59:サンタを手に入れるの誰でしょう。
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雪の降る夜、学校からそのまま因幡家が入院する病院で小さなクリスマスパーティーが開かれてた。
病院なのであまり騒ぐことはできず、メンバーも足りなかった。
「姉貴と春樹は?」
「外よ。クリスマスくらい友達とやりたいみたい…」
「大人になったなぁ。父さんは寂しいよ」
日向は取り出したハンカチで目元を拭った。
「いいのかよ。勝手に抜け出して…」
「あなたも人の事言えないわよ、桃ちゃん。まあ、あの2人は丈夫だし…。そろそろ退院してもよかったらしいから…、いいんじゃない?」
「あ…そ…」
日向の気持ちがわかるのか、因幡も寂しそうに呟いて窓の外の雪を見つめる。
小棚には小さなクリスマスツリーが飾られ、シャンパンと小さなケーキがあった。
去年と比べて物寂しいが、父親と母親とこうしてクリスマスを過ごすのも悪いものではない。
因幡は用意していたプレゼントを2人に渡し、残ったプレゼントは本人達に会ってからでいいかと持っておくことにした。
そこでコハルは思い出したように言う。
「あ、そうだ…。桃ちゃん、ごめんなさい。家に戻って取ってきてほしいものがあるの。仕事部屋の引き出しに入ってるトーンなんだけど…」
「…今日くらい、仕事のことはいいだろ…」
せっかくのクリスマスなのだから、と珍しく休息をすすめたが、コハルは両手を合わせて懇願する。
「おねがいっ。貼り忘れがあったみたいで…。それがないとぐっすり眠れそうになくって…」
いつもは仕事から逃げようとするコハルだったが、どうしてもと言われれば頼むを聞くほかにない。
因幡は「わかったよ」と肩を落とし、マフラーを首に巻いて学生カバンを持ち、時計を確認してから病室から出て行こうとした。
「桃ちゃん。メリークリスマス」
「メリークリスマス」
「? …ああ、メリクリー」
いきなり両親に当日限定の挨拶を言われて戸惑った因幡だったが、略して返し、怪訝な表情をしながら病室を出て行った。
外は昼間と違って凍えた寒さで、雪の中、家に向かう因幡は、冷たい風が吹くたびに首をすくめ、耳と鼻を真っ赤にさせていた。
いつものように家と家を飛び移りたくても寒さに負け、仕方なく徒歩だ。
「寒ぃー。ホワイトクリスマスとかロマンチックだと思うケドよー。やっぱ寒さの前にはなんもときめかねーわ」
寒さを誤魔化すようにそんなことを呟きながら、家まで続く緩やかな坂道をのぼっていく。
頭の中では、神崎達が各々クリスマスを過ごしていることを想像した。
すると、どうして早めに誘わなかったのだろうと後悔した。
聖セントXmasのせいでクリスマス会に誘うことをうっかり忘れてしまったからだ。
(家族と過ごしたことはあっても…。ダチ…と過ごしたことなかったもんな…。たまには…、そういうのもいいかなって…思ったんだけど…)
ふぅ、と息を吐けば、生温かい白い息が目の前に現れて消える。
ポケットに手を突っ込んで坂道をのぼり続け、その先を見て片眉をつり上げた。
「あれ? なんで明かりが……」
なぜか、自分の家の明かりが点灯している。
誰もいないはずだ、と思いながら近づき、鍵を開けて中に入ると、数人の靴が玄関に並べられていた。
まさか、と思って騒がしいダイニングに入ってみると、そこには見慣れた面子が揃っていた。
因幡が入ってきたことに気付いた、その場にいた全員が振り返る。
「おう、おかえりー」と神崎。
「遅かったじゃねーか」と姫川。
「寒かったでしょ」と夏目。
「早く中に入って温まれ」と城山。
「桃!! メリークリスマス!!」と二葉。
「神崎さん達が色々用意してくれたんだぜ!」と春樹。
「ケーキもあるわよ」と桜。
目を丸くした因幡は状況がうまく飲みこめずに困惑する。
「え…、と? あれ? なんでいるんだよ…」
それに笑って答えるのは夏目だ。
「だって、クリスマス会したそうだったし…、ねえ、神崎君」
「しょうがねえから、パー子と家でのクリスマスパーティー終わらせてから、二葉と来てやったぞ」
「来てやったぞっ」
ソファーに座った神崎と、その膝の上に載る二葉も答える。
「こっちは大した予定もねーからな」
姫川はそう言いながらサングラスを指先で上げた。
「たまには友達と、って母さんも言ってたし…、私も春樹も、夏目さんに誘われて…」
「オレと神崎はダチっスよね!?」
「オレのダチとは厚かましいぞ。舎弟だ、舎弟」
「光栄っス!!」
「いいのかよ」
因幡は思わずつっこんでしまう。
これでも春樹は、通っている中学で番を張っているのだ。
テーブルには姫川と神崎が持ち込んだクリスマス料理が並び、桜はケーキを切り分け、城山は全員分のココアを運んできた。
テレビの前では春樹と姫川と夏目がゲーム対戦し、神崎と二葉はそれを観戦しながらケーキを頬張る。
そして因幡もそれに混じり、ゲームをしたり、ローストチキンに被りついて堪能したあと、部屋に隠していた全員分のクリスマスプレゼントを配った。
「本当はまた集まってからでいいかな…と思ってたけど…」
春樹と桜は各々渡されたが、なぜか神崎達へのプレゼントはまとめて1コだけだ。
誰もが怪訝な表情をしたが、代表として二葉が受け取ってプレゼントを開けて引っ張り出してみると、15mはあるだろう手編みのスーパーロングマフラー(白色)が出てきた。
全員が沈黙。
「オレからのプレゼントだ。一緒に巻いて歩けば寒くない!」
「…超ロングマフラー」と夏目。
「確かに寒くはないが…」と城山。
「暑苦しい光景だな…」と神崎。
「むしろ寒い;」と姫川。
言いたい放題言われて満足したのか、因幡は表情も崩さず笑みを浮かべたまま、あげたてのマフラーをつかんで後ろに放り投げ、ソファーの裏から人数分のクリスマスプレゼントを出した。
「なーんてな。ウソウソ。ちゃんと一人用のマフラー作ってあるから」
「おまえ…、このジョークをやり遂げるためにわざわざ編んだのかよ!?;」
長い時間を費やしただろうジョークの産物に愕然としてしまう。
「クリスマスジョークってやつだ」
因幡は達成感のあまりドヤ顔だ。
「桃ちゃんがこんなジョークを覚えるなんて…っ、感動のあまり涙が出ちゃう」
「桃姉も変わったなぁ。オレちょっと寂しい」
「この変わり者姉弟!!」
ハンカチを濡らす姉弟に神崎がつっこむ。
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