52:許嫁って何それ美味しいんですか?
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石矢魔町に戻るヘリの中、空中にいるため逃げ場もなければ、因幡の落ち着きもなかった。
向かい側に座る姫川の威圧感も半端ない。
「……………」
もういっそヘリから飛び降りたかった。
「オレ来るなっつったよな?」
つっこまれたのはやはりそのことだ。
尾行に関しては罪悪感はあるが、男鹿達には打ち開けて、自分達には隠されていたことに怒りを感じていた。
「来るな…とは聞いてねえよ」
「因幡…」
「確かに尾行したのは謝るよっ。ごめんなっ!! けど…、オレ達の方が付き合い長いんだし、オレ達だって巻き込んでくれてもよかったんだ! 大体、隠すならちゃんと隠さなかった姫川も悪い!「関係ねぇ」の一言でオレが諦めるとでも思ったか!」
「開き直りのうえに逆切れかよ。ガキが」
険悪な空気を漂わせる因幡と姫川に、因幡の隣に座って腕を組んだ神崎が割り込む。
「姫川…、確かに、尾行したオレ達も悪いが、中途半端に誤魔化したおまえも悪い。…もうそれでいいだろ。……つか…、あの女と…、将来マジで結婚すんのか? …許嫁って言ってたけど」
急に語尾が弱くなり、視線は一瞬泳いだ。
そこで、「ふふん」と因幡は鼻で笑う。
「いいなづけってアレだろ? 良い菜っ葉の漬物…。だから良い菜漬け!!」
自身ありげに言う因幡に、姫川がつっこむ。
「現実から目を背けるな。「づ」じゃねえ。「ず」だ。許嫁って言っても、所詮は建前だからな…。……神崎、気にしてんのか?」
それを聞いて、神崎は「はっ」と嘲笑する。
「……てめーみてぇなゲスヤロウのどこがいいんだか。あの女の将来を気にしてやってんだ。振るならちゃんと振ってやれ。だからあんな必死に向かってくるんだろが。…つか、早くリーゼントに直せボケ。こっちが落ち着かねえよ」
それもあって直視することができずにいた。
「うっせー、ほっとけ。……あいつとオレの間に、てめーが口挟むな」
「―――!!」
不意に、神崎は胸に痛みを覚えると同時に口元の笑みも消える。
どちらも座っているのに、思いっきり突き飛ばされた気持ちになった。
どうしてそんな気持ちになったのか。
苛立った神崎の顔が険しくなり、「あ?」と声を荒げ、姫川を睨む。
今度は姫川と神崎に険悪な空気が漂い始めた。
「ちょ…っ」
一度頭を冷ました因幡に焦りがこみ上げる。
「てめーは、そうやって「関わるな」「口挟むな」って言うが…、てめーだって人のこと散々引っ掻き回すくせに棚上げしてんじゃねーよ!」
「あ? なにキレてんだ。オレが詮索すんのは、相手の弱み握るためだ。それ以外になんの意味がある!? 恋人同士とかならまだわかるけどな」
「こ…っっ」
そこで神崎の脳裏に、ファーストキスを奪われたシーンを思い出し、不意に赤面してしまう。
「…!」
今、神崎がなにを考えたのか察した姫川は、失言だったと悔いた。
「……言っとくが、てめーにキスしたのは、アレだ…。尻尾が生えて具合悪くなった時は、オレにキスしてもらうと治るって…、因幡が言ってた」
「!」
そんな話は聞いてない、と神崎は隣の因幡を軽く睨んだ。
因幡は、そういや一言も言ってなかった、と思い出して思わず顔を逸らした。
「だから、あの時は事故だったが、オレがしてやったら治っただろ。…てめーにそういう気持ちがあったからやったとか、そんなんじゃねーから安心しろ。仮にそうだったとしても、それはきっと、オレ達の中に入り込んだ、変な力のせいに違いねえ」
「……………」
呆ける神崎。
「おい…っ」
それに対し、そうじゃねえだろ、と因幡は指摘しようとしたが、姫川は、黙れ、と言うように因幡に鋭い眼光を向けた。
「恋人どころか、ダチでもねえオレ達が好き合うなんてあると思うか? ありえねえだろ? …つーか…、なんの話してたんだっけ?」
「姫川…っ」
まだなにか言い分がある因幡に、目を伏せていた姫川は視線を上げ、因幡に「余計なこと言うんじゃねえ」と凄む。
「てめーらは明らかに不法侵入犯してんだ。制服も強奪したもんだろ? それだけでもオレに弱み握られてること忘れんな」
「ぐっ…」と唸る因幡に、姫川は勝ち誇った笑みを浮かべて言葉を続けた。
「…それにしても、改めて見ると…、因幡、けっこう似合ってんじゃねーか。おまえら並ぶとお似合いカップルみてーだな。桃ちゃん」
「姫川…! てめぇ…」
好き勝手言う姫川に唸る神崎は、そのまま立ち上がって姫川につかみかかろうとした。
……ブチッッ
その時、唐突に、血管が切れた音が聞こえた。
ブチ切れたのは、因幡だった。
立ち上がろうとした神崎の右腕を両手でつかんで座らせ、その肩をつかんで自分に引き寄せ、引きつった笑みを姫川に向ける。
「お似合いカップル…だとよ、神崎…。だったら、オレ達、このまま付き合っちまうか」
「「…………は?」」
思わぬ発言に呆ける2人に、因幡は「な?」と神崎に同意を求めた。
「恋をして女になった…って久我山は言ってた。生まれた時から男として育てられた奴がだ。だったら、オレも恋すれば女になれるってことだろ? 神崎に女にしてもらおうじゃねーか。姫川、てめーが望むならな」
口元は笑っているが、その眼差しは完全に姫川に対し敵意をむき出しにしていた。
「え―――と…」
(……どうして、こうなってんだ?)
神崎は突然のことに、頭がついていかなかった。
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