55:想いを縫い合わせましょう。
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雨は小雨になっていた。
川の流れも緩やかで、神崎と姫川、そして鮫島は暗い鉄橋の下で、靴の切れ端がないかくまなく探す。
「暗くてよく見えねえな…」
「だからサングラス外せよてめーはっ」
余計に見えないだろう。
鮫島を見ると、こちらも真剣に捜索している様子だった。
一度は因幡に腕を折られたことがあるというのに、それでも、目覚めてもらわなければ困るのだろう。
フユマの意志には従順である。
神崎が川沿いを探している時、鮫島は姫川に近づき、捜索しながら尋ねる。
「…屋上のアレのことだが…」
「あ?」
「慰めでしたのか?」
「……慰め方なんざわかんねーし…、けど…、だからってヤロウにキスなんざしねーだろうな…」
まるで他人事だ。
鮫島はその返答に苦笑する。
「私がするキスは、歪んだ愛のようなものだがな…」
生命力を奪ったり、与えたりするものだからだ。
このそそる食欲を、愛情と直結させていいものかは、鮫島自身も認めかねている。
「正直に言ってみろ。神崎君のことをどう思ってる?」
「それ、前に因幡に聞かれたことあったな…。…もう、あの変な力も抜けたようだし…」
その力のせいで、神崎に対して妙な感情を抱いているのかもしれないと思い、因幡には曖昧な返答を返したが、シロトの一部が抜けても、未だにあの気持ちが胸の内にあるのだ。
気が付けば、姫川の視線は神崎に移されていた。
(……そうだな…。この感情は―――…)
素直に認めてしまえば、すとん、と落ちてくるような感情だ。
そう、深く考える必要なんてない。
その時だ。
「―――!! 神崎!!」
「!?」
神崎の背後を、氷の鉤爪が狙う。
*****
靴を縫うのは初めてだったのに、普段は不器用に見える城山の手の器用さには夏目も驚かされた。
手伝ったとはいえ、あっという間に仕上げてしまったのだから。
右靴だけだったので、数時間で済ませることができた。
ちゃんと、神崎と姫川が持ってきた靴も使用され、布の半分は姫川の靴、靴紐などは神崎の靴で出来ている。
縫い目だらけでところどころ柄が違うのは気になるが。
出来上がると同時に、城山は背もたれにもたれ眠ってしまった。
夏目は起こさず、「城ちゃん、お疲れ」と労いの言葉をかけ、タオルケットをかけてあげた。
出来上がった右靴を、ベッド脇のサイドボードに置く。
しかし、因幡は起きる様子がない。夏目は薄笑みを浮かべ、その頭を優しく撫でる。
「……因幡ちゃん、まだ、なにか足りないの? それはもしかして、オレが持ってるもの?」
夏目は思い出す。
学園祭のあと、鮫島に拉致された時のことを。
神崎が因幡を助けに行く前に縄を切ってもらい、警察を呼んだあと、夏目は戦いの最中であった屋上へと来ていたのだ。
屋上の入り口から様子を窺い、その光景に目を見張っていた。
それからシロトの契約が行われ、神崎と姫川にシロトの一部が入り込み、そして、その場にいた夏目の中にも、シロトの一部が入り込んだのだ。
それが、行方知れずとなっていた、“耳”の部分。
シロトにも察知できないほど、奥深くに入り込んでいた。
「もしそうなら…、返すよ」
因幡の頬に触れると、因幡の頬と夏目の右手の間から温かな光がほのかに光り、因幡と夏目の頭に、白ウサギの垂れ耳が出現した。
*****
盤上はほとんど黒で塗りつぶされていた。
「またワシの勝ちかのう。先程より酷いことになっとるぞ」
「ゲームはまだ終わってねーだろ」
これからだ、というように、因幡は不敵な笑みを見せた。
「…!」
太陽がないはずなのに、不意に温かな光を感じ、因幡とシロトは上を見上げた。
「ほう…。ようやくすべて戻ってきたか。それに、予想以上に早い…」
「ったりめーだ、あいつらナメんな」
なぜか嬉しく誇らしげな因幡は、盤上に最後の白を置いて立ち上がる。
「つうことで、オレはオレで、白黒つけてくるわ」
「オセロで負けた小娘がエラそうに」
姫川の顔で鼻で笑うシロトに、因幡は盤上を指さした。
「オレは、最後の最後でキメる。最初は多く取られようがな。いきなり大胆にひっくり返された時の相手の顔も、拝んでみてーだろ?」
そう言って因幡は精神世界から消えた。
それを見届けたシロトは、盤上を見下ろし、因幡が置いたところからひっくり返してみる。
「…!」
あっという間に白の数が勝り、逆転された。
フ、と笑ったシロトは、「小癪なまねをしてくれる…」と呟いて上を見上げた。
「貴様の娘は楽しませてくれるのう、コハル」
.To be continued