55:想いを縫い合わせましょう。
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盤上はじっくりと黒に塗りつぶされていく。
それでも因幡は焦った様子もなく、時間を置きながら白のオセロを置いていった。
話はユキの存在から、コハルの実家のことに移っていた。
「卯月財閥…。そういや、小学校の頃、社会の授業で習ったかもな。日本屈指の財閥…。まさか、母さんの実家とは……」
「表向きは財閥じゃが…、家も名も大きいのは、ワシらのおかげといえよう…。悪く言えば、呪いのようなものじゃがな」
「呪い?」
顔を上げてシロトの顔を見ると、いつの間にか色眼鏡をかけた姫川の顔になっていた。
聞きなれた声で、シロトは盤上を見つめながら語る。
「シロトとクロトを、卯月家の才ある者に受け継がせる代わりに、富と名誉を与える―――…。ワシとクロトの長であるジジ様は大昔に、卯月の人間にそんな契約を結ばせた」
「……………」
盤上を見ると、いつの間にかシロトの番は終わっていて、因幡は盤上を見下ろしながらシロトの話に耳を傾ける。
「シロトとクロトを継ぐ者は、女か男かの違いだけ…。ジジ様はもう1つの条件を出した。シロトの女とクロトの男を婚約させ、その儀をジジ様の前で執り行うこと。さすれば、さらなる富と名誉を与える…」
「大昔から受け継がれてるんだろ? 結婚なんてとっくに済ませてるんじゃ…」
「それがのう…、ワシを継ぐ女が、齢15も満たぬうちに受け継がれ続けたのじゃ」
「…?」
「合わなかったのじゃよ。ワシと、今まで受け継いだ女たちが。齢15を迎える前に、拒絶反応が起きたり、次にワシを継ぐ者が現れるまで眠りに落ちた者までおる…。それに、シロトとクロトの継承は、同時進行…。ワシが新たに契約を結ぶたび、クロトも新たな契約者と結ばねばならん」
「面倒だな…。若年結婚とか、年の差結婚とかしなかったのかよ?」
「バランスが大事なのじゃよ。同じ年頃の男女で、15歳以上でなければ意味を持たぬ…。人間界でも、結婚は16歳~18歳からじゃろう? 身体と精神が出来上がった状態が良いのじゃ…」
ようやく盤上に白を置いたところで、因幡ははっと気づく。
「……じゃあ、オレに渡すまでシロトを持ってた母さんは……」
「ああ。コハルが卯月家唯一の…、限界年齢の境界線を越えた女じゃった。ジジ様も大いに喜ばれた。その意に反して、コハルは逃げ出したがのう」
「なんで母さんは逃げたんだ?」
「……………」
それには、シロトは沈黙を通した。
答えたくないことには答えないということなのだろう。
黙ったまま、盤上に黒を置き、白をひっくり返していく。
「……つまり、22代目だっけ? …のオレは、今、ユキの婚約者ってことになってるんだな? 自動的に…」
「そういうことじゃな…。しかし、クロトと契約を結んで日も浅い…。5日が経過しないかぎり、仮契約ということになる。ユキより才のある、卯月の者もいることじゃし…」
「……………」
盤上は半分以上黒で埋められた。
それでも、因幡はやはり切羽詰った顔も見せず、静かに白をつかんだ。
*****
一度、因幡とユキが戦った鉄橋から、雨の中、必死にかき集めたものを夏目はひとり、病室に戻って待っていた城山に渡した。
「ごめん城ちゃん、これくらいしか集められなかった…」
ウサギのマークが入った靴底と、散り散りになった布地。
その量から、明らかに足りないことがわかる。
ほとんどは風で飛ばされたか、鉄橋の下に落ちてしまったのかもしれない。
それを受け取り、難しそうな顔をした城山は、「神崎さんと姫川は?」と尋ねる。
「一度家に帰るってさ…。これ、繋ぎ合わせることできる?」
「できるが…、元通りは難しいぞ」
裁縫道具は用意し、針に糸を通しつつ城山は答えた。
原型を思い出し、夏目から借りたスマホで作り方をググりながら縫い始める城山の横で、夏目はパイプ椅子に座りながら見守る。
「!」
その時、ドアが勢いよく開かれ、神崎が入ってきた。
「神崎君…!」
神崎は息せき切らした状態で、家から持ち出してきたものを城山の目前に突き出した。
「これ…、オレが昔使ってたやつだ。使えるか?」
神崎が持ってきたのは、中学の頃に使用していたスニーカーだ。
「神崎さん…」
「色が合ってねえだろ」
そう言ってあとから現れた姫川の手にも、スニーカーが持たれていた。
「姫ちゃん」
スニーカーの柄は、ブランドものなのか、水色だがアロハ柄だ。
「色っつーか、柄が悪趣味じゃねーか!」
「お古よか丈夫だっつーの!」
言い合いが始まろうとすると、立ち上がって城山は2人の手からそれを取った。
「使わせてもらいます!」
今は、自分ができることを最大限にするつもりだ。
「……オレは、もう一度鉄橋に行ってくる」
「そういや、鉄橋の下はまだあまり見てねえな」
神崎に続き、姫川もまた病室を飛び出して鉄橋へと向かった。
廊下を走っていると、走る2人の後ろからひょっこりと鮫島が現れる。
「今度は手伝おうか?」
「「ついてくんなっ!!」」
突然現れた鮫島に驚きながらも、2人は足を止めなかった。
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