55:想いを縫い合わせましょう。
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「……………」
真っ白な精神世界にて、因幡は曇った表情をしていた。
向かい側であぐらをかく、神崎の顔をしたシロトは、トランプを片手に首を傾げる。
「勝ったというのに、どうしたその顔は…。今頃になって絶望したか?」
そう言って自分の手に持っているジョーカーを見せつける。
実は仮死状態中、この2人、トランプゲームしていたのだった。
「なんか…、すごいシャッターチャンス逃がしたような気がしてな」
両手でカメラの形をつくり、非常に悔しそうな顔をする。
「なんの勘じゃ、それは」
「ああクソッ。次、オセロやるぞオセロ!」
早くもババ抜きに飽き、シロトの持っているジョーカーと2人の間に散らばるトランプが煙のように消滅し、代わりにオセロボードが出現した。
このように、因幡が望めば、ある程度のものは出現させることができる。
空腹感はないが、本人が覚えている味の食べ物や、服、動物など。
ただし、数が限られており、人を増やしたり、町自体を作ることはできない。
「シロト、オレ、白な」
「別にいいがのぅ…。貴様、危機感とかないのか…。仮死状態に陥ってここまでふてぶてしい契約者はおらんかったぞ。…運良く、小さくとも第2の依代(ストラップ)があったものの、手に入れたのがつい最近で想いが靴もなく、目が覚めぬ始末…。貴様、このまま目覚めぬかもしれんぞ。一生…」
ボードの中央に白黒のオセロを並べる因幡に、シロトは呆れながら言った。
因幡は「ん―――?」と言って、余裕のある笑みを向ける。
「…この世界じゃ、オレとおまえだけかもしれないけど、外は違う。家族もいるし、ダチもいる。今度は本当に信頼できるダチだ。…他力本願かもしれねーが、なんとかしてくれるって信じられる」
先行はシロトだ。
黒が置かれ、早速白が2つだけになるが、因幡は白を置いて白を増やしていく。
「目が覚めたら、あのヤロウの鼻っ柱へし折ってやる」
「フ…。そうか…」
薄笑みを浮かべたシロトは静かに黒のオセロを置く。
「……シロト、オレはまだ、母さん達のことをなにも知らない…。ゲームしながら教えてくれねーか?」
「………よかろう。なにから聞きたい? 先程、依代を通じて聞き取った、ユキという者のことから話そうか?」
「じゃあそれから」
因幡は白のオセロを置き、促した。
*****
因幡の病室に集まった、神崎、姫川、夏目、城山、鮫島、そしてフユマ。
「これからてめえらには、桃ちゃんの靴を拾い集めてきてもらう」
腕を組みながらそう言ったフユマに、神崎は夏目に小声で尋ねる。
「誰だ、このエラそうなやつ」
「因幡ちゃんの親戚だってさ」
それを聞き取ったフユマは、改めて自己紹介から入る。
「どうも、オレ様は桃ちゃんの親戚の卯月フユマだ。桃ちゃんのピンチを聞きつけて飛んできた。…そこのクソ執事、笑ってんじゃねーよ」
嘘くささに、鮫島はそっぽを向いて口元を押さえ震えていた。
鮫島の知り合いでもあるので、警戒心を持った神崎達だったが、姫川は違う点に疑問を抱いていた。
「卯月? ……卯月財閥の?」
「そう! そういうてめーは、姫川財閥だろ? リーゼントと苗字でわかったぜ」
「姫川、知ってんのか?」
神崎が尋ねると、姫川はサングラスを指で押し上げ、「おまえらはもう少し財界のこと知っとけ」と呆れ混じりに言う。
「オレんとこよりいいとこの財閥だ。社会の教科書にも載ってんぞ。…財界のトップ3に入るほどだし…。因幡の親戚とは驚いたぜ。確かに顔立ちは、因幡の母親にちょっと似てるな…」
「さすが、詳しいな。桃ちゃんはその有名な卯月財閥の後継者である、オレ様の息子の許嫁だ」
「「「は!!?」」」
神崎、姫川、城山は声をそろえる。
「まあ、息子のためにも、桃ちゃんには絶対起きてもらわねーと困るんだよな。まずは、桃ちゃんの破かれた靴の破片を回収してきてくれ」
「…本当にそれで治るのか?」
城山が不安げに尋ねると、「千羽鶴折るよりはいいだろ?」と不敵な笑みを向けた。
「……裁縫なら、城山の方が得意だったろ。拾い集めてくるから、ここで待ってろ」
神崎は城山に指示し、病室を出ようとする。
「神崎さん…」
「オレらに今できることがそれしかねえのなら、やるしかねーだろ」
「……そうだね…」
神崎に続いて、姫川と夏目もそれに続いた。
「…鮫島」
それを見送ったフユマが鮫島に声をかけると、鮫島は一礼し、「わかっています」と言った。
「あいつらの前にユキが現れれば、首根っこつかんで引きずってきますので」
「おう、無茶はすんなよ」
「あなたが言いますか」
苦笑した鮫島は、自分の胸に右手を当て、姿を消した。
「!!」
病室に残っていた城山は突然消えた鮫島に驚きを隠せなかった。
フユマは笑いかけて「マジックマジック」と誤魔化す。
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