52:許嫁って何それ美味しいんですか?
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「おぉおい!! 死ぬって!!」
男鹿が絵画を背負ったまま、“ゼブルブラスト”で天井を突き破って地下闘技場のリングに飛び出した頃、地下に取り残された因幡達は落下してくる瓦礫物に気を付けながら出入口付近に逃げる。
尻餅をついていた久我山は、天井を見上げ、茫然と立つ姫川の背中に声をかけた。
「…姫川…、彼は一体…何者だ…?」
その力を見せつけられ、普通の人間でないことは一目瞭然だった。
「……………」
瓦礫の山を眺めていた姫川は、ゆっくりと久我山に振り返る。
「……………さぁ……」
とても返答に困惑気味な表情だ。
「舎弟だよね!?」
「とりあえず後を追いかけないと…」
「おい、出口どこだ!」
因幡に続き、神崎が言うと、姫川は「おまえらはどうやって入ってきたんだ」と呆れていた。
それから来た道を走りながら戻り、地下闘技場へ出る頃には、ヒルダひとりですべてが終わるところだった。
地下闘技場最強の4人―――四拳王がほんのわずかな時間でヒルダの傘に叩きのめされる。
それを見ていた観客は、その無双ぶりに喚声を湧かし、会場を満たした。
「……これは……」
「うちの拳豪達が、こうもあっさりと…」
それを見た久我山達は唖然としていた。
「勝負あったようだな、久我山…」
「やっぱ、ヒルダさんはサイコーっスね」
「ヨメに全部片してもらってんじゃねーか」
(オレの分も残してほしかった…)
それを平然と眺めていた、姫川、古市、神崎、因幡の4人。
その人間離れした光景にはとっくに慣れてしまっていたのだった。
好戦的な因幡も戦いに参加したかったのだが、どちらにしろ女子生徒の格好ではできない。
「確かあっちに搬入用のエレベーターがあったよな。使わせて貰うぜ」
「そんなんあるなら言ってくださいよー」
姫川を先頭に、因幡達もそれに続き、久我山の横を通過する。
「……っ。まっ…、待てっ!! 気にならないのか!? なんなんだ本当に彼らは! およそ人間とは思えないぞ!」
それを聞いた4人は立ち止まり、肩越しに振り返る。
なにを今更、といった顔だ。
「怪物夫婦」と姫川。
「魔物カップル」と神崎。
「悪魔っス」と古市。
「魔王」と因幡。
「………っ」
平然とした顔ではっきりと答えられてしまい、ふざけた返答でもなく、久我山は返す言葉もなく唸る。
「あいつらのやることにいちいち驚いてたら、身がもたねーよ。2度も校舎全壊させてたし」
「マンションも消し飛ばしてましたもんねー」
姫川と古市は思い出しながら言う。
「あいつら来るとこって、絶対なんか壊してくよなー」
「さっきも地下壊してったし…」
続いて神崎と因幡も言った。
「―――それに、うちには他にも怖えーのがゴロゴロいんだよ」
姫川はそう言い捨て、再び歩き出す。
久我山は、因幡達を引き連れて去っていくその背中を見つめ、不敵な笑みを浮かべた。
男鹿とヒルダとも合流し、大きな絵画を運ぶにも十分広いて入用エレベーターに乗り込んだ因幡達は、エレベーターを起動させ、地上へ上がるのを待ちながら、ようやく一息つく。
「やれやれ、これで一段落だな」とヒルダ。
「まったく疲れたぜ」と姫川。
「帰ってコロッケ食いてーな」と男鹿。
「オレら帰りどーする?」
「豊川達にまた頼んで…」
帰りのことを相談し始めた神崎と因幡に、姫川はすかさず「おまえらはあとでオレと帰れ」と凄んだ。
「「……………」」
そんな中、古市はひとり配当金の紙を握りしめ、ほくそ笑んでいた。
J・Jと男鹿の戦いで、持ち金500円をすべて男鹿に賭け、その上、坊主頭の生徒と男鹿の戦いでも男鹿に賭けたため、一気に283万2千円に増えたのだった。
それを嬉しそうに掲げ、帰る前に換金しようと心に誓った時だ。
突然、配当金の紙に、パチンコ玉程の穴が空いた。
銃痕だ。
「「「「「!!」」」」」
驚いて銃弾が飛んできた場所を見上げると、管理用通路の欄干からこちらをスナイパーライフルで狙っているSPと、欄干に立つ久我山がいた。
先回りをされたようだ。
「最後の勝負だ」
久我山はそう言って欄干から飛び降り、姫川達の前に着地し、ブレザーを脱いでシャツの腕をまくった。
「一対一(サシ)でやろう」
「おいおい、しつけーな、てめーは」
執拗な久我山に、姫川は引き笑いを浮かべる。
「負けたら絵もキミも潔く諦めよう。ただし、私が勝ったら、今すぐ結婚してもらうぞっ」
その発言に、周りの空気が固まった。
「は?」と男鹿。
「けっこう?」と神崎。
「けっこ…」と因幡。
「血痕?」とヒルダ。
「いやいや、そんなことよりオレの283万…って、えぇっ!!? えぇ!? なに!? どーゆー話!? ゲイッ!?」と古市。
全員の反応に、事情を知っている姫川は困惑した顔をしながらサングラスを指先で上げた。
そこでSPの女子生徒が説明する。
「久我山様は女ですよ。正真正銘の。というか、姫川様とは幼少の頃から決められた、許嫁でございます」
久我山は小恥ずかしいのか、わずかに頬を染めていた。
男鹿、古市、神崎、因幡は絶句の表情を浮かべ、驚きのあまり声を上げる。
「「「「えぇえええ―――っ!!?」」」」
(なん…だと…?)
因幡は口端から、早くも血反吐を垂らしていた。
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