51:地下へ参ります。
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神崎と因幡がようやく姫川達に追いついた頃には、姫川達は自動ロックの前で男鹿達が戻るのを待っている様子だ。
通路は薄暗く、因幡と神崎は曲がり角がなくても距離を置いて身を潜めた。
空間は狭いため、会話も耳に入ってくる。
壁に背をもたせかけている姫川は、自身の右手首につけた腕時計を見て時間を確認した。
「…………男鹿が中に入って30分か。中はそんなに広いのか? 久我山」
向かい側の壁に背をもたせかけている久我山は顔を上げ、「…いや」と否定し言葉を続ける。
「往復するだけなら15分もかからん。何事もなければ…だがな」
そこでヒルダが尋ねる。
「…悪魔が出ると言ったな。貴様はそれを見たことがあるのか?」
「あぁ。以前、中に入った時に一度だけ。クスクスとこちらを見て笑っていたよ」
「……他には?」
「?」
問い詰めるヒルダに久我山は疑問を浮かべ、サングラスをかけたSPの女子生徒は「あなた久我山さんを疑っているの!?」と責める。
「なにか心当たりがあるんですか?」
古市の問いにヒルダは答える。
「絵に悪魔がついているとすれば、おそらくそれは具象悪魔。大魔王様の下僕だ。坊っちゃまに危害を加えることはないと思うが」
「けっ。くだらねーな。どいつもこいつも悪魔だなんだのと。おおかた、あのバカのことだ。どーせ、中で迷ってんだろ」
姫川がそう言うと、古市は「ハハ。ありえますね」と苦笑した。
「変わらないな、キミは…。金以外なにも信じようとしない」
久我山がそう言うと、姫川は「当然だ。金は裏切らねーからな」と返す。
「久我山…、唯一オレを出しぬいたことのある人間として一つ忠告しておくぜ。オレは受けた借りは必ず返す。こんなクソ学園のてっぺんに登りつめたくらいで調子に乗るなよ」
「……………」
そこで古市は、気になっていたことをおそるおそる尋ねてみる。
「あの…、気になってたんスけど、姫川先輩って、もしかしてこの学園に通うはずだったんスか?」
すると、姫川と久我山はそちらに振り返った。
「あ?」
「何を言ってるんだ、キミは。通っていたんだよ。中等部までは、ここにね」
「え?」
それを聞いた因幡と神崎も驚いて目を見開いた。
そこでSPの女子生徒がサングラスを押し上げ、「…私が説明いたしましょう」と語り始める。
「そもそも、久我山様と姫川様の出会いは、新緑が眩しい5月も半ばの幼稚園でした。姫川様は当時から変わらず」
『あ? なんだてめーこら、いくらだ』
「ちょっと待ったぁぁぁっ!!」
回想に出てきたのは、リーゼント頭でアロハシャツを着た幼稚園児だった。
「待ちません」
「いや、待ちましょーよ!! おかしーでしょ、どー見てもっ!!」
「おかしーのはおまえの頭です」
「あいつの頭だよ!! 幼稚園児と言うにはあまりにもだよっ!!」
「とにかく最初、そんな姫川様を見た久我山様は、少しとまどい怯えておられました」
「当然の反応だよ!!」
((オレもつっこみたい…っ!!))
因幡と神崎は壁を引っ掻いて耐えていた。
神崎はついでに笑いも堪えている。
「懐かしいな…。サンマルクスは、幼稚園からのエスカレーター式だからね。リーゼントという言葉をあの時初めて知ったよ」と久我山。
「相当早くに知らなくていい言葉を知りましたね」と古市。
「姫川家は代々リーゼントを生業にしてきた家柄だからな。男子はへその緒を切られると同時にリーゼントにされるのさ」
「リーゼントを生業ってなに!?」
家柄の説明をした姫川に、古市はまた勢いよくつっこむ。
「やかましいぞ、古市。話が進まんではないか。ここぞとばかりにはりきりおって」
ヒルダがたしなめると、古市は「うっ…、だ、だって…」と言葉を濁す。
「それで、どういうきっかけで絵のことを知った?」
ヒルダが促すと、姫川が語りだす。
「…あれは、忘れもしねぇ、中3の夏か、秋か春か冬か…」
「ボケないでっ」
姫川と久我山は、当時流行のオンラインゲームにどっぷりハマっていた。
ただのゲームではく、賭場対戦という、金品を賭けて戦う、裏サイトのゲームだ。
ネット上の相手は様々で、共通点といえば金と暇を持て余した者ばかり。
そこで2人は、着々と勝利を重ねて荒稼ぎし、マンションの上階を買い占めた。
それが、古市達をゲーム対戦に招きいれた、あのマンションだ。
今は男鹿に木端微塵にされて跡形もないが。
「…!!」
その話に耳を傾けていた因幡は、そのマンションで見つけた写真を思い出す。
姫川と一緒に写っていた人間…、それが久我山だったのだ。
(あいつ、どこかで見たことあると思ったら…)
神崎の家で宿泊させてもらったとき、友人もいずれは赤の他人となる、と話してその写真を破いた姫川が脳裏をよぎった。
姫川は話を続ける。
マンションを買い占めたあたりから、姫川と久我山の名が裏サイト上に知れ渡り、対戦する相手も数が減っていった頃だ。
彼らのもとに、一通のメールが届いたのだ。
送信先は、ソロモン商会。
そんな名前の組織は聞いたことがなかった2人だったが、賭けの対象である悪魔の肖像の噂は知っていた。
持ち主が次々と非業の死を遂げるという、呪いの絵画。
2人は好奇心から、ネットで仲間を集め、約束の時間にゲームを始めた。
相手は拍子抜けするほど弱く、姫川達は難なく勝利したが、相手は再戦を挑んできた。
この時すでに他のオンラインの仲間には、絵の画像が送り付けられていたそうだ。
そして、再戦と同時に急に仲間割れが始まり、ゲームの戦場で殺し合いが始まり、後味悪くゲームは終了した。
参加していた仲間達は、手の平を返したようにネット上で姫川と久我山のことをこきおろし、姫川達は築いた地位をすべて失った。
その直後、マンションのインターフォンが鳴り、ドア越しに宅配業者の声が聞こえ、本物の絵が届いたことが直感でわかった。
不気味なタイミングだ。
あとはドアを開けて受け取るだけだったのだが、久我山はドアへと向かう姫川を引き止めた。
それでも受け取ろうとする姫川に、久我山は実力行使に出た。
スタンガンで気絶させたのだ。
そして、久我山は姫川が気持ちよく気絶している間に、絵を持ち帰ったのだった。
「出し抜いたってわりには随分乱暴な。もっと知略的なコトをそーぞーしてました」
まさかの粗暴な手に、話を聞き終わった古市がそう言うと、久我山は「うるさいだまれ」と返す。
「ひでー話だ、まったく」
「でも、なんとなくわかりましたよ、これで。姫川先輩がお金以外信じなくなったわけも。この学園じゃなく、石矢魔に来た理由も」
先程の話が、姫川がねじまがった原因だと思ったのだろう。
そんな古市に、姫川は「いや」とサングラスを押し上げて答える。
「石矢魔を選んだのは、単にリーゼントが似合いそーだったからだ。常々思ってたんだよねー。オレの居場所はここじゃねーって」
「「「今までの話なに!?」」」
面白すぎるほど単純な理由だ。
行きつく先はまさかのリーゼント。
これには耐え切れず因幡と神崎もつっこみに参加した。
古市は被った声に「ん?」と疑問を浮かべたが、因幡と神崎は互いの口元を押さえ、息を潜める。
(今、なんか聞き覚えのある声が…)
「では姫川、貴様は、絵を見たことがないのか?」とヒルダ。
「オレが見たのは、ネットに出まわった粗い画像だけだ。すぐにそれも消されちまったがな」と姫川。
「…どんな絵なんですか? 結局…。そこまでして見ちゃいけない絵って」と古市。
「肖像だよ、ただの」と久我山。
「あぁ…。ただの女の肖像だ。びっくりする程きれいな、ただの女の肖像だ」
そして、しばらくして、男鹿が無事に戻ってきた。
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