61:魔窟が復活しました。
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殺戮縁起とは、聖石矢魔学園以外の高校に転校した生徒達の中でも特に噂になっている1年生のことだ。
火炙高校『皆紅の扇』赤星貫九郎・魔女狩学園『タバコ』鳳城林檎・鯖徒高校『座頭市』市川蝦庵を「三王」と呼び、その上の存在として騒霊高校『ぶっとび茄子』奈須洋平・堕天高校『帝王』鷹宮忍・神曲高校の藤を「三怪」と呼ぶ。
縁起物に準えているので「石矢魔殺六縁起」と名付けられたのだ。
男鹿、古市、神崎、夏目、城山はその三怪の奈須と対峙していた。
あとになり、騒ぎを聞きつけて赤星と市川も到着した。
男鹿が片手で壁を破壊したのは、奈須と赤星と市川が構わず戦い始めたのに腹を立てたからだ。
鉄筋で造られた壁を片手で壊すという人間離れしたその実力を見せられ、場には沈黙が流れ、やがて不良達はざわめいた。
不気味に笑う奈須は拍手を送る。
「いーねいーね、オガっちゃん。そーこなくっちゃ。やっぱ赤ん坊のいる男ってのは強いねー。オレも欲しくなっちゃった」
「アホが。てめーなんざ男鹿と比べたら…」
奈須にケガを負わされ、城山に肩を貸された神崎が指をさして言いかけた時だ。
「神崎君っ!!」
先に気付いたのが夏目で、次に気が付いたのが城山だ。
サスペンダーをした太った男が太鼓のばちを振り上げ、背後から神崎に振り下ろそうとしたのが目の端に入った。
「神崎さんっ!!」
城山は反射的に神崎の背後に立ち、
ゴキン!!
「がっ…」
「!!」
神崎を庇って振り下ろされたばちを後頭部に食らってしまった。
「城山…っ!!」
神崎は、廊下にうつ伏せに倒れた城山に声をかけたが、城山はあの一撃で気を失い、頭部から流れ出た血が床に広がった。
「遅せーぞ、なすび」
「ったく、今日は練習の日だろーが」
壊された壁から廊下に入ってきたのは、奈須の手下達だ。
「バンマスが遅れてんじゃねーよ」
騒霊高校組の2年、トランペット担当「パックマン」日野照臣。
「今日はみんなでハ○晴レユカイ仕上げんだろ、コラ」
騒霊高校組の3年、ベース担当「アクオス」亀山誠次。
「……………太鼓がなるぜ…」
城山にケガを負わせた、騒霊組3年、太鼓担当「クマさん」塩入泰造。
「……………」
騒霊組の3年、かつては3年になるまでに東条に一歩も引かなかった実力者で、ピアノ担当「暴走トレイラー」鬼束みさお。
鑑別所に入る前は、東邦神姫の「姫」の部分は、鬼束の「鬼」であった過去を持っている。
「アチャ。お迎えが来ちゃいました☆ そーゆーわけで、今日はここまでだっちゃ、オガっちゃん」
「ああっ!?」
先に喧嘩を吹っかけてきたのは奈須だ。
中途半端なところで投げる奈須に男鹿は腹を立てて声を荒げた。
「気ぃつけなっせ。一人ずつ、聖の人間は消していって…、最後には、その赤ん坊をいただくナリ~」
「!?」
ベル坊の何を知っているのか、奈須は宣言してベル坊を指さす。
「ヨロチクビーム☆」
それだけ言い残し、背を向けた奈須は鬼束たちとともにその場をあとにした。
男鹿はヘタに追いかけず、その背中を見送る。
「赤ん坊…?」
「何言っとるんじゃ、あいつは…」
事情を知らない様子の赤星と市川も、疑問を抱いたまま、男鹿とともに小さくなるその背中を眺めていた。
「あん? どーしたベル坊」
奈須がいなくなると、男鹿の頭に載るベル坊は、男鹿の髪をいきなり毟りだす。
「ダッ」
「いたいいたい」
「ブッ」
「ハゲんだろやめろコラ」
一本ずつではなく束で容赦なくブチブチと引き抜かれ、男鹿は痛みにたまらず頭を振る。
「ストレスだな。昔飼ってたウチのハムスターもストレスで毛を抜きまくっていたぞ」
「うるせーよ。安心して急に出てくんじゃねぇ」
今まで安全な壁際に隠れていた古市に、苛立った男鹿がつっこんだ。
「つーかベル坊っ、マジいてぇっつの!! てめぇも抜くなら自分の毛ぇ抜けやっっ!!」
「アダブッ!!」
そんなやり取りを見せつけられ、赤星と市川の興が冷めてしまう。
「ちぃ。シラけちまったわい。いくぞおまえら」
市川は他の鯖徒組に声をかけ、踵を返す。
「蝦庵」
「今やっても無駄に血ぃ流すだけじゃあ。なすびが引っ込んだんならそれでええ。じゃがの男鹿、油断しとったら、いつでもタマとりにいくきの。『座頭市』市川蝦庵。憶えときんしゃい」
こちらも挑発的な言葉を残し、鯖徒組の石矢魔生を引き連れて行った。
「何弁だよハゲ」
市川については赤星がその背中を見送りながら説明する。
「鯖徒高校の市川…。情に厚く涙脆い親分肌の1年だ。あぁ見えて慎重なところが油断ならねぇ。気ぃつけな」
忠告を受けた男鹿は、「おまえは…?」と問う。赤星は男鹿と目を合わせ、挑発的な笑みを向けた。
「火炙高校の赤星。いずれ石矢魔のてっぺんをとる男だ。てめーを叩き潰してな」
(―――…こいつ、男鹿に似てる…?)
顔つきどころか雰囲気もそっくりだ。
古市と同じことを思ったのか、ベル坊は「ア―――」と発した。
「安心しな。オレは不意打ちなんてせこいマネはしねぇ。正々堂々、フェアにやろうぜ」
そう言って赤星は火炙組とともに昇降口から出て行った。
男鹿、古市、神崎、夏目は赤星を見送る。
「…嵐のあとのようだな」
「因幡先輩」
破壊された壁からひょっこりと顔を出したのは因幡は、そこから廊下に土足で入り、倒れた城山の前で立ち止まって見下ろした。
「……城山…」
「…騒霊組の奈須の手下にやられたんだ」
壊された壁に近づいてまさかとは思った。
すでにやられたあとで、駆けつけた時には騒ぎは終わっていた。
因幡はコブシを握りしめ、腹の底から湧き上がる怒りに堪える。
「……………」
神崎は押し黙ったまま、自分より一回りも二回りも大きな城山を運ぶつもりなのか、腕をつかんで肩に回して立ち上がろうとするが、脱力した巨体は重く、奈須にやられた傷が痛んだ。
「ぐ…っ」
「!」
神崎が膝をつく前に、因幡は反対側の腕をつかんで支えようと踏ん張る。
「くっ…、重…っ」
「因幡…」
なんとか腕を肩に回した因幡は神崎とともに昇降口へと向かった。
「2人とも、無茶しないで」
夏目もあとに続く。
どちらかが転びそうになれば支えてあげた。
そんな4人の背中を木陰で見据えるのは、なごりだ。
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