51:地下へ参ります。
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探す手間が省けたが、そこからヘタに動けなくなった。
「やっぱり来てた…」
幸い、本人達はこちらの存在に気づいていない様子だ。
「―――ま、転校っつっても、一時的な編入扱いだからな。用が済んだら、とっととズラかるぞ。オレもあまり長居したくねぇ」
姫川はそう言いながら自販機でビンのジュースを出し、蓋を開けて飲む。
「―――って聞け、コラ」
男鹿と古市はいくつも並んだ自販機に興味津々だ。
「うはっ。見ろ古市、この自販機、キャビア売ってるぞ、キャビア!!」
「つーか金入れるトコねーな。どーすんだ?」
それを聞いた姫川は、「…全部タダだ」と教えた。
「マジか!?」と驚く男鹿。
「おいおい、スゲーぞ男鹿。フランス料理Aコースだってよ」
自販機で売られていたそれを見つけた古市は、口元を左手で押さえて笑いを堪える。
それを見た男鹿は露骨にバカにするように笑った。
「ブハハハハッ。自販機でどーすんだっっ。金持ちアホだアホ。押してみろよ古市!!」
「よっしゃ」
冗談交じりで古市がボタンを押した途端、いきなり両サイドの自販機が開き、コックとギャルソンが出てきた。
「え?」
ギャルソンはその場でテーブルを用意し、コックが作った料理を並べていく。
ご丁寧に、花瓶まで。
座らされた古市の首にナプキンが下げられ、コックはグラスにジュースを注ぐ。
「ボルドーの64年物でございます(ジュース)」
てっきりインスタントで出てくるものだと思っていた男鹿と古市は、本格的な調理とコックたちに、引き笑いしか出てこなかった。
「あっぶねー…。オレもあれ気になってたけど押さなくてよかったぁ…」
眺めていた因幡は、心底ホッとしていた。
「アホか」
「え…、えーと、先いってるわ、オレ…」
救いがたい状況の古市に、男鹿は一応声をかけて行こうとする。
「待って!!」
すると、遅れてヒルダが男鹿達のところへやってきた。
「なにをしておる。さっさと大魔王様の探し物をみつけにいくぞ。…む」
そこで古市の現状が目に入った。
「古市…、貴様はなにをしにきたのだ」
「違うんです、ヒルダさんっ!! これは…、うまっ!! これうまっ」
弁解しようとしたが、その料理の美味しさに感想が飛び出す。
「舌平目のびっくりムニエル春のそよ風風でございます」
丁寧な口調で説明するコック。
「やだー、あの人」
「午前中から」
「いやしいわね」
遠巻きに見ていた女子生徒達はクスクスと笑っていた。
(―――ちっ。アホが。めいいっぱい目立ちやがって…)
すっかり目立ってしまった古市に、姫川は内心で舌を打った。
古市を置いて行ってもそこから離れたほうがいいと判断したが、その前に背後から声をかけられる。
「あれあれー」
「姫川君?」
振り返ると、3人組の男子生徒がいた。
六角形眼鏡をかけた生徒、アゴ髭の生徒、坊主頭の生徒だ。
同じ金持ちなのだろうが、見た目はどちらかと言えば素行が悪そうだ。
「そのリーゼントは、やっぱり姫川君だ」とアゴヒゲの生徒。
「うはっ。本当だ、姫川財閥!! なにしてんの?」と坊主頭の生徒。
(ちっ…。来たか…)
無視したいところだったが、「おう…」と返事を返す。
「何々? なんでここに? もしかしてキミもここに通うことになったの?」
「あんなにバカにしてたのにねー」
(知り合いか?)
知ったような発言に因幡は疑問を浮かべた。
それでも、あまり友好的とは言えない態度に、苛立つものがある。
「…ちょっとした用でな。すぐに帰るさ」
「そーなの? 残念」
「そっちのはお仲間?」
坊主頭の生徒が男鹿達に目をつけて言うと、姫川は「まぁな」と答える。
「あれ? おまえ、今どこに通ってるんだっけ?」
「……。石矢魔だ」
少し間を置いて坊主頭の生徒に答えると、坊主頭の生徒は他の2人の生徒に振り返り、肩を竦ませて「石矢魔だ」と姫川の口調を真似し、爆笑する。
「マジウケる!!」
「なにカッコつけてんだよ!」
「カス校じゃねーか!」
知ったふうに馬鹿にして嗤う3人組に、因幡はキレて飛び出してなるまいとぐっと怒りを抑え込んだが、隣の神崎は立ち上がるとズボンから金属バットを引き抜き、臨戦態勢に入った。
ぎょっとした因幡は「待て待てっ。ていうか、どっから出したんだソレ!」と裾をつかんで座らせようとする。
「カスかどーか、あいつらにいっぺん教え込んでやろうと…」
「オレ達尾行中だぞわかってんのかっ」
ここで飛び出したら余計にややこしくなる。
焦った因幡だったが、男鹿が坊主頭にガン垂れたことで、神崎は「やれ、男鹿っ」と小声で煽った。
だが、冷静な姫川はその肩をつかんで「相手にするな、行くぞ」と止めた。
「あれだろ、石矢魔っていうと、関東でも有名な不良校らしいぜ」
「こわーい」
眼鏡とアゴヒゲの生徒は未だに嗤っていた。
それから、未だに食事中の古市に近づいて絡む。
「じゃあキミも不良君ってわけだ」
「いや…、オレは」
「どーだい? うちの料理はうまいだろ」
そう言われ、「そーすねー」と笑って返すと、アゴヒゲの生徒も「ハハ」と笑ったが、次の瞬間、坊主頭の生徒が古市の頭をつかみ、
「とっとと食えよ貧乏人がっ!!」
「………っ!!」
古市の顔面を目の前の皿に叩きつけた。
「!!」
「おいっ」
悪口ならまだしも、度の過ぎた仕打ちに今度は因幡が立ち上がった。
一度冷静に戻っていた神崎は、因幡の手首をつかんで止める。
男鹿は坊主頭の生徒と向かい合い、睨み合った。
2人の周りに険悪な空気が漂う。
「なんだこら。貧乏学校だけかと思ったか? 不良がいんのは」
すると、坊主頭の生徒はポケットからバタフライナイフを取り出し、男鹿の顔面目掛け横に振った。
反射的に後ろに飛んで避けた男鹿だったが、その際に毛先が切られてしまった。
反撃しよう構えた時だ。
「待て男鹿っ!!!」
姫川が怒鳴ると、男鹿は動きを止めた。
いい判断だ、と不敵な笑みを浮かべる坊主頭は姫川に振り向く。
「ついてこいよ、姫川…。久我山さんがお呼びだ」
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