53:私達、付き合ってます。
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逃亡した神崎に呆気にとられる因幡と姫川。
はっと先に我に返った因幡は、「なにしてんだバカ!」と姫川の背中を軽く蹴った。
「っ、おま…っ」
「ちゃんと最後まで追いかけやがれ!!」
「あぁ!?」
「オレが追いかける前に行けっつってんだよっ!! オレにかけっこで勝てんのか!?」
「…!」
「早くしろ」と因幡が再び蹴りつける前に、舌を打った姫川は走り出した。
野次馬をかき分け、神崎を追う。
それを見届けた因幡は、大きなため息をつき、コインロッカーに背をもたせかけ、「見せモンじゃねーぞコラ」と未だにこちらを傍観している通行人を睨みつけて追い払った。
すると、2つの人影がこちらに近づき、目の前で立ち止まる。
顔を上げると、夏目と城山がそこにいた。
再び大きなため息をつく。
「…なに、おまえらも追いかけてきたのか?」
「まあね。姫ちゃんのヘリに便乗させてもらっちゃった」
(ヘリで来たのかよ…)
因幡は呆れて返す言葉もなかった。
どこで降りてきたのか。
「因幡ちゃんもツンデレだよねー。本当は、姫ちゃんが追いかけてきて嬉しかったクセに」
「……………」
途中から見ていたクセに、と因幡はしかめっ面をする。
「…初めは姫川を焦らせるだけだったのに…、オレ…、途中からあの2人にどうしてほしいのかわからなくなってた…」
「そんな深刻に考えちゃって…。単純な話、あの2人に仲直りしてほしかっただけでしょ? 自分が悪役買って出ることで」
そう言って笑いながら夏目は因幡の頭をぽんぽんと撫でた。
「そう言われてみると…」と因幡の視線が横に流れる。
「まあ、因幡ちゃんから見ると…、夫婦喧嘩の仲裁に入ろうとする娘…ってカンジだったし」
「うんうん」
城山まで頷き、因幡はその例えに「はぁ!?」と声を上げた。
「娘が親に「付き合って」とか言うかよっ」
「だって…」
「大きくなったら、ママのお婿さんになるーっ」
「そーかそーか」
夏目の想像に登場する、娘・因幡と母・神崎。
想像して噴き出す夏目。
クラスメイトも別段騒がず、和やかな気持ちでそれを温かく見守っていたらしい。
「オレ…、周りからそんな目で見られてたのか?」
「うんうん」
「頷くな城山っ!!」
恥ずかしさ倍増だ。
「神崎君と姫ちゃんも、そんな気持ちだったんじゃないかな」
そう言われてみると、確かに受け流し方がまさにそんな感じだ。
「はぁ~っ」
一気に恥ずかしさで赤面した因幡は、息をつくとともに両手で顔を覆い、その場にしゃがみこんだ。
赤い耳が隠れていない。
「―――で、神崎君と本当に付き合う気はあったの?」
夏目が前屈みになって尋ねると、因幡は「ん―――…」と両手で顔を覆ったまま顔を上げる。
「最初は姫川に見せつけるだけのつもりだったけど…、オレのやり方がダメなのか、ホント、すごくドキドキするってのもないし、普段通りって言うか…。神崎のことは好きだけど、たぶん、そういう「好き」じゃなくて…」
「姫ちゃんのことも同じくらい好きで…」
「!」
「だから、因幡ちゃんは「娘」から上にはなれないんだよ。というか、なりたくないんだよね?」
自分でもわからない悩みなのに、夏目はどうしてこうも見透かしたように言うのか。
しかもほとんど的確なもので、否定の言葉も出てこない。
「夏目、なら、因幡にとってオレ達の位置はどうなるんだ?」
「お兄ちゃん2人。城ちゃんはオカン系のお兄ちゃんだねー」
即答する夏目と、「オカン系?」と首を傾げる城山。
これもけっこう的確だ。
因幡は立ち上がり、「じゃあ…」と2人に向き合う。
「オレは一度帰るから…」
「報告は任せて」
「追いかけろ」と言ってこっそりついていくような野暮なことはしない。
因幡は夏目と城山にあとを任せ、帰ることにした。
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