紋章を目にする。
形は牛のようだが、男鹿のゼブルスペルと似ていた。
そして、ある可能性を思い浮かべる。
奈須は、悪魔の契約者だと。
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