53:私達、付き合ってます。
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翌日の石矢魔校舎にて、HR前、神崎は因幡の席の前に立ち、机に頬をつけて死人の顔をしている因幡を見下ろしていた。
「死んでる…っ!!?」
魂が抜けたようだ。
ところどころに絆創膏や包帯が見え、今なら、古市にさえ負けそうである。
城山と夏目も何事かと席に近づく。
「どうしたんだ?」
城山が尋ねると、因幡はその状態のまま語る。
「昨日…、帰ったあと、母さんに長々と昨日のことを語り…」
*****
夜中に帰ってきたあと、姿を消すことができる“ハイドカード”をもらう代わりにサンマルクス修道学院に行った時のことを数時間かけてコハルの仕事部屋で語っていた。
「姫川君に婚約者!!? それでそれで!!?」
「―――で…、神崎が…」
「うんうん!!」
「母さん、またこの話繰り返さないとダメ?」
話が終わったかと思えば、「もう1度最初から話して」とせがまれた。
これで何度目だろうか。
「待って今話がまとまるとこだから!!」
嬉々として、ネタばかり記したメモ帳に書き込んでいく。
次に記載されるのは絶対この話だろう。
さすがに因幡は、自分と神崎が付き合うことを姫川に宣言したことは報告しなかった。
色々面倒なことを言われるとわかっているため、最後は、婚約者のことでケンカを始めた2人だったが帰るまでに仲直りして事なきを得た、ということにした。
その伏せたところを余計に問い詰められたが。
*****
それだけではない。
「母さんからようやく解放されたあと、寝ようとしたところで稲荷から電話がかかってきやがって…、いきなり約束の抗争につき合わされて…」
*****
家の前に、バイクに乗った伏見が迎えに来たあと、ほぼ強制的に抗争場所に連れていかれてしまった。
約束なので文句は言えず、とっとと抗争相手を潰して家に帰宅して爆睡したかった因幡だったが、相手は1つのギャングチームだけではなかった。
「黒狐に、オレ達“藩血派亜魔(パンチパーマ)”の恐ろしさ見せてやれぇ!!」
そのパンチパーマの数、50人。
「ああん!? 黒狐の首とんのはオレら“汚娑化江頭(おさげーず)”だコラァ!!」
そのおさげの数、30人。
「はぁあああ!!? どいつが先にその首持ち帰んのか勝負だオラァァァ!! “歩煮威手獲斗朱朱(ポニーテールとシュ●ュ)”全員でリンチだあああああっ!!!」
そのポニーテールと●ュシュの数、48人。
「多いわああああああっっ!!! ついでにカオスっっっ!!! ファンの方々に怒られるよっっ!!」
こんなに抗争相手がいるとは聞いていない。
騙されたと思った因幡は、薄笑みを浮かべて「受けてたとう」と抜かしている稲荷を睨みつける。
「約束は約束」
「ぐ…っ」
稲荷の背景に真っ黒なキツネを見た。
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねえ!! とっとと突撃しやがれ因幡!!」
「先陣を…切れ」
「うるせ―――っ!!!」
偉そうに言う豊川と伏見に苛立ち混じりに返した因幡は、ほぼヤケクソに真っ先に抗争相手に向かって走り出した。
抗争は当然、黒狐の圧勝だ。
勝負がついた頃には朝方になっていた。
*****
「帰ったら帰ったで…、早起きしてた春樹に…」
*****
「おー、桃姉おかえりー!」
なぜかテンションの高い春樹に迎えられた。
「…なんで朝からそんなテンション高ぇんだよ…」
イラッとした因幡は眉間に皺を寄せながら尋ねる。
そんな空気を読まず、春樹は「ふふん」と自慢げに鼻を慣らし、ポケットから折りたたまれた手紙を取り出した。
「昨日姉貴が帰ってきたら言おうと思ってたんだけど、姉貴すぐに家出ちまっただろ? …実は、オレにもついにラブレターもらったっ!!」
「―――で?」
疲れ切った因幡の反応は薄い。
「で!!“明日の放課後”…、つまり今日!“大事な話があるので校舎裏で待ってます”って!」
色気のある話のなかった春樹に、思わせぶりな手紙が届いてテンションも非常に高い。
因幡の苛立ちを募らせるには十分だった。
このまま無視して部屋に戻ろうとした時だ。
「桃姉も、ちゃんとした女の格好をしたら超美人なんだから、そのまま恋ぐらいすれば…」
ブツン…ッ
浮かれたあまりそんなことを口走った春樹は、肌に触れた殺気にハッとした。
*****
「オレの怒りと全力を叩きこんでやった」
「それは弟が悪いな」
そのまま因幡は休憩どころか一睡もできずに学校に来たのだった。
そして今の状況である。
思い出して口から魂が出ている。
(((それでも律儀に学校に来るのか)))
神崎組はその屍を見下ろしながら同時に思った。
本当に不良かと疑問に思う。
「あ? なんだ、スカートで来るかと思えば、ちゃんと学ランで来てるじゃねーか」
声をかけたのは、登校してきた姫川だった。
因幡の後ろにある自分の席にカバンを置き、死にかけている因幡を見下ろし、嘲笑する。
「やっぱ、あの宣言はジョークだったか」
ピクッ、と因幡の耳が動き、身を起こして肩越しに姫川に振り返った。
その口元には、こちらも嘲笑の笑みを浮かべている。
「オレは、やると言ったら、やる男だぞ」
「女になるんじゃなかったのかよ? …神崎と付き合って」
「は!? どういうことだ因幡!!」
それに大袈裟に反応したのは城山だ。
「ああ。もちろん」
頷いた因幡は神崎の肩をつかみ、姫川に見せつけるように引き寄せる。
神崎は複雑そうな顔をしていた。
少ししてその手首を夏目がつかむ。
「その前に、ちょっと因幡ちゃーん?」
「ん?」
夏目の笑顔が近づいてくる。
「どーしてそんなことになってるの?」
「え」
「昨日は姫ちゃんが通ってたっていうあのお金持ち学園に行ったらしいじゃん? それは聞いたよ。…けど、なにそれ、なんでそんな面白そうなことになってんの? オレ聞いてないんだけど。………オレに対しての挑戦状?」
「えと…っ」
夏目の迫力のある笑顔に戸惑う因幡。
「夏目怒ってますよ」
「ああ…」
城山に耳打ちされた神崎は頷く。
そのあと、因幡は姫川に「マジで見とけよコノヤロー」と指をさして挑発したあと、夏目に廊下へと連行されていく。
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