59:サンタを手に入れるの誰でしょう。
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体育館で決勝戦が開始された最中、因幡は聖石矢魔学園を出てひとり帰路を歩いていた。
あれからどれだけの時間が経過したのか、辺りはすっかり夕日色に包まれている。
橋を渡っていると、後ろからこちらに駆けてくる足音が聞こえ、立ち止まって振り返ってみるとなごりだった。
着替えたのか、最初に着ていたツナギに戻っている。
「はぁ、はぁ、突然いなくなるから…。…決勝戦とか見なくていいわけ?」
なんだそんな用か、と因幡は前に向き直って歩き出し、なごりもそれについていく。
「神崎達の勝負が見れたからそれでいい。あとは夏目が報告してくれるし…、でも、たぶん男鹿が勝つんじゃねーのか? つか、オレに勝っといて負けたら冬休みだろうが奇襲かけてやる」
「勝っといて…って、ゲームには負けたけど、実力では勝敗決まってないじゃん」
「なら聞くけど、あのままやって、オレと男鹿、どっちが勝ってたと思う?」
どうでもよさそうな口調だったが、目は真剣に意見を求めている。
なごりは小さく笑って答えた。
「どっちもチート的に強いからなぁ…。けど、魔力勝負なら、ハニーが勝ってたと確信してる。…蝿の王の放った魔力を殺したんだから」
「…?」
「自覚ない? 放たれた魔力は小さいものだったけど、いとも簡単に相殺してみせた。赤ん坊とはいえ魔王の子どもの力を。…そこらへんの悪魔じゃ、不可能な芸当だ。自分の力にもっと誇ってもいいと思う」
「……魔力とか知るかよ…。オレは不良らしく、人間らしく、喧嘩であいつに勝ちたいんだ」
宙を睨みながら因幡は言い放ち、なごりは一度間を置いて「だよねぇ」と愛想よく微笑んだ。
「羨ましい」
それから聞こえるか聞こえないかのような声で呟く。
「あ?」
「ううん」
なごりは首を横に振って「なんでもない」と言った。
「……………」
橋を渡ったところで、ふと、因幡はその場で立ち止まり、ポケットを探って取り出した1本のキャンディーをなごりに渡した。
なごりはキョトンとした顔でそれを見つめる。
「やる。…こんな礼で悪いけど、一緒に出てくれてありがとな」
照れが出てしまい、思わず視線を逸らす。
なごりはそれを受け取り、両膝をついて十字架のように掲げた。
「オレ嫁からの贈り物…!! 後生大事に永久保存する…っ!!」
「食えよ。腐るぞ」
「ところで…、ハニーはサンタに何をお願いするつもりだったの? 物だったら、これからオレが買ってあげる♪」
それを聞いて因幡は苦笑する。
「いや…、オレのは…物じゃねえから…。正直、優勝してそれを手に入れるのもどうかと思ったけど…」
何が欲しかったのか、なごりは追究するしようとはせず、「そっか」と返した。
「ならば!! プレゼントはオ・レv ってことで、オレからクリプレチュ―――ッを!!!」
因幡の後ろ首を両手で触れて引き寄せるなごりに、悪寒で顔を真っ青にさせた因幡は、
ゴッ!!
「がふっ!!」
そのアゴに膝蹴りを食らわせた。
「やっぱ今転がす!!! つかコロす!!! 逃げんじゃねええええええっ!!!」
自身のアゴを擦りながら因幡の連続蹴りをかわし、なごりは逆方向に逃げていく。
「またね―――、ハニー♪」
「もう2度と現れんなぁっ!!」
空き缶を蹴飛ばしても体を反らして避けられてしまう。
だが、それ以上追わず、舌打ちした因幡は背を向けて駅へと向かった。
走るなごりは、振り返って因幡が追ってこないことを確認すると、小さく笑う。
「オレのクリプレ…受け取ってくれたかな」
なごりはあの時、確かに渡していた。
因幡は、駅のホームで電車が到着するのを待っていた。
「はぁ…、今日は疲れた…。…なぁ、シロト」
履いている靴に声をかけてみるが、そこにいるはずのシロトから返事はない。
「…? シロト…?」
(今日はあんまり話しかけてやれなかったから、拗ねてんのか?)
ちょうどその時、ホームで帰りの電車が到着し、巻き起こった風が因幡の髪をなびかせる。
その際、後ろ髪から見えたのは、後ろ首にある火傷の上から埋め込まれるように存在している氷の結晶だ。
因幡がそのことに気付くのは、もう少し先の話である。
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