57:大切な立場があります。
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魔界にある卯月の本邸、玉座の前でなごりは因幡達の様子をスマホの画面で静かに監視していた。
「面白い人間共だ…」
嘲笑するような、笑いを含んだ声が降ってくる。
なごりはスマホから視線を上げ、階段の上に居座っているジジを見上げた。
階段と玉座の間には黒のカーテンで遮断され、卯月を裏で操っているジジの姿を目にとらえることができない。
正体を見てはいけない、というのは卯月の暗黙の了解なのだろう。
数時間前、鮫島に屋敷に転送されたなごりは、フユマに会わず、待ち構えていた卯月の者達とともに真っ先に本邸へと案内された。
本邸を訪れるのは、なごりにとって初めてのことだった。
ずっと“うさぎ小屋”と陰で呼ばれる屋敷で暮らしていたのだ。
本邸を訪れてその呼び名の意味を知る。
住んでいる屋敷も不自由がないほど大きな建物だが、ここはそれ以上だ。
薄暗い廊下を渡り、しばらくして玉座に到着してジジと対面し、ユキとフユマの始末のことを聞かされてすぐに取り消させた。
ある条件と引き換えに。
「来年の春までに22代目シロトを連れてくるとは本当か?」
「ああ。本来インドア派のオレが、わざわざ家出してブラブラ好き勝手してたわけじゃない…。ちゃーんとオレの嫁・22代目シロトのことについても、石矢魔のことについても調べてた。ノーネーム事件は、オレとハニーが出会うきっかけ作り。良い意味も悪い意味も含めてハニーの興味をオレに向かせつつある。通学路の曲がり角みたいな運命的な出会いは成功。いがみ合うかと思われたが、困った時には手を貸すラブコメ展開も成功」
「くく…、さては貴様、失敗作(ユキ)がクロトをフユマから奪い、22代目シロトとぶつかることも計算の内だったのか?」
「……………さぁね」
視線を再びスマホの画面に落としたなごりは、意味ありげな間を置いて短く答える。
画面に映る因幡達は、男鹿と古市が戦ったあとの河原へと駆けつけた。
次々と集う仲間達。
夕焼け色に包まれたそのシーンは、まるで、青春・友情もの漫画の最終回のようだった。
男鹿達と別れたあとも、不満があるのか、未だにぶすったれた表情を浮かべている神崎と姫川を、因幡は苦笑しながらなだめている。
「ユキと親父と鮫島が捕まったのも都合がいい…。あの3人が動かない方がこっちもやりやすいからな。ちゃんと、傷の手当てもして、不自由ない場所に閉じ込めてくれたんだろうな?」
「当然。我が望む働きを見せてくれるというのなら、我も貴様が望むことをしよう。できる限りな」
「卯月の奴らを使って…だろ? 人間をアゴで使うってどんな気分だ?」
口元に薄笑みを浮かべたが、なごりの目は冷ややかだ。
「取り違えるな。我が使うのは優秀な、魔の血筋の者のみ。愚鈍な生物に使い道などない。優秀な者を使い、目的を果たした時の達成感は感極まる」
「あ…、そう」
ふーん、と醒めた返しだ。
それでも、ジジは機嫌が良さそうに言葉を続ける。
「して、どのように22代目シロトを?」
「オレも向こうの反応に合わせて計画を変えていくつもりだから、今は言わない…。けど、焦らせるな。確実に、春になるまでにつれてくる」
最後の部分を強調するように言うと、ジジは「確実だな?」と念を押すように尋ねる。
「ああ。確実だ。ハニーは、自分の立場と、そこにいる空間に、いつしか疑問を抱く…。付け込むなら、その時だ。蝿の王の傘の下から連れ出したいのなら、出たくなるようにすればいいだけのこと…。ちゃんと、入りやすい傘を用意してな。…オレの悪役ショーを見ててくれよ、冠を失った王様」
波乱は続く。
なごりが告げた、その時まで。
.To be continued