59:サンタを手に入れるの誰でしょう。
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それから散々騒いだ挙句、日付は変わり、因幡とその膝に座る二葉は疲れ切った様子でコントローラーを握りしめたまま寝息を立てていた。
桜はその2人に毛布をかけ、机で伏せて眠っている夏目と城山と春樹の背中にもかける。
ダイニングで起きているのは、神崎、姫川、桜の3人だけだ。
「すまねーな」
神崎はヨーグルッチを飲みながら桜に礼を言い、桜は微笑んだ。
「はしゃぎ疲れたのね…」
「イベントもあったしな」
「やべ…。オレも眠くなってきた」
そのイベントに参加していた神崎も、あとから追うように眠気に襲われ、目を擦る。
「今日は泊まっていってください。終電もありませんし…」
「ん…。そうさせてもらうぜ…」
「オレは帰る。蓮井も呼んでおいたし」
姫川はそう言ってマフラーを巻き、コートを着た。
「そうですか…」
それなら仕方ない、と桜は引き止めずに玄関まで見送る。
神崎も立ち上がって見送ることにした。
玄関で靴を履きかえる姫川に、桜は「ケーキ、ありがとうございました」と礼を言って、姫川も「ああ」と短く答えて立ち上がる。
「寒いし、ここまででいい」
ドアを開けると、冷たい風が家の中に入り込んできた。
雪はまだ降り続いている。
玄関先を見ると、すでに蓮井がリムジンの前で待っていた。
「……神崎…」
「?」
空気を読んだ桜は気を遣い、姫川にもう一度礼をしてダイニングへと戻った。
それを目で確認した姫川は口を開く。
「おまえ、今日の戦いで男鹿と因幡の勝負、どっちが勝ってたと思う?」
「どっちって…」
不意な質問に驚き、戦っていた2人を思い出して押し黙る。
「あいつらがちゃんと戦ってるとこは、オレも初めて見たが…、正直、オレにも予測できなかった」
「てめーが聞いといて…」
「わからねーか? あの男鹿と互角だったんだ。勝敗がわからねーほど…。因幡の力量は、オレ達をはるかに上回ってる。それに気づかねえほどてめーもバカじゃねえだろ? あいつがオレ達に引っ付いて、大人しくしてるだけで…。だからといって夏目みたいに余裕を持てる奴でもない」
「……………」
「因幡も、男鹿みたいにおかしな力を使うようだし…、あれで因幡が実力で勝ってたら、石矢魔の奴らの見方も変わる…。オレ達も…」
「変わらねーよ。…因幡は、因幡のままだ。それがわからねーほど、てめーもバカじゃねーだろ?」
「……やっぱり、てめーはバカだ」
「あ゛? ケンカ売ってんのか?」
「あいつが変わらなくても、オレ達が変わっちまうかもしれねーのに…。けど、ま、おまえはそのままなんだろうな…」
呟いた姫川は薄笑みを神崎に向け、神崎は「姫川?」と首を傾げる。
「神崎…、オレはもう手遅れなのかもしれない…。因幡のことに関しても…、おまえのことに…関しても…」
「な…に言って…」
「……いずれ話してやるよ…。いずれ、な」
気になる言葉を残し、姫川は「じゃあな」と因幡の家を出て行く。
「姫か…」
神崎が何か声をかけて呼び止めようとしたが、その前にドアに遮断されてしまった。
(姫川…?)
小さな懸念を覚え、神崎はしばらく閉ざされたドアを見つめていた。
姫川は、蓮井に後部座席のドアから車内に乗り込む前に、一度因幡の家に振り返る。
「…竜也様?」
「いや…、なんでもない…」
姫川は目を伏せて返し、暖房の効いた車内に乗り込んだ。
蓮井はドアを閉め、運転席に乗り込んでエンジンをかけて発車させる。
柔らかいシートに腰掛けた姫川は、視線を見上げ、先程のやり取りを思い出す。
(オレは…、何を……)
気を紛らわそうとスマホを取り出すと、因幡が無理やり渡したストラップが揺れたのが目に入った。
「……………」
「賢い奴は悩み事が多くて困るよなぁ」
「!!?」
はっと横に振り向くと、そこにはずっといたというように、なごりが両手を頭の後ろに組んで座っていた。
蓮井も知らなかったのか、ミラー越しに見て驚いている様子だ。
「おま…!!」
「どーもー、姫川氏」
「いつの間に……」
「執事さん、このまま走行を続けてくれない? 話をするだけだから…」
「……蓮井、運転を止めるな」
「…かしこまりました」
姫川に命じられれば、蓮井は従順に従うのみ。
冷静を取り戻した姫川も、ヘタに逆らわない方がいいのだろうと判断した。
なごりは小さく笑い、「どうも」と蓮井と姫川に礼を言う。
「このオレに話だなんていい度胸じゃねえか」
「聞いてみる価値くらいはある…。こっちは、姫川氏が欲しそうな情報を全部、持ち合わせてるから」
「へぇ? てめーがオレの何を知って…」
「全部だ。何から聞きたい? 男鹿氏のこと? ハニーのこと? それとも…、過去の屈辱のこと?」
「……………」
沈黙は肯定と受け取ったのか、なごりは「あははっ」と笑った。
「聞きたいことから話してあげる」
「…代償はなんだ? タダで教えてくれるわけじゃねーんだろ?」
取引は慎重に。
姫川は裏がないか警戒しながら尋ねる。
「聞いてくれるだけでいい。…オレもさぁ…、グシャ…ッと潰してぇのが山ほどあって困ってる。オレの話を聞いてくれたら…、アンタはたぶん、オレがやってほしい行動をとってくれそうだ」
こちらを見る赤い瞳が合った瞬間、姫川は明らかに空気が変わったことを感じ取った。
いつ以来だろう。
悪魔野学園で、ジャバウォックをこの目で見た時のような悪寒だ。
「聞いてくれるよな? アンタだって、気になってんだろ?」
まるで、悪魔の囁きだ。
賭けにも近い。
それを聞いて、普段通りの自分でいられるのか。
しかし、ここまで深入りしてしまった以上、引き返すこともできない。
「……………」
意を決した姫川は、頷いた。
.To be continued