58:クリスマスがやってきました。
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HRが始まる前に学校に到着した因幡達。
いつものようにのんびりと過ごすかと思いきや、花澤が慌てた様子で教室に入ってきてクラスメイトに報告した。
聖石矢魔学園、年末イベントについてだ。
「「「「「カップル限定、聖セントXmas!?」」」」」
「そうっ!! 貼り紙見ませんでした!? 終業式のあとにやるクリスマスイベント!! それの優勝特典がマジパネェんスっ!! さすが聖っス!!」
どこの学校よりもイベントが豊富だ。
「何よ。もったいぶらずに言いなさいよ」
邦枝と大森の席に集まっていた烈怒帝留も興味津々だ。
その特典がなんなのか大森が促すと、花澤は人差し指を立てたまま「なんとですね」と言って一度溜めてからその特典を口にする。
それを聞いたその場にいた因幡達は顔をキョトンとさせた。
「本物の」と神崎。
「サンタが」と因幡。
「来てくれるだぁ?」と姫川。
「おいおいパー子。おまえ、マジでパー子か。サンタなんてまだ信じてんのか」
怪訝な眼差しを向ける神崎だったが、花澤は引かない。
「いや、それが他のクラスの奴に聞いたら、マジで来るらしいっスよ。リアルサンタが、毎年」
そのあと、因幡は廊下の掲示板に貼られていた貼り紙を引っぺがして教室に戻り、夏目と城山に見せた。
「マジであるみたいだぜ」
クリスマスツリーのクリップアートがあり、“戦いの果てにサンタクロースが待っている…”と穏やかではないキャッチコピーがあった。
参加条件は、男女ペアであること。
日時は12月24日の13時から開始となっている。
「通りがかりの奴らに聞いてみたら、去年の優勝者はマウンテンバイク貰ったとか…。とにかく毎年優勝賞品は豪華!! あんなものからこんなものまで口にはできないそんなものまで貰えるってことだろ!? なんか血が騒いできた…!!」
「なにをお願いするのか気になるけど、あっちも燃えてるみたいだよ」
夏目が指さすと、神崎と姫川が烈怒帝留と話していた花澤に詰め寄っているところだった。
「おう花澤、んな事より、ちゃんと説明しろや」
「そーだぜパー子。本物のサンタって何だこら。強えのかそりゃぁ?」
「いや…、戦闘力までは知らないっスけど…、そこ重要っスか?」
「当然だろーがっ!!」と姫川。
「プレゼントぶんどんのに敵を知り己を知れば百戦錬磨!!」と神崎。
どちらも顔に影を作って勢いのいい不穏な発言をしている。
「力ずくなんだ」と呆れる大森と、ただの追いはぎじゃないかと思う谷村。
烈怒帝留は呆れていたが、そんな不良街道まっしぐらな2人の殺伐とした発言を聞いた他のクラスメイトの不良達の反応は違った。
「さすが神崎さんっ。その通りっスよ!!」
「必要とあらば囲みますよオレら!!」
「おう、人数集めとけやおめーら!」
支持せんとばかりに集まってきた不良達。
古市は、「サンタこらぁ」、「ちょっととんでみろや」と不良達に囲まれた可哀想なサンタクロースを想像する。
(嫌なクリスマスだな…)
夢も何もない。
「…相当強いらしいっスよ…、サンタ…」
「城山…」
盛り上がっているところで城山が口を挟んできた。
「赤い服あるでしょ。サンタのトレードマークのあれ、全部返り血らしーっスからね」
それを聞いて先程まで寒さを忘れるほど熱気を高めていた不良達が途端に静かになり、生唾を飲みこんだ。
「…マジかよ…」
「オレ…ちょっとお腹痛くなってきた…」
「オレも…」
まさかのサンタクロース最強説が出て、すでに戦意喪失している。
「…まあ…、プレゼントの強奪はともかく、このイベントに出て優勝すれば一つだけだがプレゼント貰えるんだろ? オレは出るぜ」
因幡が貼り紙を見せつけながら宣言するが、神崎と姫川は貼り紙と因幡を交互に見た。
「おまえ、出るっつっても、ここに書いてある通り参加条件が男女カップルだぜ。ちゃんとスカート履いて出るつもりか? それとも、烈怒帝留と?」
神崎に言われ、因幡は腕を組んで天井を見上げて唸る。
「う―――ん…。オレの性別がどこまで誤魔化せるかなんだよな…。……姫川、ちょっといいか?」
「?」
何か閃いたのか、因幡は姫川の袖を引いて廊下の外へと出てしまった。
見届けた神崎は「え」と若干焦った顔をする。
「あいつまさか本気で女のカッコで出るつもりか!? 姫川と!?」
「何焦ってるんですか、神崎さん」
「だ、だって、そうだとしたらあいつのポリシー緩すぎるだろっ」
無意識に両手が忙しなく動いてしまう。
だが、何に焦っているのかはわからない。
夏目は確信犯のようにニヤニヤと笑っているだけだ。
数分後、因幡と姫川が戻ってきた。
「じゃーん☆」
「「!!?」」
戻ってきた2人に、神崎と城山は愕然とした。
「紹介しよう!! オレのパートナー、竜子ちゃんだ!!」
サングラスを取られて髪を下ろされた挙句、メイクを施され、どこにあったのか石矢魔女子の制服を着せられた姫川だ。
ぶっちゃけ、つっこみを忘れてしまうほどの美人である。
腕を組んでポーズを取り、一見やる気かと思えばそうではない。
一瞬のノリだ。
このあと、やる気に満ちた因幡の頭を片手でつかみ、廊下へと引きずり出した。
「リーゼントにされた…」
ひとり廊下から戻ってきた因幡の髪型は、姫川によって見事なリーゼントにされていた。
「そりゃそうだろ」
姫川に同情する神崎。
しかし、因幡は諦めきれなかった。
「仕方ねえ。姫川が出ないのなら…、神崎っ、ヒゲ剃れっっ!!」
神崎の右肩に手を置くなり、剃刀を取り出した。
その数秒後、
「なんだよケチィ―――ッッ!!」
姫川に制作されたリーゼントに、筆記用具にあったボールペンや色ペンなどを差されてしまった。
因幡は半泣きになりながら一本ずつ取っていた。
神崎は自分の席に座りながら素知らぬ顔でヨーグルッチを飲んでいる。
夏目と城山も手伝ってくれているのでダメ元で持ちかけてみたが、
「オレは見てる方が面白いから☆」
「オレが女装して通じると思っているのか?」
間接的に断られてしまった。
机に伏せて落ち込んでいたら、いつの間にか下校時間だ。
因幡、神崎、夏目、城山、姫川の5人は下駄箱で靴に履き替え、昇降口を出た。
「素直におまえがスカート履いて出りゃいいだろが」
神崎はそう言うが、因幡にも意地があった。
肩を落としたまま首を横に振る。
「女装は嫌ぇなんだよ」
「女装とは言わねえし、むしろ正装だろ。大体、オレ達が女装するのはいいのかよ」
姫川も呆れて肩を落とした。
プレゼントは欲しいが、あくまでも女装をやるという選択はしないらしい。
「なあ、頼むから……」
しつこく頼み込もうとする因幡は、そこで言葉と足を止めた。
「「「「!!」」」」
不審に思った神崎達が視線を追いかけると、正門に立つ人物に目を大きく見開いた。
「ハニ―――♪」
なごりだ。
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