60:あけましておめでとうございます。
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因幡は寝間着姿で、自分の中に存在する、シロトの世界を茫然と眺めていた。
訪れたのは数回ほどだが、明らかに様子がおかしい。
そこは温度を感じさせない一面真っ白な場所なはずだった。
しかし、今は身を震わせるほどの冷気で満ちている。
不審に思いながら進んでいくと、見慣れないものを見つけてしまう。
巨大な氷塊。
「…シロト…!?」
氷塊の中には、シロトがうずくまるような姿で閉じ込められていた。
顔は膝に埋められ、神崎の顔なのか姫川の顔なのか判別できない。
ただならぬ事態に、因幡はコブシで氷塊を叩く。
「シロト! どうしたんだ!?」
呼びかけても、シロトはまったく反応を示さない。
「シロト!!」
はっと目を覚ますと、自分の部屋の天井が目に入った。
「…………なんだったんだよ…、今の……」
カーテンの隙間からは、新年の朝陽が差し込んでいた。
*****
因幡は、ようやく退院した家族分の朝食を作りながら、先に起きてコーヒーを飲んでいたコハルに今朝の夢のことを話した。
「シロトが?」
「ああ。氷漬けになってた」
元はシロトの契約者である母のコハルならなにか知っているかと思ったが、ソファーに座るコハルは考え込むような顔をしている。
コハルには身に覚えのない事態なのだろう。
「……その様子じゃ、今までそういうこと、なかったのか…」
因幡はオムレツをひっくり返しながら言う。
「……………」
「!」
黙り込んだコハルを肩越しに見ると、真剣な眼差しをこちらに向けていることに気付いた。
「ど、どうした?」
「……桃ちゃん、最近、どこかおかしいところとかない?」
因幡は目線を上にあげて思い出そうとするが、心当たりはない。
「いや? 別に。風邪引いたわけでも、頭痛がするわけでもねーし…」
「……そう」
目を伏せるコハルに、因幡は怪訝な表情を浮かべる。
「なんだよ…」
するとコハルは手を叩き、薄笑みを浮かべてこちらに振り向く。
「…ほら、昨夜は冷えたじゃない? もしかしたら、それ、初夢かもしれないから、体調管理には十分気をつけるのよ。桃ちゃんは風邪を引いたら重いし、長いんだから」
「初夢って…」
では、夢のように見えたあの景色は本当の夢で、シロトの世界に踏み込んだわけではないとそう言いたいのか。
しかし、現に今も依代である右靴に呼びかけてもシロトからの応答はなにもない。
「けど、母さん、現にシロトに呼びかけても無反応なわけだし、やっぱり何かあったんじゃ…」
「シロトだって、正月休みしたい時くらいあるわよ。寝正月? それに、そう理由かはわからないけど、シロトが何も応えてくれない時は母さんにもあったわ」
「そ…、そうなのか…?」
前半はともかく後半のコハルの言葉には信憑性がある。
コハルが経験していることは、自分も経験するのだから。
「シロトのことはもう少し様子を見ましょう。…今はそんなことより、時間、いいの? 神崎君たちと初詣に行くんでしょ?」
「え、あ、そっか。もうそんな時間か!」
壁にかかってある壁時計を見上げ、因幡は作り立てのオムレツを皿に盛りつけたあと、急いでエプロンを外して準備に取り掛かる。
「母さんはあとで来るんだろ?」
「ええ。遅れていくけど、私のことは構わず楽しんできて」
「おうっ」
テーブルに置いたスマホをつかんだあと、黒のダッフルジャケットを着、赤のマフラーを巻いてからダイニングを飛び出す。
コハルはあわただしい背中を見送る間際、因幡の首元の結晶を静かに見据えていた。
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