53:私達、付き合ってます。
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「はぁ…っ」
動くことさえ億劫になる体を引きずりながら、どうにか電車から目的の駅までたどり着いた神崎は、体の熱に呼吸を乱しながら、改札を抜け、改札口付近にあるコインロッカーに背をもたせかけた。
そこから見える空の色は、冬至が近いせいかだんだん薄暗くなりつつあった。
「くそ…ッ」
調子が悪いと気付いたのは朝からだった。
最初は昨日の疲れからきたものだと思っていたが、午後を過ぎた辺りで調子は悪化してしまい、ついには問題の尻尾まで出現してしまった。
そのあと、クラスメイトのうち、特に因幡と姫川にだけは悟られてなるまいと、早々にカバンを持って帰宅したのだった。
ズボンの膨らみは、学生服の上着を腰に巻くことで隠している。
よりにもよって、昨日の治し方を聞いたあとで起きた症状。
ノーネーム事件の時といい、自身のタイミングの悪さを呪う。
(コレを治すには……)
姫川に、どこでもいいから口付けてもらわなければならない。
思い出し、神崎の頬に赤みが帯びる。
(自力で…治せねえのかよ…っ)
舌打ちし、家の者に迎えにきてもらおうとスマホを取り出した。
その手首を、横から誰かにつかまれる。
「家に帰っても治らねえぞ」
「!! 因幡…っ」
神崎が乗る電車に乗り遅れないよう全力疾走してきたのか、こちらも息が荒かった。
神崎はつかまれた手を振り払うと、「構うなよ…」と弱々しい声で言う。
「…苦しそうなクセに、なに言ってんだ」
「うるせぇ…っ、こんな尻尾さえなけりゃ…っ。つ…っ!」
尻尾を引っ張ると、やはり神経が通っているのか痛みが走る。
(……………)
罪悪感を覚えながら、因幡は「…姫川に頼むか?」と尋ね、神崎は激しく首を横に振った。
「冗談じゃねえ…!」
「……じゃあ…」
因幡はその右手をとって自分の口元に近づけ、神崎を上目遣いで見る。
「オレが…治そうか?」
「は?」
「オレでも治るらしい」
以前、シロトから聞いたことだった。
口付けるのは、因幡でも可能なのだ。
ただし、姫川と違って与える魔力の濃度は濃く、神崎が中毒になってしまう可能性があるから今まで姫川に任せていた。
「因幡…」
手の甲にキスしようとした時だ。
因幡の肩が不意に後ろからつかまれた。
「!」
「姫川…」
こちらは車かヘリで来たのか、汗ひとつかいてない。
「……オレがやる」
「はあ? 今更なんだよ」
ふざけるな、と言いたげに因幡は姫川の手を肩から払い落とし、「謝る気にでもなったか?」と向かい合う。
「オレがなんで謝らねえといけねーんだよ。おまえらに黙ってあの学院に行ったことか?」
「それはもういい。……気付いてねえなら邪魔すんな。てめーがそうやって気持ちがフラフラしてるなら、オレが神崎もらっちまうから」
その宣言に2人の目が大きく見開かれた。
((男のセリフ…っ))
たまに性別を確認したくなってしまう。
「いい加減にしろよ、因幡」
「てめーがいい加減にしろ。なんで追いかけてきたのか無自覚か。いつまでも自分自身に言い訳してんじゃねーぞっ! てめーの気持ちくらい、はっきりさせてから追いかけてこいよ! 姫川ってそんな女々しい男だったのかよ!?」
「あ゛あ!?」
姫川は因幡の胸倉を乱暴につかみ、声を荒げた。
ガン垂れる2人に挟まれ、神崎は困惑しながらも2人を止めようとする。
「おいおまえら…っ」
ふと横目でそれを一瞥した因幡は、「じゃあこうしようぜ」と切り出す。
「神崎、おまえどっちにキスされたいんだ?」
「あ!?」
「この際だ。はっきりさせておこうぜ。神崎、因幡とマジで付き合う気があるならしてもらえばいいだろ!」
「な、なに言ってんだ…」
「どうなんだ神崎! 傷つかねえから正直に言ってみろ!!」
「言ってみろ神崎!」
2人に迫られ、神崎はたじたじになり、返答に苦しんだ。
通行人たちの注目の的にもなっている。
「神崎!!」
「神崎!!」
追い込まれた神崎は、目をぐるぐるとさせたあと、2人に背を向けて半泣きになって全力で走り出す。
「知るか―――!!! バカヤロォ―――ッッ!!!」
神崎一は逃げ出した。
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