52:許嫁って何それ美味しいんですか?
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「最初にこの気持ちに気付いたのは、小学一年生のことだった」
その言葉で、遠慮なく姫川をボコろうとしていた神崎は動きを止める。
性的な意味だと思っていたからだ。
(早ぇ)
女として目覚めた早さに古市も驚く。
「以来、気持ちを隠してキミと遊ぶのは辛かったよ。だが、そんな私を見かねておじい様が言ってくださった。姫川財閥と縁談がまとまれば安泰じゃん。オッケーオッケー」
「おじい様軽いなっ」
「そして私は決断をせまられた。男として生きるか、女として生きるか。だが言い出せなかった。言って今までの関係が壊れるのが怖かったんだ」
「……………」
身を起こして血を拭った因幡は、久我山の気持ちが理解できた。
今は神崎組と姫川にしか自分が女であることを知られているうえで付き合っているが、他の石矢魔のメンバーが同じとは限らない。
好意が募れば募るほど、その相手を騙しているという罪悪感が増していくことも、痛いほどわかる。
「姫川先輩は…、聞かされてなかったんですか?」
古市は肩越しに姫川に振り返って尋ね、こちらも身を起こして血を拭う姫川は答える。
「許嫁がいることは聞かされていたが、まさかそれが目の前のダチだとは思わねぇだろ」
「案の定、キミとの関係は壊れた。あのオンラインゲームのあとのことだ」
「当然だ。このオレを、10年以上も騙してやがったんだ」
久我山の口から、本当は女性であることが明かされることもなく、姫川は自分で調べて知ってしまったのだ。
(―――…。裏切りって…、そういうことか)
姫川が久我山に対して許せなかったのは、そのことだったことに古市は気付く。
「オレはな、久我山…。あとにも先にも、ダチと呼べるのはてめぇだけだったんだ」
すっくと立ち上がった姫川は、そう言って久我山に向いて首の骨を鳴らした。
「決着をつけようと言ったな」
「やっとその気になったか」
「……受けねーとエレベーターが動かねーんだろ? 望むところだ」
姫川と久我山は互いに向き合い、構えた。
文字通り、一対一の勝負。
手出しすることは許されない。
「本当は、この学園のトップになってからと思ってたんだがな…」と呟く久我山。
姫川が負ければ、石矢魔を去り、久我山と結婚しなければならない。
因幡達に見守られ、緊迫した空気に包まれた時だ。
「「「「「!!」」」」」
不意に、ガクン、と大きく床が揺れた。
エレベーターが動き出し、上へ上昇し始めたからだ。
その拍子に、久我山含め、その場にいたほとんどのメンバーがその場に膝をつく。
「…なっ」
「なんだ…!?」
「エレベーターが、急に…っ」
メンバーが驚く中、久我山ははっと前を見ると、姫川のコブシが目前で止められていた。
姫川はほくそ笑み、コブシを引っ込んでサングラスを指先で上げる。
「な―――んつって…。オレが正々堂々闘うとでも思ったか?」
エレベーターは地上に到着し、扉が開くと、そこには蓮井が待っていた。
エレベーターを動かしたのは、蓮井だった。
あらかじめ連絡を取っていたのだろう。
だから姫川は不意に動いたエレベーターに動揺しなかった。
「ごくろう」
「お疲れ様です。竜也坊っちゃま」
蓮井はエレベーターから降りた姫川に頭を下げる。
蓮井の姿に、SP達も「あの男…」「蓮井だ…」とざわめいた。
未だに膝をついたままの久我山は、はっとして、そのまま去ろうとする姫川の背中に呼びかける。
「待て姫川っ!! またそうやってキミは、何も言わず私から逃げるのかっ。そんなに、女の私が嫌いかっっ!!」
オンラインゲームのあとも、久我山は姫川と接触しようとしたこともあった。
だが、女性とバレたあとだったのか、姫川は久我山からの連絡を一切断ち切っていた。
「…いいえ、久我山様。それは違います」
否定する蓮井を見ると、蓮井は口元に優しい薄笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「なぜならば、今の闘い、竜也坊っちゃまは勝つことも出来たのですから」
「蓮井っ。余計なこと言うな。行くぞ」
肩越しに振り返った姫川がたしなめると、蓮井は「失礼しました」と言って再び歩き出した姫川のあとについていく。
「……………」
神崎は姫川と久我山を交互に見、舌を打って髪を掻き乱した。
(クソ…ッ。なにモヤモヤしてんだ、オレ…)
「神崎…、オレ達も帰ろうぜ。……ついてきてくれてありがとな」
神崎の肩を軽く叩いた因幡は、視線を逸らしながらそう言ってスマホを取り出す。
「じゃあ、迎えを寄越すから…」
その手を、いつの間にか戻ってきた蓮井がスマホごと優しく握りしめる。
「!」
「帰りは、ぜひ送らせてください」
「え…」
「竜也坊っちゃまもお話があるそうで…」
「「……………」」
きっちりと覚えていたことに言葉が出ない2人。
先程のことが終わったあとなのに、居た堪れなかった。
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