51:地下へ参ります。
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悪魔の肖像を取り返すために、男鹿はリングの上に立つことになった。
久我山が選んだファイターとの戦いに勝てば、悪魔の肖像を返すとのこと。
姫川達はスタンドの空いてる席に座り、それを見物する。
目の前のリングでは、男鹿の対戦相手が他の対戦相手と戦っているところだった。
「J・Jエルリック。今日無敗のチャンプだ。見かけによらず技巧派で沈着冷静。うちの抱えるファイターの中でもトップクラスの猛者といえる」
久我山が姫川達に説明した褐色の外国人の男―――J・Jと戦っている相手は、歯を折られたのか、口元を手で押さえながら両膝をついて呻いていた。
観客が「いいぞー」「へし折れー」と煽ると、J・Jは相手が戦意喪失にも構わず、近づいてその左腕をつかみ、肘に自身の膝を当てて力を込める。
ボキィッ!
明らかな鈍い音と、相手の悲鳴が会場内に響き渡る。
同時に起こる喚声。
「ああやって観客の声に応えるパフォーマンス力も一級。キミの舎弟とやらがどこまで闘えるか見物だな」
久我山の冷静な説明を聞きながら、古市は、先程聞こえた骨の折れる音に顔を青ざめていた。
その頃、因幡と神崎は、その会話が聞こえる後ろの席に座っていた。
こちらは呑気に、キャンディーを咥え、ヨーグルッチを飲みながら観戦している。
男鹿の出番が回ってきた。
上半身半裸で腕に包帯を巻いた男鹿がリングに入ると、フェンスのドアが閉められ鍵をかけられる。
新たなチャレンジャーに喚声が湧き上がると、久我山は立ち上がって渡されたマイクで観客達に言う。
“皆様、お喜び下さい!! 本日初めての飛び入りです!! なんと彼は、石矢魔という名もない不良校の一年生。齢にして弱冠16歳です。よってレートは、本日の最高3776倍とさせて頂きます。皆様、存分に賭けをお楽しみ下さい!!”
だが、今日無敗のチャンプと高校生だ。
観客のほとんどが無駄金を犠牲にすまいと渋る。
「賭けないの?」
「ハハハ。冗談…」
「ありゃあダメだろ」
「まるで大人と子供ね」
「こりゃJ・Jの演出に期待ですな」
「そうですなぁ」
「せめて片目くらい潰してもらわんと」
「いや、わしは久々に「だるま」がみたいのぅ」
聞こえる嘲笑混じりの異常な会話に、古市は耳を疑った。
「確認しておくが」
姫川がそう言うと、久我山はそちらに目を向ける。
「この勝負にうちの後輩が勝ったら、例の絵は返して貰えるんだな?」
「―――あぁ。そうだが? 話がうますぎて信用できないかい?」
「負けた時の条件を聞いてねぇ。これじゃ賭けは成立してねぇだろ」
「負けるということは、キミが大事な後輩を失うということだ。それで十分賭けは成立すると思うが…?」
「おまえがそんなタマかよ。このオレ様を騙してまで手に入れた物だろ。何を企んでる…?」
そう問われ、久我山は薄笑みを浮かべ、意味ありげな間を置いてから「…なにも」と答える。
「あの―――…、なんなんスか、その絵って…。そんなに貴重な物なんスか?」
古市が尋ねると、久我山は答える。
「悪魔の肖像は、いわゆるいわくつきの絵画だ。持つ者に巨万の富をもたらすとも、死をもたらすとも言われている」
それを聞いた因幡は、名の通り、悪魔が関わっている肖像なのだと思い、不安がよぎった。
それに自分たちが関与していいものかと。
「お、始まるぞ」
神崎が言って、リングを見る。
試合開始の合図がかけられると同時に、
パァン!!
男鹿は右脚のハイキックをJ・Jのアゴに炸裂させた。
勝負は一瞬でついた。
J・Jの体がうつ伏せに倒れ、会場内は沈黙に包まれる。
観客にとってはまさかの番狂わせに、司会役も驚きを隠せず、はっとして「勝者、チャレンジャー!!」と発すると同時に、喚声も湧き上がった。
続いて、坊主頭の生徒も男鹿に挑発されるままにリングに上がったが、
ゴッ!!
「ここがてめぇの墓場だ」と言い切れずに、右頬を殴られ、こちらも一撃で勝負がついた。
「すっきりしたな」
「あ、移動するぞ」
男鹿が勝ったので、約束通り、絵を返してもらうため、久我山を先頭に姫川達はそれについていく。
男鹿が抜けたことで、スタンドは「勝ち逃げだ」とブーイングの嵐だ。
荒れに巻き込まれる前に、因幡と神崎も席を立って急ぎ足であとを追いかける。
「やれやれ、こっちも忙しいな」と神崎。
「ここまで来たらとことんつけてやる」と因幡。
尾行はいいが、隠れる場所もない直線状の通路ばかりで、あとを追うにつれてその距離も遠くなる。
すっかり会場からも離れてしまい、辺りは無音だ。
足音を立てることさえ許されない。
「あっ!!」
曲がり角を曲がると、姫川達は自動ロックのかかるドアの向こう側へと行ってしまった。
ドアが閉まる前にダッシュした因幡だったが、ドアに触れる手前で閉まってしまい、「あ―――っ!!」と叫ぶ。
中で厳重に閉まる音を聞き、その場にへたり込んだ。
「うわ。開かねえ」
神崎は押したり引いたりするが、ドアは固く閉ざされたままだ。
暗証番号を入力しない限り、開かない仕組みになっている。
ここまで来て逃がしてしまうとは。
因幡は恨めしそうにドアを睨みつける。
(神崎と協力して、“ラビット・テイル”で破壊しちまうか…!)
しかし、実行するほど因幡は愚かではない。
破壊すれば警報音がなるのはお約束だ。
「因幡…、ここまでみたいだな…。…蹴破るか?」
「いや……」
頭を悩ませた時だ。
少しして、向こう側からいきなりドアが開かれた。
「「「……………」」」
どこかで見たことのあるおじさんが出てきた。
「ん? クガちゃんのオトモダチ?」
首を傾げるおじさんに、判断力のいい因幡はすぐに立ち上がって困った顔を作った。
「そうなんです。久我山さんに用があったのですが、ここの暗証番号を忘れてしまって…。とても大事な用なのですぐに追いかけたいのですが…」
「ああ、だったら、どーぞ。迷うから気を付けてね」
「ありがとうございますっ。行きましょ、神崎君っ」
「お…、おう…」
急に女の子らしい態度になった因幡に鳥肌を覚えつつ、神崎は因幡とともにドアを通った。
同時に悪人の笑みを浮かべる因幡。
「楽勝だったな☆」
「誇らしげにすんな」
まさか騙した相手が総理だとは思わないだろう。
さて、ここは一度迷えば2度と出られなくなる地下迷路。
総理も、久我山達に発見されなければどうなっていたことか。
姫川達とは完全にはぐれてしまい、案内をする人間もいないため、追いかけようもないと思われたが、神崎は頭に地図が入っているかのようにさくさくと因幡の前を進んでいく。
「おまえなんでそんな自信満々に進めんの?」
「こっちな気がするから」
「…あ」
シロトの一部を体に取り込んでいる神崎と姫川は、意識すれば互いの位置がわかってしまうのだった。
それを思い出した因幡は、はぐれないように神崎の後ろについていく。
(姫川探知機だな)
連れてきてよかったと心底思った。
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