55:想いを縫い合わせましょう。
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雨が降り注ぐ病院の屋上に、神崎はいた。
欄干の向こうに見える石矢魔町を静かに眺めている。
「…!」
雨音の中、ゆっくりとドアが開く音が聞こえ、ピクリと反応するが振り返らない。
「こんなとこでなに黄昏てんだ。バカだから風邪は引かねえだろうが、とっとと中に入れよ」
悪態をつくその声は、姫川のものだ。
「……………」
「神崎…、誰もてめーを責めやしねえよ」
神崎が因幡の病室に来ない理由はなんとなく察していた。
神崎を守ろうとして、因幡が身代わりに倒れたようなものだからだ。
それを重く受け止めているのだろう。
因幡は目覚めず、どうすることもできなければ、合わせる顔もない。
頭を冷やすために雨に打たれるのもいいかと思って出てみたが、勢いのいい雨は、責め立てるように追い打ちをかけてくる。
因幡が起き上がって「危なかっただろバカ」と悪態をつくこともないのかと思うと、神崎はそこから動けなくなってしまった。
「責めればいいだろ…!! なんだよ、あのザマは…!!」
3人がかりで、傷一つつけることも出来なかった。
「神崎」
「放っといてくれ…、今は…」
神崎は一度も姫川に振り返らず、うつむいたままそう言った。
「……………勝手にしろ」
背後で、バタン…、と静かにドアが閉まる音が聞こえた。
「…因幡……」
ぽつりと呟いた時だ。
「!」
いきなり背後から肩をつかまれ、グイッ、と後ろを向かされた。
「な…、んっ」
振り返って姫川の顔が見えた瞬間、強引に唇を重ねられた。
驚いた神崎は首を振って唇を離す。
「っ。やめろよ…っ。突然どうした…。オレ、別にどこも具合悪くねえし…!」
真っ赤な顔をして視線を彷徨わせる神崎に、フ、と笑い、姫川は神崎を抱き寄せて耳元に囁くように言った。
「アホが。今度は、オレの具合が悪い」
「姫川…」
目と目を合わせると、雨のせいかどちらも泣いているように見えた。
姫川のリーゼントも、雨に濡れて徐々に降りてくる。
神崎の冷え切った唇に、姫川は自分の唇を押し付けた。
気持ち悪いとは思えず、口元から伝わる熱が、神崎にとっては心地良い温度だ。
体を悩ませていた熱はもうないはずなのに、別の熱を感じていた。
まだおかしな力の余韻が残っているのだろうかと一瞬考えた姫川だったが、ただ、今は、この冷え切った男を抱きしめなければならない思いに駆られた。
深く考えるのはもう少しあとからでも遅くはないだろう。
唇を離した2人は、目を合わせる。
「…あいつを叩き起こすぞ」
「ああ。…あの鉤爪ヤロウにも、借りはキッチリ返す」
姫川と神崎が決意を口にした時だ。
「なら、先に因幡君を起こしてもらおうか」
「「うおおおおぉっ!!?」」
横から突然現れた鮫島に驚いた2人は反射的に互いから離れる。
「いつからいやがった!!?」
指をさして問う姫川に、鮫島はにこやかながらも血が出るほど唇を悔しげに噛みしめて答える。
「神崎君と熱いヴェーゼを交わしたところから」
「わあああああっ!!」
神崎は叫びながら屋上から飛び降りたい衝動に駆られた。
「美味かったか!!? 神崎君の唇は美味かったか!!? 言ってみろ!!!」
そのよそで、耐え切れずキレた鮫島は姫川の両肩をつかんで揺する。
「予想通りヨーグルッチの味だったし!! つかなに言わせんだっ!! 神崎も早まんなぁっ!! そしててめーは因幡の起こし方教えろ!!」
一度2人を落ち着かせ、姫川は鮫島から因幡の起こし方を問いただし、鮫島も、フユマから聞いたことをそのまま2人に伝える。
「壊されたなら、元に戻せばいいだけの話だ」
つまり、散り散りになった靴を、元に戻して因幡の傍に置けばいいのだ。
神崎と姫川にとっては信じがたい話だったが、それで因幡が起きれば万事解決。
それでも目覚めないのなら、ホラを吹いた鮫島をボコボコにしてしまえばいい。
「それはいくらなんでも酷くないか!?」
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