57:大切な立場があります。
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「すまんのう。こやつの体を借りねば他の人間と話せんのじゃ。しかも、体の主が眠った時に限る。ようやく欠片がそろって可能なことじゃ」
掌を開いたり閉じたりしながら、因幡の体を借りたシロトは、ベッドサイドに腰掛けてヒルダに教えた。
ヒルダはそんなシロトを見据え、サーベルを収めるかどうか迷っている表情だ。
シロトは、フ、と小さく笑い、再び口を開く。
「ワシが危険分子かどうか見定めておるのじゃろう? 蝿の王の契約者からなにも聞かされておらんのか?」
「因幡に契約悪魔がいることしかわかっておらん。その悪魔が、坊っちゃまに危険を及ぼすかどうかも…」
「それで、昨夜の闘いで膨大な魔力を感じ取り、大きな警戒心が芽生えたか…。安心してもよい。ワシらは敵ではない」
「……………」
ヒルダは怪訝な目も、サーベルを収めようともしない。
小さなため息をついたシロトは、両手を低く上げた。
「本当じゃよ。むしろ、蝿の王が危険に晒された時は率先して助けるつもりじゃ。こちらも、蝿の王についていた方が都合が良い」
「……答えろ、貴様は何者だ? シロト」
問われたシロトは、目を伏せ、自嘲の笑みを浮かべる。
「……何者…か…。…代々“氷”の力を司る卯月の人間に受け継がれるためのみ存在する悪魔…。……その刻が来るまで…」
「刻…?」
「それだけしか話せん…。ワシにも言えることが限られておってな…。貴様にとって重要なのは、ワシとこやつが蝿の王に敵意があるかないかじゃろう? 少なくとも、こやつにはない。狙う理由がまったくな。仲間のためなら無茶をする、そんな奴じゃ。見ていなかったとは言わせん。それでも討つか?」
問うとともに、目の前に立つヒルダと目を合わせた。
「……………」
昨夜のことを思い出し、神崎達のために戦っていたのはこの目で確認し、思ったはずだ。
まるで男鹿のような奴だと。
不満を残しつつ、ヒルダはゆっくりとした動作で日傘にサーベルをしまった。
「もし、その牙を坊っちゃまに向けた時は、私が貴様を討つぞ」
「心得ておこう」
シロトが頷くと、ヒルダは窓枠に足をかけて飛び降り、飛んできたアクババに乗って飛び去っていく。
「牙を向けた時…か…」
独りごとを呟き、シロトは宙を見つめる。
「その時は、この町から出て行く時じゃろうな…。桃……」
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