54:何者でしょう?
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シロトの一部が、神崎と姫川の体から因幡の体へ入り込んだ。
“おお…。戻ってきおったな…!”
シロトはようやく戻ってきた自身の一部に歓喜の声を上げたが、因幡には妙な喪失感があった。
この気持ちを覚えたということは、ユキの言う通り、心のどこかで神崎と姫川との共有を嬉しく思っていたのだろう。
普通の人間に戻ったのか、神崎と姫川は熱から解放され、尻尾も毛皮も消えていた。
「神崎…、尻尾がなくなってんぞ…」
「あ? …あ」
自身の変化に気付く2人を目の端で確認し、因幡はユキを睨みつける。
「そんな顔をしないでよ…。それでよかったんだから」
「うるせーよ」
思った以上に暗い声が出てしまった。
髪がメッシュを残して白く染まり、瞳が赤く染まった瞬間、因幡はレールを蹴って弾かれるようにユキに突っ込んだ。
ユキは氷の鉤爪を構えてそれを迎え撃つ。
因幡がユキの肋間を蹴り上げると、上に飛ばされたユキは架線柱に足をつけて因幡へと跳ね返り、因幡の左肩を切り付けた。
因幡は歯を食いしばり、そのアゴを殴り、仕返しのようにユキも宙で半回転して因幡の右側頭部に回し蹴りを食らわせる。
地面に転がってもすぐに起き上がり、どちらも譲れない戦法を繰り出し、神崎と姫川に割り込む隙はなかった。
「すげぇ…」と神崎。
「人間の動きじゃねえな…」と姫川。
その言葉が聞こえ、不意に躊躇うように因幡の動きが鈍る。
その隙を見逃すはずもなく、ユキは因幡の両肩をつかみ、そのアゴを右膝で勢いよく蹴り上げた。
「ぐ…ッ!」
「聞きなよ、アバズレ。キミは、どこへ行っても仲間はずれだ。ボクと同じように…。ボクはね、キミが許せない…。せっかく女に生まれたのに、あえて自分から男になって、男のフリをして、日々を過ごしてる…。都合が悪くなれば、女の格好をするんだろう? ボクと、おんなじだよ…っ」
その震える声と雨のせいか、仮面が泣いてるように見えた。
「因幡!!」
姫川に声をかけられ、こちらに向かって電車が来ていることに気付く。
「一緒にすんじゃ…っ」
因幡は、自分の両肩から手を離される前に、その両手首をつかみ、思いっきりその仮面に頭突きを食らわせた。
「ねえよっ!!」
ビシ…ッ!
ユキの仮面にヒビが刻まれ、割れる直前にお互いは逆方向に離れ、電車を避けた。
因幡は神崎達のいるレールに飛び移り、電車が過ぎるのを待つ。
いつでも迎え撃てるように構えながら。
電車が通り過ぎると、鉄橋の端に立つユキが立っていた。
うつむいたその素顔を、ゆっくりと上げる。
「「「!!?」」」
前髪だけ白髪で、あとは黒髪。
しかしその顔は、コハルと瓜二つだ。
「母さん…!?」
「キミの弟、春樹君だっけ? そいつも同じ驚き方してたよ…!」
ニィッ、と笑うと、仮面の下で見たギザギザの歯が見えた。
瞳は赤く染まり、視線は神崎と姫川に向けられ、両手の甲に氷の鉤爪を形成する。
「あはは。桃ちゃん、普通の人間に戻ったあいつらも、人質に格下げされてるの、気付いてる?」
「!! やめ…!!」
ユキがなにを考えているのか察した因幡だったが、ユキは氷の鉤爪を神崎と姫川に向かって投げつけた。
「!!」
「チッ!」
姫川はスタンバトンでそれを薙ぎ払おうとしたがすべて薙ぎ払えるわけがない。
地面に叩き落とせば霜柱が2人の体を貫くだろう。
鉤爪の1本が神崎の顔面に迫った瞬間、因幡は右脚ですべての鉤爪を粉々に蹴り砕いた。
「!!」
はっと前を見ると、氷の鉤爪を構えたユキが目の前まで迫っていた。
「そうすると思ったよ。桃ちゃんなら」
ザン!!
交差された氷の鉤爪は、因幡の右脚を切り付け、シロトが宿る右靴を散り散りに引き裂いた。
同時に、因幡の意識は遠くへ飛ばされてしまった。
糸が切れたかのように倒れてくる因幡の体を、神崎が受け止める。
「因幡!! おい!! しっかりしろ!! なに寝てんだ!!」
「なんだ…!? なにが起きた!?」
どれだけ声をかけても、体を揺すっても、因幡は起きない。
「シロトと契約者は一心同体…。桃ちゃんなら起きないよ、一生ね…」
笑いを含めながらユキは告げた。
散り散りになった右靴が宙を舞う。
「…ざっけんじゃねえ!!」
信じられず、神崎は怒りのままに立ち上がってユキに殴りかかろうとコブシを握りしめたが、神崎、姫川、因幡の周囲を取り囲むように数本の氷の鉤爪が突き刺さる。
「そのまま永眠しちゃえば?」
ドッ!!
氷霧を漂わせた氷の鉤爪が、鋭い霜柱へと変化する。
「あれ?」
無惨な光景が広がっているだろうと見たが、そこに因幡達の姿はない。
「ユキ…!!」
「!」
呼びかけられた方向に顔を向けると、因幡、神崎、姫川を肩に担いだ鮫島がそこにいた。
霜柱が発動する前に3人をそこからまとめて担ぎ、間一髪危機を脱したようだ。
ユキは「ちぇっ」と舌を出す。
「あーあ、邪魔が入っちゃったか」
「おまえ…っ!」
「鮫っ!!」
突然の鮫島の出現に驚く姫川と神崎。
トラウマがある神崎は「下ろせコラァッ」と鮫島の肩の上で暴れる。
「ちょ、暴れないでくれ!」
その隙にユキは自分と鮫島の中心に氷の鉤爪を投げつけ、霜柱を立てて壁を作り、「じゃあねー」と逃走した。
「ユキ!!」
せっかく追いついたというのに、また気配が消えてしまう。
下ろされた2人は鮫島に問い詰める。
「おい!! なにがどうなってんだ!! あいつてめーの知り合いか!?」
神崎が胸倉をつかむと、鮫島は一般の女子が惚れ込むような柔らかい笑みを向け、神崎の手をそっと両手で握る。
「神崎君、久しぶりだね」
「話聞いてる!!?」
ゾッ、と悪寒で鳥肌を立たせ、顔を青くした神崎はその手を勢いよく振り払った。
「どうなってるか話せってんだセクハラ変態赤髪野郎」
神崎を背中に庇い、姫川が前に出ると、鮫島は冷たい視線を向ける。
「フン、その憎まれ口も相変わらずだな、姫川君。私に助けられたというのに偉そうに…。……身内でもめ事が起きた。…続きは病院で話そうか」
信用していいのかはさておき、助けてもらったのは事実で、コハルと因幡を病院に連れていくのも同意だ。
因幡は未だに起きる様子はない。
これからどうなるか、なにが起こっているのか知っているのは、やはり鮫島しかいないのだ。
.To be continued