57:大切な立場があります。
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「フユマ…、鮫島…」
血まみれで廊下に倒れているのは、フユマと鮫島だ。
戦いの一部始終を見ていたユキは我が目を疑う。
少ししかケガを負っていないダッチは鮫島の胸倉をつかみ、持ち上げる。
「拍子抜けさせんじゃねーよ、×××ヤロウ」
「かは…っ」
気を失いきれず、鮫島はダッチを睨む。
その目を見てフロリダはゾクッと肌を粟立たせ、口元を歪ませて手を差し伸べた。
「ダッチ、そいつそのままこっちに渡しなさいよ。まだ反抗的な目ができるようだから、今度は私がかわいがってあげる。飼うっていう手もあるわねぇ」
「美味しいトコ持ってくんじゃねーよ、フロリダ。ヘタすると命吸われちまうぜ? こいつ、アルプ族みたいだし」
「ご心配なく…。おまえらみたいな汚物のような命は吸わない…。反吐が出る」
「だははっ、まだ大口叩くか! いいねえ!! だから殺し甲斐がある!!」
「っ…!」
空いてる手で鮫島の顔面をつかみ、その能力を発動させようとした時だ。
「やめて!! 処分されるのはボクだけでいいじゃん!! ボクが…死ねば…っ!!」
「ユキ、黙ってろ…」
「「「「!!」」」」
倒れたまま、フユマは絞り出すような声で言ったあと、痛みに耐えながら立ち上がろうとする。
「てめーが死ぬことじゃねえ…。ガキは黙って親の助け待ってろ…!」
「あらぁ? 頑張っちゃう? パパ頑張っちゃう?」
何度も立ち向かってくるフユマを、フロリダの目には滑稽に映っているようだ。
ライラックはくつくつと笑う。
「この状況で…、ライラックは呆れます。そんなに、元・婚約者に似たその子が大事ですか…」
「勘違いしてんじゃねーよ…。そいつはコハルちゃんじゃねえ。コハルちゃんは、今、幸せに家族やってんだ…。確かに、そいつとコハルちゃんを重ねてた女々しいオレ様もいた…。けどな…、それももう遠い過去の話だ。母親の手も借りず、10年以上慣れねえ子育てしてみるとわかる…。オレ様も立派とはいいがたいが、父親だ。てめーのガキを守るのは当たり前だろが…!!」
その場にいる全員がビリビリと肌に感じ取ったのは、クロトを失ったにも関わらずその体から溢れだす魔力だ。
フユマの勝率は極めて低いが、万が一ということもある。
「あなたは、このライラックが処分しましょう」
ライラックはポケットから刃のないナイフの柄を取り出し、廊下を蹴ってフユマに突っ込む。
「フユマ!!」
確実に殺されると感じ取ったユキが声を上げると同時に、ライラックの腕をつかんで止めた人物がいた。
「やめたまえ、ライラック」
「…シルバさん」
現れた人物に、ライラックはナイフの柄をポケットに戻す。
銀に近い白の長髪は後ろで細いおさげにされ、英国紳士のような格好だが服の色は血のように真っ赤で、その右頬には“B”と刺青が彫られてある。
「フロリダ、ダッチ、タン、ライラック…。我輩達の命令の変更を伝えにきた」
「あ゛ー? まさか放置とか? それだったら逆らうぜ、オレは…。せっかっく××しちまいそうなほどテンション上がってきたっつーのに」
ダッチが下品に笑いながらそう言うと、シルバは目を細め、無言の圧力をかける。
笑みを引っ込めたダッチは「…で、なんて命令?」と催促した。
「作り物の処分は保留。作り物と、逆らった21代目とその執事を閉じ込めておけ、とのことである…」
「……あ、そう」
つまらなそうに返し、ダッチは鮫島の顔面から手を放した。
「どうしてまた変更なんか?」
フロリダが問うとシルバはフユマを見据えながら答える。
「22代目クロトの願いだそうだ。ジジ様に直々に頼んだらしい。大人しく捕まれば命だけは助かる」
「なごり…が…」
それを聞いてフユマは目を大きく見開いた。
「21代目、命拾いしたな…。いい息子を持った。タン、その子と一緒に部屋へ案内したまえ」
意味ありげな笑みを浮かべ、シルバの視線が未だにユキをとらえたままのタンに移る。
「うん…」
素直に頷いたタンは、ユキを肩に担いで歩き出した。
「ほら立てよ。……チッ、オチてやがる」
ダッチは倒れた鮫島に呼びかけるが、気を失っていることを確認すると舌を打ち、その頭を爪先で軽く蹴る。
その髪をつかんで引きずっていこうとしたとき、フユマは「触んな」とダッチの手首をつかんだ。
「オレ様の執事だ。オレ様が運ぶ」
鮫島に近づいて背中に背負い、ふらつきながらタンについていく。
ダッチは足下に唾を吐き捨て、ジャージのポケットに手を突っ込むと「あ゛―――、殺したかったなぁ―――っ」と不満をこぼした。
(……なごちゃん…)
タンに運ばれながら、ユキはここにいないなごりのことを考えた。
処分は保留になったが、帳消しになったわけではない。
今は安堵するべきなのだろうが、胸騒ぎはやまなかった。
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