54:何者でしょう?
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「ほら! ほら! ほぉらっ!!」
「うくっ!」
当たっても当たらなくてもいいのか、ユキは氷の鉤爪を投げ続ける。
因幡は右脇腹の傷口を押さえながらそれを避け、続けざまに発動される霜柱も、深手を負わない程度にかわした。
鉄橋の上では逃げ道が限られており、ユキから逃れるのに夢中になっていると、強く打つ雨のせいか、こちらの存在に気付かない電車に轢き殺されてしまいかねない。
また前から別の電車が走ってきた。因幡はすぐに横のレールに飛び移る。
ガリッ!
「ぐっ!!」
着地地点には、待ち構えていたユキが氷の鉤爪を構えて立っていた、振り上げたそれは因幡のアゴを切り付け、赤い2本線をつける。
「限界じゃないの? 桃ちゃん」
「誰が……っ」
すぐに後ろに飛んで距離を置いた因幡は、頭の中で冷静にユキの能力を分析していた。
(近距離にも遠距離にも向いてるのか、あの爪…。厄介だな…。見たとこ…、つーか、食らったとこ…、あの爪はどこかに突き刺さった瞬間、周囲の水分を一気に凍結させちまう…。パワースポットものの見事な霜柱…。これ以上増やすと、この場所だとそろそろ電車が脱線事故起こしちまう)
当然、ユキは因幡を殺すことしか眼中になく、そんな気遣いは皆無だろう。
電車が事故を起こしてしまおうが知ったことではない、と。
時間も惜しく、長引けば魔力が消耗しきってしまい、ユキの思うつぼとなってしまう。
(得意分野(近距離)でいくか)
レールの上の霜柱を蹴り砕いたあと、口元の血を手の甲で拭った因幡は一気にユキに詰め寄った。
「!」
ユキが両腕を上げる前に、因幡はその手首をつかんで動きを封じる。
(もらった!!)
ゴッ!
因幡が右膝を上げ、ユキの腹を蹴り上げた。
「…がっかり」
「!?」
ズドン!
倍返しというように、ユキは因幡の腹を蹴り上げた。
わざと傷口にめり込むように。
「く…っ、か…はっ」
再び込み上げた血を吐き出し、因幡は腹を抱えてうずくまり、ユキはその背中を踏みつけた。
「こっちは完全にクロトをものにしてるんだよ? 中途半端な白ウサギが勝てるわけないじゃん」
「ぅ…ッ」
「桃ちゃんに足りないのはなんだったっけ…。…皮と? 耳と? 魔力の半分と? …尻尾? 全然足りてないじゃん。シロトの原型すらないよ」
指を折って数えたユキは、再びため息をつき、その右肩を蹴って仰向けにさせる。
「っ」
「つまんなーい」
ぐりぐりと傷口を踏みつけ、因幡はその足首をどかそうとつかみながら身をよじらせる。
「ぅッ、あぁああっ!!」
すると、遠くから電車の音が聞こえてきた。
幸いなことに、自分たちがいるレールではない。
「つまんないし、ムカつくから、罰をあげる」
氷の鉤爪を形成したあと、ユキは斜め上を見上げ、因幡はその視線を追って大きく目を見開いた。
これから電車が来るレールの上に吊るされたコハル。
「…おい、待てよ」
「もういらないんだよ、あの女は」
電車が近づいてきた。
見計らい、ユキはコハルを縛るロープ目掛け氷の鉤爪を投げつける。
「母さん!!!」
ブツッ、と切れるロープ。
同時に、電車がユキと因幡の横を通過した。
「…ん?」
コハルの気配がまだ残っているのか、ユキは片眉を上げた。
「!!」
ロープを切られたというのに、コハルは架線柱に吊るされたままだ。
その上を見上げると、架線柱の上に見慣れた2人の人間がいた。
「ふーっ、危ねぇ危ねぇ。これで失敗してたら責任負いかねるからな」
「ナイスだ姫川!!」
姫川はスタンバトンを鞭状に変形させ、コハルの体を縛って助けたのだった。
2人は協力してコハルの体を引き上げ、架線柱の上に載せる。
「神崎…、姫川…っ」
絶望の色に染まっていた因幡の瞳に光が戻る。
ユキは「ちぇっ。来ちゃったよ」と残念そうに言った。
因幡はユキがあちらに気を取られているうちにその足首をつかみ、思いっきり横にぶん投げる。
「!? うわっ!」
レールに肩をぶつけ、「痛たっ!」と呻いた。
傷口を押さえながら立ち上がった因幡は、息を荒くしながらも不敵な笑みを浮かべる。
「こっからだ…。人質もいねぇ、あいつらが駆けつけてくりゃ、オレは、何百倍も強い!」
「…言ってて虚しくならないの?」
「精々、舌噛まねえように黙ってた方がいいぜ」
「てめーか、イカレヤローは!!」と神崎。
「限度を知らねえ嬢ちゃんだな」と姫川。
2人は架線柱から降りてくると、因幡の後ろに立ち、ユキと対峙した。
「おまえら、あいつ男」
「「マジかっ!!」」
女子中学生の制服を着ているので気付かなかった2人。
ユキは「似合うでしょ?」と裾をつかんで生足を見せた。
確かに似合ってるとは思うが、男と知らされたあとだと反応に困る。
「それよか姫川、右腕上げろ」
「あん?」
姫川が言われた通り右腕を上げると、因幡は振り返り際に自分の左手首と姫川の右手首をぶつける。
同時に、姫川と因幡の手首から手の甲にかけてウサギの毛皮で覆われ、手首から伸びる鎖が2人を繋いだ。
“アイシングドロップ・ラビットファー”
「ふぅ…っ」
ゆっくりと時間をかけて因幡の傷口が回復していく。
痛みもじんわりと引いていくのがわかった。
ユキはそれを観察し、なるほど、と内心で呟く。
(…防御力・自己回復力を上げる部分か…)
「神崎!!」
「おう!」
その鎖を繋いだまま、神崎と背中をぶつけ、出現した尻尾と尻尾を新たに繋ぐ。
“アイシングドロップ・ラビットテイル”
さらに、攻撃力を上げる部分。
「…まだ“耳”が足りないね。ようやくボクの5歩…いや、10歩手前ってところかな」
「そのまま勢いつけて背中に飛び蹴りかましてやるよっ!!」
因幡が右足に勢いをつけてユキに飛びかかると、ユキは氷の鉤爪でそれを防ぎ、両腕を交互に突き出しながら因幡の顔面を狙う。
因幡はそれを目で追いながらかわし、ユキのアゴを蹴り上げた。
「っ!」
先程より攻撃が効いてるのは確かだ。
しかし、ユキの口元は笑ったままだ。
不気味さを覚えた因幡は、左膝でユキの腹を蹴る。
レールの上に転がったユキは「あははっ!」と滑稽に笑いながら地を蹴って再び因幡に突っ込んだ。
その前に、姫川の鞭状のスタンバトンがユキの体を縛る。
「!」
「こっちも忘れてんじゃねーぞコラ!」
それを狙って神崎が殴りかかった。
「ふ…っ」
次の瞬間、ユキは鞭を自力で引きちぎり、両手の鉤爪を振り回して2人の胴体を切りつけた。
「ぐがっ!!」
「あぐっ!!」
自分の体を押さえつけ、2人はその場に倒れこむ。
「!! おまえら…!!」
因幡はすぐに自己回復力を2人に集中的に鎖を通じて分け与えた。
その間、ユキはゆっくりと因幡に近づいていく。
「所詮は一部…。3人でちょうどいいくらいなんだよね…。っていうか…、一部同士を繋ぐことができるなら、引っこ抜くことできるんじゃない?」
「…え?」
「だから、巻き添え食らって手に入れちゃったその一部を、シロトに戻すことが可能なはずだよ。桃ちゃんの意思で…。本当は心の隅でわかってたんじゃないの? 頭はまあ賢い方だもんね。抜けてるとこあっても…」
「……………」
「ある人の分析を言ってあげるとね、桃ちゃん、キミは、孤独がなによりも嫌いだ。「冷酷兎」とか呼ばれて、群れないと思われがちだけど、全然だよ。仲間に裏切られて捨てられても、仲間を求めてしまうのがその証拠。巻き込みたくないと思っても、思うだけで終わってるでしょ? 口にはしても、強くは拒絶しない。だって独りは嫌だから。自分が特別で、バケモノみたいな存在だと知って、それを2人に知られたくないと黙ったままだ。けど、自分のバケモノの一部を取り込んだと知って本当は嬉しかったはずだ。境遇を共にできるのだから。いざとなったら一緒に戦ってくれる。だから、このままでいい。だって独りは嫌だから!」
はっと気づくと、目の前にはユキの顔が覗き込んでいた。
「黙れよ…っ!!」
歯を食いしばって右脚を振り上げると、ユキは体を反らしてかわす。
「ウサギは寂しいと死んじゃうの~」
「黙れっつってんだろが!!」
回し蹴りを食らわそうとしても、動きを読んでいるのかあっさりとかわされた。
「あんまり興奮しない方がいいよ」
「!」
指をさされた方向を見ると、神崎と姫川が苦しげに呻いていた。
彼らの体は今、焼けるような熱に襲われている。
「…!?」
「あいつらは普通の人間だよ。悪魔の体だったら注ぎ込まれる魔力には多少は耐えられるけどね。ましてや桃ちゃんの体には膨大な魔力が秘められてる。普通の人間では耐えられないくらい。桃ちゃんは気を遣いながらあいつらに力を貸したり借りたりしてるみたいだけど…、いつまでそのわがままに付き合わせるつもり? 全力でやらないとボクには勝てないよ?」
「……………っ」
挑発に乗るまいとするが、心まで誤魔化すことができないのか、神崎と姫川は一層呻きを上げた。
動きを止めた因幡は、小さく笑い、尻尾と手首の鎖を持つ。
「オレを…、ナメんなぁああっ!!」
意を決した因幡は鎖を思いっきり引っ張り、2人からシロトの一部を解放した。
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