57:大切な立場があります。
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鮫島の次元転送で先に屋敷に送られたフユマとユキ。
フユマはユキの手首をつかんで優しく引きながら、赤絨毯の廊下を渡っていた。
黙ったままのフユマに、ユキは不安げながらもそのフードを被った横顔を見上げる。
相変わらず、表情が読めない。
わざと読ませないようにしているのか。
「フユマ…、どこへ行くの…?」
「……………」
「フユマ?」
それはフユマ自身が知りたかった。
(どこへ行きゃいいんだ…っ!!)
ユキをひとりにもできず、だからと言って部屋に連れていくのも気が引けた。
決まった場所が見つからず、ひたすら屋敷中をぐるぐるとまわっているのだ。
舌打ちを堪え、空いている手でフードごと頭を掻く。
(鮫島でもいい、なごりでもいい、早く戻ってこいよ…っ!! オレ様をこいつと2人きりにすんじゃねえよ…っ!!)
今更再び説教を起こす気にもならず、ここに戻ってくる前にユキに打ち明けた小恥ずかしいセリフを思い出すだけで顔が熱くなる。
「?」
そんなフユマの心情などつゆ知らず、ユキは小首を傾げた。
「「!」」
悶々と頭を悩ませていると、背後に気配を感じ取って振り返る。
そこにいたのは、3人の卯月の者だった。
3人とも見た目は年配。
不穏な空気を隠しもせずに身に纏っている彼らに、同じ血が通った者とはいえど警戒心を抱く。
普段は、人間界に置かれたこの屋敷に姿を見せること滅多にない者達だ。
彼らは、魔界にある本邸か、人間界にいくつか建てた会社か仮宿で生活している。
この屋敷は、クロトとシロトを受け継いだ者・受け継ぐ者のために用意された、うさぎ小屋なのだ。
「なんの用だ、てめーら」
フユマが声をかけると、真ん中の男が前に出て手を差し出した。
「失敗作(ユキ)の身柄を引き渡してもらおう」
「!」
「今回の件、まさか何事もなかったかのように済ませるつもりか?」
そう言うのは右の男だ。
フユマは舌を打った。
(全部筒抜けか…)
身内だけで片付けるはずが、どうやって知られてしまったのだろうか。
「確かにトラブルはあったが、22代目は無事になごり(オレの息子)が受け継いだ。それでいいだろ」
すると、左の男が声を荒げ、ユキを指さす。
「いいわけがないだろう!! わかっているのか!? そこの出来損ないがしでかしたのは、ジジ様に対する明らかな反逆行為だ!! 処分しなくてどうする!? そいつはまた繰り返すぞ!!」
処分、という言葉に、ユキはビクッと体を震わせた。
「フユマ、引き渡さなければ、おまえも反逆罪として処分されてしまうぞ。クロトを失ったおまえを守るものは、もうなにもない…!!」
真ん中の男が力強く言うと、ユキは躊躇いがちに自分から男たちの方へ歩もうとしたが、
「!!」
フユマはその右腕をつかんでユキを自分の後ろにやり、低い声で言う。
「うるっせーな…。このオレ様がいいっつったらいいんだよ…。反逆行為っつーか、ただのガキの反抗期だろうが。なのに処分だぁ? 家畜扱いしやがって…。てめーら、ユキをてめーの手で育てたことあんのか!? こいつをどうこうできるのはオレ様となごりだけだ!! もう2度とてめーらの勝手で振り回すんじゃねえ!!!」
卯月の者達に向けるのは、敵意を示す赤の瞳。
クロトを失っても、怒号とともに放出された魔力に廊下の窓が次々と割れる。
「フユマ…!! 貴様…!!」
卯月の者達もその瞳を赤く染め、一斉に構えた。
「ジジイ共が。先に刻まれてぇのはどいつだ?」
「フユマ…!」
初めて見る、自分を守ろうとするフユマの背中。その背中はずっと、自分から背けられたものだと思っていた。
胸の内から込み上げてくる熱いものは、やがて、ユキの目に浮かぶ。
その時、数匹の白い蝶がフユマの目前まで飛んできた。
「…チョウ…? …!!」
数匹の蝶が頭上を通過した瞬間、フユマは不意に襲った脱力感にその場に両手両膝をついた。
「フユマ!?」
なにが起きたのかわからず、ユキはフユマに駆け寄ろうと走りだす。
「来るなユキ!!」
「!?」
数匹の蝶は、フユマを取り囲むように飛び回っていた。
体の力が抜けたのは、おそらくこの蝶が原因だろう。
(力が…、抜ける…っ。これは…―――)
時間が経つほど、体の感覚が失われ、寒気のあまり奥歯をガチガチと鳴らした。
「はぁい、動かないでちょうだい、21代目。ヒドいことしちゃうんで」
「!!」
はっと顔を上げると、紺色のハイヒールを履いた女がゆっくりとこちらにやってくる。
紺色のボンテージの上に白の毛皮のコートを着、真っ白な髪をポンパドールにした、妖艶な女だ。
「ジジ様の言いなりだったあなたが反逆とは珍しい。ライラックはとても驚いています」
「!!」
女とは反対の方向を見ると、半裸の上に黒のコートを肩に羽織った、キツネのような細目で、右目が隠れるほどの長い前髪を紫に染めた黒髪の男がこちらにやってくる。
「……“バッドパーツ”」
フユマがその名を口にすると、「イェ~ス!!」と割れた窓から別の人物が現れた。
裸足で、ところどころに穴が空いた深緑のジャージを着、肩まで伸ばしたボサボサの黒髪の男だ。
「直で会うのは久しぶりじゃねーのか!? この×××ヤロウが!! 相っ変わらず×××しちまいたくなるようなツラだな!! えぇ!?」
下品な言葉とともに窓枠から廊下に降り、フユマの前髪をつかんで上に引っ張る。
「てめーも、相変わらず、下半身混ぜねえと喋れねえのか…。ダッチ…だっけ?」
痛みに眉根を寄せつつ、フユマはそのギョロ目と目を合わせ、嘲笑の笑みを浮かべた。
「そう…!!“バッドパーツ”のダッチ様だ!! フロリダ! ライラック! こいつ今から××しちまうほどイジメていいよな!? なぁ!?」
「あら、イジメてあげる専門は私よ、ダッチ」
「…っ!」
眺め続けることはできず、ユキがフユマの助太刀をするために動き出そうとした時だ。
「動くな゛」
「うっ…!?」
背後から首に腕をかけられ、ホールドされてしまう。
小麦色の肌で、オレンジ色のタンクトップを着たスキンヘッドの大柄の男だ。
「タンさん、あなたはそのまま押さえつけておいてください。取り逃がしたら、ライラックがその子を処分しますからね」
ライラックに後ろから声をかけられ、タンは頷く。その光景を見たフユマは唸った。
「そいつを放せ…っ!! 刻むぞ犬共が…っ!!」
ドゴッ!!
「…っは…」
ダッチの片膝がフユマの腹にめり込んだ。
その衝撃に、フユマは血反吐を吐くが、ダッチはフユマの前髪を放さない。
「粋がるなよ、××ヤロウ。ジジ様直属戦士のオレ達5人を相手にするのは、今のてめーには無理だ」
「なら、2人がかりならどうだ?」
ダッチの背後に出現し、その首元にメスを押し当てたのは、鮫島だ。
「フユマ様から離れろ。ユキもすぐに解放しろ」
鮫島が現れたというのに小さく驚いただけで、バッドパーツの面々の口元には嘲笑の笑みが浮かんでいた。
「あ゛あ?」
肩越しに鮫島に振り返ったダッチは、空いている手の骨を、パキ、と鳴らした。
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