56:白黒つけましょう。
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コハルと桜の病室に再び訪れたフユマは、パイプ椅子に座りながら窓の外を見て、雨がやんだことを確認した。
「雨…、やんだみたいだな」
「……依代を修復すれば、本当に桃ちゃんは目覚めるのですか?」
桜の問いに、フユマは「ああ」と頷く。
「先代にも似たようなことがあった。自分の依代である手鏡を踏み割ってしまったが、卯月の者たちが協力して直したら目が覚めた」
「随分うっかりした先代ですね」
だから、因幡の右靴が破れても、元に戻せば目が覚めると思い、神崎達に協力してもらったのだ。
フユマは大きな欠伸をし、包帯が巻かれた喉を擦った。
「ちなみに、オレ様の依代は…、これ(喉の傷痕)だった」
そう言って横目でコハルを見、人差し指の指先で自分の喉に触れる。
「物じゃなくてもいいんだって、卯月も初めて知らされた…。想いの強いモノを好むからな、クロトも、シロトも。依代に込められた想いが強いほど、クロト達とのシンクロ率も高くなる…」
「……………」
コハルは思い出す。
桜とともに屋敷に飛び出したあと、そのあとを追いかけようとしたフユマのことを。
桜の幻術のおかげで、屋敷の“檻”を騙して出ることには成功したが、あとから来たフユマはそうはいかなかった。
『待ってよ、コハルちゃん』
屋敷を囲う“檻”の柵に触れ、外へと飛び出したコハルに手を伸ばした瞬間、鉄の柵が突然、茨のように鋭く尖り、フユマの喉を傷つけたのだった。
恨まれるのは当然であり、コハルは「許してほしい」とは思わなかった。
それに、出て行った理由を話すつもりもない。
「今のオレ様とコハルちゃんには、もう関係のない話だけど…。お互い、もうシロトもクロトもいない…、ただの親なんだから」
呟くようにそう言って、フユマは目を伏せて小さく笑った。
自嘲のような笑みだ。
それから立ち上がり、出入口のドアをスライドさせて出ようとする。
「フユマ…」
「じゃあね、コハルちゃん」
別れの挨拶を言うと、フユマはパーカーのフードを目元まで被り、廊下へと出て行った。
そして、すれ違うように早乙女が入ってくる。
ドアが閉まるまでの背中に突き刺さる視線を感じ、フユマは廊下を渡り歩いた。
出て行く前に因幡の様子でも見て行こうかと隣のドアに手をかけた時だ。
「!」
ドン、と背中に誰かがぶつかってきた。
「あ?」
振り返ると、松葉杖をついた日向がそこにいた。
よろめいてフユマにぶつかった拍子に、左の松葉杖を足下に落としてしまう。
「す、すみません」
急いだ様子だった。
早乙女から聞いた、コハルの病室へと向かう途中なのだろう。
全身打撲のうえ、右脚とあばら骨を折られているにも構わずだ。
医者に見つかればドクターストップをかけるだろう。
「…っ…!」
屈むだけでも全身に激痛が走り、それでも足下の松葉杖を拾おうとする。
呆れてため息をついたフユマは、前屈みになって松葉杖を拾ってやり、「ほらよ」と無愛想に手渡した。
「…ありがとうございます」
素直に感謝の笑みを向け、一礼しようとする日向。
「~っ!!」
当然、痛みが走る。
「礼はいいから早く行けよ」
日向は「本当にありがとうございました」と礼を言って、コハルのいる804号室の病室へと向かい、そのドアを潜った。
「……………」
フードを被っていてよかったと思ったフユマは、803号室のドアをノックし、スライドさせた。
「…あれ?」
そこにいるのは、もぬけの殻のベッドと、パイプ椅子で眠る城山と、開け放たれた窓際に立つ夏目だ。
夏目はフユマに顔を向け、苦笑する。
「因幡ちゃんなら、行きました」
「…そうか」
フユマはそれ以上追及せず、踵を返した。
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