58:クリスマスがやってきました。
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なごりは黒のツナギを着、その首元には白のマフラーを巻いていた。
下校途中の他の生徒の目も気にせず、ヘラヘラと笑いながら因幡に手を振っている。
「ハニー」という言葉に、因幡は全身の鳥肌を立たせ、思わず神崎と姫川の後ろに隠れた。
神崎達も多少警戒している様子だ。
ユキの一件で正体は知れている。
本来は敵だということも。
「なご!! なんでてめーがこんなところにいんだよっ!!」
犬が威嚇するように因幡が尋ねると、なごりは笑みを絶やさず、「なにって…」とツナギのチャックを下まで下ろし、上半身の肌を見せつけた。
「全裸待機してました!!!」
その傍から女子の悲鳴が上がる。
「わざわざ脱ぐなっ!!」と因幡。
「寒いぞ」と神崎。
「なんでドヤ顔」と姫川。
「面白い人だねー」と夏目。
「やりたかっただけか」と城山。
本当にそれがやりたかっただけなのだろう。
なごりは「寒…」と再びツナギを着直した。
「おい、なご、それがやりたくて待ってたわけじゃねーんだろ?」
姫川にそう言われ、なごりはムスッとした顔をして因幡達を指さす。
「だからぁ、名護は仮の名。オレはなごり、もしくはなごちゃん…、って、もういいや、なごで…」
面倒になったのか、なごりはがくりと頭を垂れて諦める。
「で…、因幡待ってどうする気だったんだ? プロポーズは済ませてんだろ?」
「フラれたけど」と神崎がため息混じりに問うと、顔を上げたなごりは不敵な笑みを浮かべた。
「オレがそれぐらいで諦めると思ってんのか…? 迎えに来たに決まってるじゃん」
「「「「「!!」」」」」
あっさりと言ったなごりに驚いた表情を浮かべ、その中で舌打ちしたのは神崎だ。
「てめーには借りがあるが…、オレらがすんなりと因幡を引き渡すと思ってんのか?」
「神崎…」
神崎は前に出ると、コブシを鳴らした。
なごりは嘲笑の笑みを浮かべ、「ダメ?」と舌を出す。
「ダメに決まってんだろぉがっ!!」
神崎がなごりに向かって駆け出すと、なごりは笑みを浮かべたまま目を閉じた。
「神崎氏、血は…見たくないだろ?」
次に目を開けたなごりの瞳は真っ赤に染まっていた。
それを見た瞬間、因幡はゾッと背筋を凍らせ、まずい、と危機感を覚える。
「や…、やめろ神崎ぃっ!!!!」
叫ぶと同時に、神崎はなごりに向かってコブシを勢いよく振るった。
ゴキンッ!!!
「…あ?」
コブシはなごりの顔面に直撃し、なごりは正門の向こう側へと大きく吹っ飛び、コンクリートの地面に体を数回打ち付けて転がり、うつ伏せに倒れた。
「…あれ?」
殴った神崎自身も、呆気ない勝利を疑うように何度も自分のコブシと倒れているなごりを交互に見る。
「「あれ…???」」
姫川と因幡も首を傾げた。
神崎は「勝っちゃったんだけど…」と狼狽えた顔で因幡達に振り返る。
因幡達は相談した挙句、倒れたなごりに近づいて本当にノビているのか確認しようとした。
「!」
その時、なごりは自力で仰向けになってみせた。
一歩引いた因幡達だったが、鼻血をだらだらと流血させているなごりは身を起こして自分の頬に手を添えるなり、こう言い放った。
「親父にしか殴られたことないのにっ!!!」
「「「言いたかっただけっ!!?」」」
因幡、神崎、姫川は衝撃のあまりつっこんだ。
そのあと、校舎裏に移動した因幡達となごり。
なごりはしゃがんで校舎の壁に背をもたせかけながら、城山からもらったポケットティッシュで鼻血を拭いていた。
因幡達はなごりを囲むように立っている。
「迎えに来た、ってのは冗談。さっきも見た通り、オレって弱いもん」
「体張るの好きだな、おまえ」
口で言えばいいのに、とそんななごりを見下ろしながら因幡が呟く。
「けど、冗談言うために来たわけでもねーんだろ?」
姫川が腕を組みながら言うと、なごりは「ああ」と頷いた。
「やっぱり最初はオトモダチからってことで、挨拶しにきた」
「いや、オレおまえとダチになる気ないから」
「照れるなよ、ハニー。このツンデレさん」
「今度はオレが蹴り飛ばしていいか?」
うざいので本気で蹴り飛ばしてやろうかと思ったとき、なごりは「それと…」とツナギのポケットから折りたたんだ紙を広げて見せつけた。
「これにお誘いしたくてさ」
「!」
どこから剥がしてきたのか、聖セントXmasの貼り紙だ。
「誘いに来たって…、おまえ石矢魔でも聖でもねーだろ」
「ああ、それなら心配ない。ハニー達が来る前に出会った線目で竹刀持った生徒とオタク話で盛り上がって、参加できるように、生徒会長と話つけてくれた。いいジョブ♪」
「まさか…」
因幡の脳裏によぎったのが、六騎聖の榊だ。
当てはまる人物がそれしかいない。
「それにな…、オレだって、こういう学生のイベントに参加したいし…」
そう言って貼り紙を見るなごりの目は、どこか寂しそうだ。
学校に行ってないのだろうか、と因幡は思わず情に絆されそうになる。
「けどな…、残念な話、オレと組みたかったら女装してくれねーと…」
「女装したらOKってこと!?」
「え」
意外な反応に因幡と神崎達の表情が呆ける。
「男前のハニーのためなら、オレは喜んで、なごりんになる!!」
「え……と…」
よろしくと言わんばかりに両手を握られ、因幡はどうするべきかと困惑していた。
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