56:白黒つけましょう。
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神崎の背後に瞬時に移動した鮫島は、右手で神崎に触れて姫川の目の前に次元転送させ、左手で素早く指の間に挟んだ4本のメスでユキの氷の鉤爪を防いだ。
力に押し負けまいと歯を食いしばる鮫島を見て、ユキは口角をつり上げる。
「犯人は現場に戻ってくる…っていうけど、その犯人って、ボクのことになるのかな?」
「ユキ…!!」
ユキが左の氷の鉤爪で鮫島のメスで押し合いをしている隙に、もう片方の手の氷の鉤爪で腹目掛けて突き出す。
「!」
視界に入れた鮫島は反射的に後ろに飛んで避け、ユキと距離を置いた。
その際に切っ先がわずかに掠ったのか、燕尾服に切れ目ができる。
(速い…)
「神崎君、姫川君と一緒に逃げなさい」
肩越しに神崎と姫川を一瞥した鮫島がそう言うと、神崎は「はぁ!?」と声を荒げる。
「冗談じゃねえ!! このまま尻尾巻いて逃げられるか!!」
ユキが汚い手を使って因幡を倒したのをこの目で見た。
なのに、なにもせずに逃げるのは神崎のプライドが許さない。
「…同感だ」
そう言って姫川はスタンバトンを取り出した。
「えー、逃げてくれないと面白くないじゃん? たっぷり、じっくりと、桃ちゃんの居場所吐いてもらうんだから…」
「わざとらしいぜ…。怪我人が行く場所なんて決まってんだろ」
姫川がそう言うと、ユキは姫川と目を合わせ、「あはっ」と小さく笑う。
「目障りなキミ達をいたぶる理由が欲しかっただけだよ…。鮫島…、いいよね、別に」
ユキの視線が再び鮫島に移ると、鮫島はメスを構えて言った。
「いいわけないだろ。元々、私のエモノだ。それに…、フユマ様からも命じられているのでね」
「フユマ…。あの死にぞこない」
それを聞いた鮫島は怒りの形相を浮かべ、声を張り上げる。
「育ての親だろうが!! なぜ…!!」
「フユマがボクを育ててたのは、どう見てもこの顔が原因でしょ。元・婚約者の顔…。愛し、憎んだこの顔…」
右手で自分の顔を覆い、ユキは淡々と言葉を続ける。
「フユマの首の傷…。あれって、コハルを追いかけようとして、屋敷の“檻”にやられて出来た傷だよね? 屋敷の奴らが言ってたよ。「まだ裏切者を追い求めるのか」「コハルの代わりか」「どちらも哀れだ」ってさ…」
「……………」
「フユマの言う通り、ボクは息をしていればいいだけの存在…。それ以上もそれ以下も求められないから…。けど、ボクは求めるよ。なごちゃんだけは」
ゴッ!!
言いかけた途中で、神崎がユキの顔面に飛び膝蹴りを食らわせた。
「―――っ!!」
「……神崎君…?」
鮫島と姫川も呆気にとられてしまう。
油断していたユキは仰向けに倒れ、顔面を押さえたまま神崎を睨んだ。
ユキがなにか言う前に、神崎はユキを指さして怒鳴る。
「暗い話始めてんじゃねえよ!! この根暗が!! 全っ然話ついていけねーんだよ!! てめーが一番カワイソウだってか!? 思い上がってんじゃねえよ!! 息していればいいって、単に「生きてていい」って言われてるようなもんだろ!! それと、顔がどうしたって? そんなに自分の顔が嫌なら整形しろ!! それともオレにボコボコに殴られて整形されてーか!?」
長い話にイライラし、胸の内に溜めていたものを吐き出した。
「―――!!」
神崎の言葉に、一瞬、ユキの目が揺らぎ、すぐにキッと神崎を睨みつけ、上半身を起こした。
「キミにはなにもわからないよ…!!」
「だったらてめーはオレのことわかんのかよ!? 典型的な根暗発言してんじゃねーぞクソガキ!」
ブチ、とユキのこめかみに青筋が浮かんだ。
「いたぶるのはやめて殺すか、こいつ」
両手に鉤爪を構え、一斉に辺りに投げつける。
「離れろ!!」
鮫島が声を張り上げると同時に、鮫島、神崎、姫川は、氷の鉤爪が刺さった地面から離れた。
鉤爪の周囲の水分が凍りつき、鋭利な霜柱が次々と立つ。
串刺しにされまいと河原を走り回る3人と、しつこく辺りに氷の鉤爪を投げつけるユキ。
「誰が最初に串刺しになるかな!?」
霜柱のせいで近づくこともできない。
そこで姫川は走りながら足元の石を拾い、「鮫島!!」と声をかけ、鮫島に向かって投げつけた。
意図を察した鮫島は、右手のひらでそれを次元転送させる。
「!」
姫川が投げつけた石は、勢いをそのままユキの目前に現れた。
「っと!」
ユキはそれを屈んで避ける。
「危な…っ。!!」
ユキが屈んだのを見計らい、鮫島は自身をユキのすぐ正面に転送させ、半回転して足裏をユキの胸に打ち込もうとした。
「っぐ」
ユキは両腕でガードしたが、後ろの川に吹っ飛び、そのまま落ちてしまう。
大きな水しぶきが上がり、ユキが川に落ちたことを確認した姫川は、スイッチの入れたスタンバトンをユキが落ちた場所へと投げた。
「自然によろしくない手だけどな」
ビシャァ!!
スタンバトンの最大出力が川を襲う。
しばらくして、川には感電した魚が浮かび、流されていく。
ユキはどうなったのか。
霜柱を避けながら神崎と姫川と鮫島は川沿いに集まり、ユキの姿を目で探した。
「!!?」
途端に、川の流れがいきなり止まった。
目を剥いて驚いていると、川の中心から、ビキビキ、と川の水が凍りついていくのが見える。
川の中心の氷面を突き破って這い出てきたユキ。
だがその姿は川に落ちる前と異なっていた。
「あっったまきたぁ…。桃ちゃんも、鮫島も、フユマも、コハルも、卯月も、おまえらも……っ!! ど―――して、ボクの邪魔ばっかするかなぁ!!?」
赤い瞳、体中に浮き上がる紋様、ウサギの黒い尻尾と、頭から垂れたウサギの黒い耳。
ゆっくりと立ち上がったユキは、両手の鉤爪を足下に突き刺した。
同時に、霜柱の波がこちらに押し寄せてくる。
「な…っ!!」
「マジかよ…っ!!」
避けなければ死ぬ。
驚愕し、命の危機を感じた3人は背を向けて駆けだしたが、霜柱の波は河原を上がり、3人のすぐ後ろまで迫っていた。
(マズい…っ!!)
肩越しにその距離を見た鮫島は隣を走る神崎と姫川を先に堤防の上まで移動させようと手を伸ばした。
少し遅れた自分がケガを負う覚悟でだ。
バキンッ!!
「「「「!!?」」」」
その時、鮫島と神崎の間を通り抜けた人影が、襲い来る霜柱の波を真っ二つに砕き割った。
ユキは目を見開いて驚き、霜柱から逃げていた3人も立ち止まり、後ろに振り返った。
「借りは返したぜ、鮫島センセイ」
嫌味混じりにそう言って鮫島と目を合わせ、薄笑みを浮かべたのは、因幡だった。
「「因幡!!」」
神崎と姫川は声を揃える。
因幡の右足には、少し歪で、縫い目まみれの靴が履かれてあった。
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