56:白黒つけましょう。
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白髪から黒髪に戻り、ウサギの部分も消え、因幡は力尽きたように仰向けに倒れた。
「因幡!」
姫川と神崎が因幡に駆け寄ると、因幡は「へへ…」と微かに笑い、「起こして?」と両手を伸ばす。
2人は呆れながらもその手を取り、同時に引き上げて因幡の上半身を起こした。
神崎と姫川の反応はいつも通りだ。
2人の前では極力見せたくなかったあの姿を目にしても、怯みも逃げもしなかった。
(こいつら…、アレを見ても、オレのこと怖くねえのか…? …もしかして…、慣れ!?)
常人以上の力を隠すどころか見せつけている男鹿の影響もある。
「おまえら、あの霜柱とか見てなんとも思わねえのかよ」
近くの霜柱を指さしたが、神崎は呑気に答える。
「このクソ寒い気温を利用したマジックとかじゃねーの? 因幡もそれをマネしてたと…」
「マジック界もびっくりだな!! ケンカじゃなくてマジシャンやってるわっ!! ウサギの尻尾とかは!? 耳とかは!? あと髪の色!! まさかコスプレとか思ってねーだろな!?」
「オレの(尻尾)が感染(うつ)ったんじゃねーのか?」
眩暈を覚えるほど都合のいい思い込みだ。
まあ、そう思ってくれた方がいいのだが。
この魔法のような非現実な力を説明するとなるとだいぶ話が長くなりそうだ。
神崎の適当に物事を受け入れるところは、ある意味良い部分とも言える。
では、姫川はどう思っているのだろうか、と姫川に視線を移す。
男鹿の時と同じく、非常識な奴だ、とこちらも適当に受け取っているのか。
自分より賢い部分があるので、不安になる。
しかし、姫川は因幡の右脚の傷を見て、「また病院に逆戻りだな」と呟くだけでそれ以上の追及はない。
ホッと胸をなでおろした時だ。
肌に突き刺さるような魔力を感じ、はっとそちらに顔を向けると、息を荒くし、こちらを恨めしそうに見つめるユキから、膨大な魔力があふれ出ていた。
「はぁ…っ、まだ…、まだだよ…、げほっ、ボクはまだ…、負けてないよ…っ!!」
「あいつ、まだ…!」
神崎と姫川は立ち上がり、殺気立つユキに備えた。
因幡もその執着心に寒気を覚えながら、もう一度戦闘モードになろうとする。
「ぐ…っ!!」
ユキも立ち上がろうとするが、バランスを崩してその場に両手をつき、吐血した。
「「「!?」」」
その様子に3人は驚き、鮫島は「まさか…」とこぼす。
「拒絶か…!?」
「あは…っ、なんだよクロト…、今頃になって…、そりゃないよ…っ。キミにまで見捨てられちゃったら…、本当に、ボクが、いらないものになっちゃうじゃないか…!!」
懇願するように、ユキは口元に薄笑みを浮かべたまま大きな瞳から涙を流した。
“自惚れるな小僧。貴様など、我の仮宿に過ぎん。なごりより才があるのか見定めておったが、もうよい。22代目シロトより格下の貴様に、この我の仮宿の資格すら皆無に等しい。やはりなごりだ。奴という器こそ、我に相応しい”
その重く冷たい声は、因幡の脳にも響き渡っていた。
(この声…)
“クロトじゃ。ワシにとって、対となる存在…。あちらの声が聞こえたということは、わざとこちらに流しておるのじゃろう。…のう? クロト”
その声が届いたのだろう。
ユキと目が合い、ユキの中にいるクロトが語りかけてくる。
“久しいな、シロト。数年…、いや、数十年ぶりか。我らにとっては、ほんの一瞬の時だ”
“相も変わらず傲慢な喋り方じゃのう。ジジ様にそっくりじゃ”
“貴様こそ、その老人のような口調はまだ直らぬのか。人間のようで実に腹立たしいぞ”
“だから言っとるじゃろう。どちらかが異なった口調をしなければキャラが被ると。ワシらは声だけなのじゃから”
“こだわる必要もなければ気を遣う必要もない。我らの声を聞き分けるのは、我らの声を聴く人間なのだからな!!”
(読者をも敵に回すオレ様系だな、クロト)
その傲慢さに因幡は内心で呆れ返ってしまう。
「人の頭の中でどうでもいい言い合いするのはやめろよ;」
こちらのわずかな声を聞き取ったのだろう。
クロトの意識がこちらに向かれる。
“コハル以上の資質を持つ小娘か。魔力の使い方は多少荒いが、よくぞシロトを使いこなし、ユキを完膚なきまでに叩きのめしたな。敵ながらあっぱれ、というべきか…。褒めて遣わそう。しかし、なごりを相手にすればどうなるか…、くく、見物だな”
どうしてそんなに上から目線なのか。
嫌な印象しか持てなかった。
「なごり…って」
“ユキ以上の、クロトを受け継ぐ資質の者か”
“然様。22代目クロト…、奴こそ我の器に相応しい。ユキを試してみて、確信した”
「ふ…ざけないでよ…! 絶対にクロトは渡さない…!! シロトも…、消滅させてやる…っ!!」
右手に氷の鉤爪を出現させたが、それを拒絶するように動悸が激しくなり、体中が痙攣を起こす。
「ぐ…!! あが…っ!!」
ユキに何が起きているのかわからず、因幡達は遠巻きにその様子を窺っていた。
“それは我が許さぬ。手負いとなった貴様など、もう我を好き勝手できまい…。身の程をわきまえろ、低能な器が”
見えない大きな掌に、頭を押さえつけられているようだった。
ユキは歯を噛みしめ、「クロト…!!」と恨みを込めて名を呼ぶ。
「何が起こってんだ…」
因幡が呟くと、シロトは答える。
“拒絶…。クロトがユキから出て行こうとしておる…!”
「出て行けるのか!?」
“仮契約中の5日間以内に相応しくない器と判断した場合、前の器へ戻ることができる。だが、今の器がそれに逆らおうとすれば、精神(こころ)が壊されてしまうぞ…!”
「!!」
ユキは自身の胸の中心をつかみ、血反吐を吐き出しながら苦しそうに呻き、うずくまっている。
「渡さない…!! クロトも…、なごちゃ…んも…っ、ボクのモノだ…!!」
両手に氷の鉤爪を出現させ、地面に突き刺すと、先程よりも巨大な霜柱の波が津波のように猛スピードで因幡達に押し寄せる。
ユキの全力だというように。
「「「「!!」」」」
右脚をケガした因幡は動ける状態ではない。
神崎と姫川は因幡に肩を貸して堤防まで逃げようとするが間に合いそうになかった。
鮫島はそれを見上げ、一か八かそれを次元転送させようと手を伸ばそうとする。
その時、霜柱の波の動きが止まった。
「…こんな大ピンチには、必ずヒーローが駆けつける。ありえないタイミングでな。…おまえらの目には、オレがどう見えた?」
因幡達は、霜柱の波の前に堂々と立つ男を凝視する。
「「「名護…!!」」」
棄見下町のノーネーム事件の時、明智とともに行動し、そしてノーネームの元凶・名護だった。
その正体は、フユマの息子で、22代目クロト候補者の卯月なごりである。
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